第3話 冤罪

「サブリナ、私は君のためを思って言っているんだよ」

「もちろん、分かっておりますパトリック様。私は、貴方様に感謝しておりますわ」

「分かってくれるか、サブリナ!」

「はい、私の――御方ですから」


 2人は密着して、イチャイチャしている。彼らは、周りの様子が見えていないのだろうか。卒業パーティーの真っ最中だというのに。そもそも、突然意味も分からずに怒られた私は放置されたままだけど。


 やっぱり、いくら考えても怒られた理由が分からない。心当たりが一切ない。


「一体、何の話ですか?」

「何の話だと!? まさか、まだ君は知らないフリをするというのか!? それとも自分の罪を自覚していないというのかッ!?」


 小首をかしげて問いかけたら、ものすごい怒気を含んだ目で見られながら言われた。手元に剣があれば、斬り殺すほどの勢いである。というか、何故そこまで怒る? 本当に身に覚えがないんだけど……。


 彼の怒る姿に恐怖は感じなかった。だけど、面倒ではある。真実も知りたかった。なぜパトリック様が、そんなに怒っているのか。


「罪とは、なんのことでしょうか? 私には分かりません」

「……クローディ! 貴様はここに居る可憐なサブリナの教科書を破ったり、集団で無視したり、学園にある噴水に彼女を突き落としたり、ドレスにワインをかけて恥をかかせたそうだな。あげくの果てには階段からも突き落として、彼女を殺そうとしただろう!! そのせいで、彼女は大怪我をしたんだぞ!!」


 どれもこれも、身に覚えのない事ばかりだ。どうして私が犯人になっているのか。意味が分からないし、不愉快だわ。


 流石に反論しなければいけないと、私が口を開こうとした。けれども、その直前にサブリナという被害者を名乗る女性が、強引に割り込んできた。


「パトリック様、いいんですッ! 確かに、クローディ様に背中を押されて階段から突き落とされた時は、すごく怖くて痛かったけれど……。でもでもクローディ様は、パトリック様を私に取られて嫉妬していたんだと思います! だから、彼女のことを許してあげて下さい!」

「あぁ、サブリナ! 君は、なんて情に満ちた女性なんだろうか! 君を怪我させた奴のことまで気にかけて……! 君こそ、真の聖女に相応しい女性だな」


 再び、2人でイチャイチャし始める。勝手に私の心情を妄想して、納得しないでほしい。というか、話が通じなさすぎる。もう無理かもしれない。この人達との会話を諦めたい。反論する気持ちも失せてしまった。


 愛人と好き合うのは結構だけど、私を巻き込むのは勘弁してほしい。


 私はただ、結婚して聖女の役目を次に引き継ぎたいだけ。聖域を維持する役目を、他の人に任せたい。その目的が果たせるのなら、パトリック様はいくらでも私以外の女性とイチャイチャすればいい。


 そう思っていたら、パトリック様が私を睨みつけてきた。


「クローディ! この偽聖女め! お前は、王位を継ぐ私に相応しくない! よって婚約を破棄し、国外追放とするッ!」

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