追放された聖女のお話~私はもう貴方達のことは護りません~
キョウキョウ
第1話 聖女の事情
エルメノン王国は、聖女の力によって護られていた。
聖女だけが展開することが可能な聖域により、魔物が近寄ることの出来ない特別な土地に変わる。
その聖域がある限り、王国の民は魔物の被害に恐れることなく平和に暮らすことが出来るのだ。
皆が安全に暮らせているのは、聖女である私たちのおかげだ。自惚れでもなんでもなく、それが事実だった。
しかし、聖域を維持し続けるのは簡単じゃない。聖域を維持するためには、膨大な精神力を消耗し続ける、聖女の力が必要だった。
王国全体を覆う聖域を維持し続けるためには、数十人もの聖女の精神力が必要だと言われていた。
だけど私は、聖女の聖域を1人で維持することが可能だった。膨大な聖女の力を、生まれながらにして有していたから。いろいろな事情により、私は1人で王国全土の聖域を維持する役目を任されてしまった。
幼い頃に聖女の役目を授かった私は、聖域の維持という責務を全うするべく努力をしてきた。最初は、数十名の聖女と一緒に聖域を維持していた。だから、幼い私でも余裕があった。皆で分担して聖域を維持するのは、非常に楽だった。
振り返ってみると、この頃は本当に良かったと思える環境だった。
とある1人の聖女が結婚するため、聖域維持の役目を終えることになった。だが、後任を担えるような聖女が育っていなかったらしい。
少し前から、聖域を維持するだけの力を持つ聖女が不足していたそうだ。なので、1人抜けた状態で聖域を維持することになった。まだ、その頃は余裕があったから。後任が育つまで、しばらくの間だけ少ない人数で聖域を維持することになった。
すぐに、次の聖女が引き継ぐはずだった。後任の聖女は、なかなか現れなかった。それどころか、聖域を維持していた他の聖女たちも結婚をするために、次々と役目を終えていった。だけど、後任は居ない。
聖域を維持する役目を担うはずの聖女は、どんどん減っていく。
気が付いた時には、私一人だけでエルメノン王国全土の聖域を維持していた。一番若かった、私だけが残されてしまった。
聖域の維持を放棄することは出来ない。聖域が無くなってしまったら、王国の民は魔物の被害に苦しむことになる。だから私は、頑張って聖域を維持し続けた。
1日も休むことを許されず結界に力を注ぎ続けて維持して、このエルメノン王国を私は1人で護り続けてきた。
今になって考えると、かなり無理していたんだろうと思う。成長期なのに無理して聖域を維持するために力を行使してきたせいなのだろう、明らかに私の身体は成長しなかった。他の人に比べて、私の身体は極端に小さかった。
もう17歳を過ぎて、大人を名乗れるぐらい成長したはずの私の身体は、10歳の子供よりも小さいままだった。
それに肌や髪の色艶が良くなくて、全体的にくすんでいた。常に体調も悪い。鏡を見る度に、自分の姿を見てため息が出てしまう。
もっと綺麗になりたかった。ちゃんとした大人の女性になりたいと思っていた。
これが、今まで1人で聖域を維持し続けてきた代償。
それでも私は聖域の維持を止めることは出来ない。聖域の維持を止めてしまうと、エルメノン王国の民が魔物の脅威に晒されることになる。だから私は、代償を払って頑張り続けるしか無かった。
聖域を維持する役目を引き継げる聖女を、もっと増やしてほしい。私1人だけに、責任を押し付けないでほしい。私は教会に訴えた。
けれども、教会は聞き入れてくれなかった。今は大変な時期だから、聖域の維持を任せられる聖女を育てる余裕が無いと言われた。
そんな筈はない。
実力は不足しているけれども、人数を集めて分担すれば聖域を維持できるぐらいの力を持った聖女が教会に何十人も居た。その子達が役目を引き継いでくれたら、私も少しは楽になるのに。
私が訴え続けても、その子達が役目を引き継いでくれることはなかった。それが、教会の判断だった。なぜ彼女たちは、役目を引き受けてくれないのか。なんで教会は彼女たちに、役目を引き継がせないのか。私には、分からない。
あなた1人だけでも聖域を維持することが出来ている。今は、無理に体制を変える必要はない。そう言われてしまった。
そして今日も、1人だけで聖域を維持し続ける。この酷い状況は、いつまで続くのだろうか。私が死ぬまで? そんなのは絶対に嫌だ。
こんな私にも、わずかな希望があった。結婚すれば、聖域維持の役目を次の聖女に引き継ぐことが出来る。
先代の聖女は、結婚するために聖域維持の役目を私に引き継いだ。他の聖女たちも結婚するため、次の聖女に引き継いで役目を終えていった。
結婚した聖女は、聖域維持の役目を次代の聖女に引き継ぎ、自由になれる。聖域を維持する聖女のしきたり。私も、例外ではないはずだ。
私には、婚約相手が居た。先代聖女の息子で王太子でもあるパトリック様だ。彼と結婚すれば、次の聖女に役目を引き継ぐことになる。その頃になれば、流石に教会も後任の聖女を用意してくれるはず。新たな聖女たちに、後を任せれば良いだけ。
学園を卒業して、私が18歳になる前まで辺りには結婚することになるはず。彼と結婚することが出来れば、私は幸せになれる。
その日が訪れるまで、私は聖域の維持を頑張るだけなんだ。あと少しだけ頑張れば、私もきっと。
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