第2話 本人交えての被害者の会

「ふーん、優雅に黄昏ねぇ……」


「死にたいのでしょうか」


 突然屋上の扉が開かれ、ゾロゾロと物騒なことを呟く女子二人組が入ってくる。

 明らかにやばい連中だということはすぐに分かった。『死にたいのでしょうか』とか言いながら登場するJKが聖人な訳が無い。


「……何の用か聞かないと駄目だよな?」


「当たり前でしょ。舐めてんの?」


「舐めてません」


「舐めてんだろっ!!!!」


 金髪女子が俺の胸倉を掴み、宝石のように輝いた瞳で睨み付けてくる。こっちも先程の少女とは全くタイプが異なるものの、顔はかなり整っていた。

 残りの黒髪ロングの方も金髪女子の後ろに立ち、腕を組みながら尋問してくる。


「貴方、あの子がどんな気持ちで告白したか分かっていますか?」


「いや、俺如きに分かる事じゃないよ。知った気にはなれない」


「へぇ、謙虚なんだね?じゃあ教えてあげるけど、あの子はね、あんたが思ってる以上に本気だったんだよ?本気でアンタのことが好きだったの」


「それは勿論知ってる」


 じゃないと、あんなに感情的になって涙を流したりなんてしないだろう。


「それなのに、その態度は何なのですか?やっぱり貴方クズでしょう。あの子のお話を聞く限りではいい人そうでしたが、顔だけですね」


「てか、ムカつくんだよ。何なの?何がしたいの?色んな子振ってさ」


「本当最低」


「ゴミ」


「クズ」


「ヤリチン」


「クソ野郎」


「刺された後に生き返ってもう一回刺されて死ね」


「死んで詫びろ」


「……ちょっと言い過ぎだろ。途中俺二度殺されてなかったか?」


 思わず突っ込んでしまった俺。

 だって、あまりにも酷い罵倒の数々だったから。流石の俺も心が折れちゃう。

 しかしそれが悪かったらしく、二人組は更に逆上してしまう。


「はぁ!?こっちは被害者なんですけど!?私の告白も断ったのはそっちでしょ──あっ……」


 金髪女子は怒鳴りつける途中で、とんでもないことを口走ってしまった。

 慌てて口を塞ぐも、時すでに遅し。

 相方の方がとんでもない目付きに変わる。


「は?」


 これはマズイ。非常にマズイ。

 何か見覚えがあると思ったら、この女子、俺が先月に告白をお断りした人間の一人だった。

 恐らくその時の復讐も兼ねてこうして殴り込みに来たのだろうが、つい口を滑らしてしまっている。もはや修羅場は免れないだろうが、頼むから俺抜きでやってくれ。

 ていうか、もう一人の方も見覚えがあるような……。


「どういうこと?貴方コイツに告白してたんですか?」


「い、いや……違う……」


「違くないでしょ。貴方、あの子が泣きながら走っていくの見て、すごい怒ってましたよね?奴に地獄すら生温いと感じさせる程の苦痛を味わせるって言ってましたよね。嘘だったんですか?」


「俺の居ないところでなんてことを……」


 戦慄する俺を置いて、二人は勝手に会話を進めていく。


「だ、だって仕方ないじゃん!私だって好きだったし、振られてももっとアピールするつもりだったのに、あの子も狙ってたから……。振られたのを機にもう一回接触したかったのよ!!」


「はぁ!?何ですかそれ!!私は我慢してたのに、何で貴方だけ──あっ……」


 またしてもとんでもないカミングアウト。


「あっ……」


 そうだ思い出した。よく見たらこの子も、俺に告白してきた人間の一人だ。

 勘違いしないで欲しいが、俺は告白してきた女子の顔も覚えていないようなクズという訳では無い。

 名前も知らないような子ばかりに告白されるから、記憶に残りづらいだけだ。


「なんなの!?あんたも同じだったじゃん!」


「し、仕方ないでしょ!好きなんですから!」


「開き直らないでよ!!」


 二人の喧嘩はどんどんと発展していき、ついには取っ組み合いになってしまう。

 止めたいのは山々だが、俺が割り込めば、余計に悪化してしまうのは明らかだ。ここは即座に退散するのが吉だろう。


「失礼します……」


 忍び足で横を通り過ぎようとするも、金髪女子の方に首根っこを掴まれる。


「ふぎゅ」


「何逃げようとしてんの?元はと言えばあんたのせいでしょ?私と素直に付き合ってれば良かったんだからね」


「理不尽すぎないか……」


 抵抗しようともしたが、尋常ではない力で首を握られているため、ふとした弾みでポキッと折れてしまいそうだ。


「何勝手に話を進めているのですか?私と付き合うべきです」


「は?あんたみたいな女にコイツの彼氏が務まるの?」


「それを言うなら貴方じゃないでしょうか。そんな暴力的な女、誰も好きませんよ?」


「暴力的じゃないし!!」


 そう言いながら、金髪女子は手の力を強める。

 まるでコントかと思う流れだが、残念ながら絶体絶命リアル修羅場だった。


「元はと言えばあんたのせいでしょ!?あんたさえ存在しなければ、私はあんたを好きにならなかった。この女もね!!」


 ちょっと、何故か怒りの矛先が俺に向いてきてるんですけど。


「えぇ……そんなこと言われても……」


「うるさい、あんたなんて死んじゃえ!」


「そうだそうだ、死ね!!」


 金髪女子が叫ぶと同時に、全力で俺の首を握りしめる。

 破天荒なヤンキーなのか、女子なのに力がめちゃくちゃ強い。

 下手すりゃ本当に死ぬ。俺の学園ライフはここで終わりかもしれない。


「これじゃ無理だね。もっと本格的にやらないと」


 予感は的中、彼女は俺の上に跨ると、顔面を怒涛のラッシュでボコボコに殴ってきた。

 ああっ、これ、結構ガチ目にヤバいやつだ。

 徐々に意識が遠のき、次第に川の向こうで手を振る、謎の禿げた太ったパンイチのおっさんが見えてきた。

 誰だよあいつ。俺の先祖あんなんだったのか?清潔感無さすぎだろ。ちょっとショック……。

 段々と鈍くなってくる痛みを感じながら、俺は静かに目を閉じようとする。

 すると──


「何をしているんだ」


 聞き覚えのある女子の声が耳に入ると共に、ハッと意識が戻ってくる。


「はぁ?今このクズ男の処刑を……」


 二人は鬱陶しそうな表情で振り向くが、その人物が誰なのかを認識すると共に、血の気が引いたように顔を真っ青にし、俺から飛び退いて距離を取った。


「ひっ……秋月さん……!?」


 二人は血相を変えながら後退りをする。

 無理もない。そこに居たのは、氷のように冷たい瞳でこちらを見据える、我が校の誇る生徒会長、秋月玲香あきずきれいかだったからだ。

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