第6話 手放す
元婚約相手の命令で、私は国境まで連れて行かれて解放される予定らしい。解放と言うと聞こえはいいけれど、ようするに放り出されるということ。
今まで頑張ってエルメノン王国の結界を維持し続けてきたのに、どうして私は追放されてしまうのでしょうか。
皆のために命を削るほど努力してきたのに、私のことは誰も助けてくれないのか。
少しだけ期待していた。ここに居る兵士の誰かが、助けてくれるんじゃないかと。王子の命令に逆らって、どこかで解放してくれるんじゃないかと。
だけど、誰も助けてくれない。それなら、私も頑張る必要はないのね。これから、国外へ追放されてしまうんだから。
今までエルメノン王国のために頑張ってきたけど、私はもう疲れた。
10年以上もずっと、文字通り身を削って王国を護ってきた私は誰からも感謝されなかった。身に覚えのない罪を着せられて、国から追い出すような王族が収めている国なんて、もう命懸けで聖域を維持し続ける価値もないと思う。
それが、私が馬車の中で考えて出した結論。王国の聖域を手放す。今ここで。
直前まで迷いがあった。本当に、手放してもいいのだろうか。今は私一人で聖域を維持しているから、これを手放したら聖域は消えてしまうと思う。そして、無関係な民が危険に晒されるかもしれない。でも、やっぱり、私は……。
何度も繰り返し、考えた。どうするべきか。
「ッ!?」
覚悟を決めて、とうとう私は聖域の維持を手放した。その瞬間に、体の奥から力が湧いてきた。今まで生きてきた中で感じたことのない、凄まじく強い力だった。
体の疲労が一気に吹き飛んで、調子がすこぶる良くなったことを自覚できた。体が軽くなり、頭もスッキリしている。
今なら、何でも出来そうよ。そんな風に思えるほど、自分は無敵だと感じていた。
聖域の維持を手放しただけで、こんな変化が起きるなんて。一瞬で、世界が明るくなった。
そうか、私は今まであんなに重いものを背負って生きてきたというのね。そして、これからは自由に生きていける。なんて素晴らしいことでしょうか!
「フフフッ」
「おい、静かにしろ」
「えぇ。分かってますわ……フフッ」
「……チッ。気味の悪い女め」
思わず笑いが溢れてしまった。だって、仕方ないじゃないですか。やっと私は解放されたんですもの。
注意されても思わず笑ってしまいそうになるが、我慢する。落ち着いて、じっくり喜びを噛み締めましょう。こんなに嬉しいことはない。こんなに幸せなことはない。
聖域が消えてしまった王国が今後どうなるのか、少しだけ気になった。まぁでも、教会と他の聖女たちが何とかするでしょう。
私はもう、十分に働いてきました。もう頑張れないから、後は他の皆に任せます。私は、ゆっくり休ませてもらいますから。
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