第2話 卒業式のパーティー
教会から任命されて仕方なく、エルメノン王国の結界を維持し続けてきた。護国の聖女だなんて大げさな名誉を与えられた私は、早く役目を終えたいと思っていた。
そして今日は、待ちに待った学園の卒業式。これで一歩、自由になれる日が近づいたということ。
卒業を祝うパーティーが開かれて、私も参加していた。
今日で学園を卒業できるのは嬉しいけれど、それを祝うパーティーに参加するのは憂鬱だった。聖女の役目が大変で、学園にはほとんど通うことが出来なかった。そのせいで数年も長く学園に在籍することになってしまって、他の学生とは年齢も離れているから、友達と呼べるような人もいない。
あまり学園には良い思い出はないし、そもそもパーティーだって好きじゃない。
パーティーに参加している卒業生の子息子女たちは、今日という特別な日を祝って泣いて喜んでいる。そんな彼らは、輝くような美しい衣装に身を包んでいた。
光沢のある黒の礼服で身を包み、首元や手首に装飾品を身につけている子息たち。赤や黄色の派手なドレスに着飾っている令嬢たち。煌びやかなドレスを着ている彼女たちは、みんな美しかった。
それに比べて私は、ドレスではなく地味な教会の礼服を身に纏っている。髪の色に合わせた白い生地で作られた礼服を着ている私は、きっとこの会場の中で浮いているだろう。
この服は、教会から支給されたものだ。必ず着用するようにと、指示されていた。それが、護国の聖女として相応しい格好らしいから。
一応、パーティー用に仕立てられているらしいけれど、周りと比べると凄く地味な服。この服装が、より一層私の疎外感を引き立てているのでしょうね。
服装だけでなく体型も、小さくて子供のようにしか見えないから。余計に目立っているのを感じていた。
今までに何度かパーティーに参加したことがあった。その時も、教会の礼服を着て参加していた。だから慣れている。けれど、今日ぐらいは華やかなドレスを着て参加したかったな。美しさで目立つ必要はないけれど、地味で目立ちたくはなかった。
早く終わらないかしら。そう思っているのは私ぐらいかしら。
もうしばらくパーティーは続きそうだから、この時間を活用しよう。聖域の維持に集中して、問題がないかチェックしておく。こういう定期的な確認が、大事だった。
「……ディ、おい、クローディ! 貴様、聞いているのか!?」
「はい?」
突然、耳元からパトリック様の声が聞こえてきたので私は聖域の点検を中断した。
彼は、いつものように怒りの感情を含んだ声を私にぶつけてきた。けれど今日は、いつもと比べて何倍か怒りの感情が強い気がする。
怒気を含んだ声が聞こえてきた方へ、私は視線を向ける。案の定、パトリック様が不機嫌そうな表情を浮かべていた。
卒業を祝うパーティーの最中に、どうして彼は怒っているのかしら。不思議に思いながら、彼の顔を見つめた。
「またお前は、私の話を聞いていなかったな!?」
「申し訳ありません」
どうやら私が、しばらく彼のことを無視していたようだ。私は、謝罪の言葉を口にすると頭を下げた。よく見ると、周りの人たちが私たちのことを見ている。
パトリック様の声が、注目を集めてしまったようだ。
私の婚約相手である、エルメノン王国の王太子であるパトリック様。パーティーに参加する時は、彼と一緒に会場へ行く。だけど、パーティーの最中に彼はあちこちに足を運んで、色々な人と話をしていることが多かった。私は彼の邪魔をしないよう、会場の片隅で放置されていることが多かった。
なので今日も、パーティーが終わるまではずっと放置されるものだと思っていた。まだ終わっていないのに、話しかけられるなんて珍しかった。だから、反応が遅れてしまった。
「謝るのは、それだけか……?」
「え?」
どういうことか、分からなかった。他に何か謝らなければいけないようなことを、私はしてしまったのだろうか。必死になって考えたけど、何も思いつかなかった。
「それだけかとッ! 私は、聞いている!」
「……」
再び、パトリック様は怒鳴り声をあげた。威圧するような声で言われた私は、体が震えた。会場中にも響き渡り、そこにいる人全員が驚いた様子でこちらを見ている。
そんな集団の中から突然、桃色髪の令嬢が飛び出てきた。そして、パトリック様に抱きついて叫んだ。
「パトリック様! 私のために怒らなくても良いのです!」
「しかしな、サブリナ! この女には、ちゃんと言い聞かせておかないと」
「私は、大丈夫です。彼女は、ちょっと間違ってしまっただけで。今回の件は、私が我慢すれば……」
「サブリナ、なんて健気な……。こんな可憐なサブリナに嫌がらせをするだなんて、やはりこの女は心が腐っている! 自分の行いを理解させるためには、やはり厳しく言って聞かせなければッ!」
私の目の前で、二人の会話が繰り広げられていく。どうやら私に関することのようだけど全く状況が理解できない。なぜ私は、婚約者から非難されているのだろうか。彼と親しくしている女性は、一体誰なのか。
私は困惑しながら、2人のやり取りを眺める。ただ呆然と見守るしかなかった。
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