ブス専の俺、美少女ばかりに迫られていて困っています
ねっとり丼
第1話 美女より微女
突然だが、皆は美少女が好きだろうか。
美少女と言っても、お姉さん系やオラオラ系、クール系や清楚系など、様々なタイプが存在し、好みは人それぞれだろう。
そして一般的には、他者に対して自身の至高とする価値観を押し付けるのは愚行とされている。
好みは人それぞれであり、例え自身の好きなタイプと差異があったとしても、相手の意見を尊重することが大切だ。そう、好みは人それぞれなのだ。
そして話は変わるが、こんな言葉があるだろう。
『可愛いは正義』
果たしてそうだろうか……。
そして場面は急に変わるが、俺、
場所は学校の屋上。橙色の夕暮れが美しく、冷たさが乗った風が心地良いという、告白の舞台には最高のシチュエーション。
俺の対面に立つ少女は、可愛らしい赤色のハートのシールが丁寧に貼られた手紙を震える手で持っていて、俯きながら頬をピンク色に染め上げていた。
見た目は……文句無しの美少女だ。
身長150cm程の小さな身体に、小動物のようにオドオドとしている仕草がよく似合う。
頭の後ろには大きなリボンを付けていて、より一層彼女の魅力を増大させていた。
まだ名も知らぬ少女は何かを決意したように息をつくと、咄嗟に頭を下げて、俺の目の前に手紙を差し出してきた。
「ず、ずっと、好きでしたっ!付き合ってくださいっ!」
差し出してきた白くて小さな手は、先程よりも更に小刻みに震えていて、緊張と恐怖が伝わってきた。
告白とは、その行為に対する感情の大きさが、相手への愛と比例している。
簡単に言うと、緊張していればしているほど俺のことが好きってことだ。
即ちこの少女は、俺のことがかなり好きだ。
俺はこの少女と言葉を交わしたことは一度も無い。言うならば一般人A。知人ですらない。
悪く言ってしまえば、今まで認知していなかったような、どうでもいい存在。
だが彼女にとっては俺は特別な存在であり、ずっと一緒に過ごしたいと思わせる程の人間なのだろう。
だったら、こちらも丁寧に誠意を込めて返事をするべきだろう。
俺は彼女と同様に大きく息をつくと、最大限誠意を込めて、ゆっくりと頭を下げた。
「ごめん」
「……っっ」
彼女は一瞬身体を跳ねさせると、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳からは一筋の涙が流れていて、ポロポロと、一滴一滴、水滴が地面へと落ちていく。
「大丈夫か?」
俺はポケットからハンカチを取り出し、彼女に差し出すと、彼女はそれを素直に受け取り、涙を拭いてくれた。
「……ありがとうございます。こうなるって分かってたのに、やっぱり辛いですね……」
「ごめんな、俺に君の気持ちは計り知れないけど、やっぱり辛いよな」
「いえ、私が悪いんです。私が勝手に好きになって、勝手にフラれただけなので」
彼女は嗚咽混じりにすすり泣きながら涙を拭き取ると、俺にハンカチを返してくれた。
「……一つだけ聞かせてください。何でダメなんですか?」
まぁ、当然の疑問だろうな。
断られたということは、即ち相手が自身に魅力を感じていないということ。
魅力を感じていない理由を知れば、素直に失恋を受け入れるだろう。
しかし、同時にショックを受けるのも目に見えていた。
「理由か……多分聞いたらショックを受けると思うんだけど……」
「いいんです!聞かせてください!諦めれる理由が欲しいんです!」
彼女の表情は真剣そのもので、誤魔化せるような雰囲気ではなかった。
「分かった。じゃあ言うよ……」
俺は真剣な表情で彼女へと向き合う。
「──俺、ブス専なんだ」
それは、俺からしたら、真面目な解答であり、嘘偽りのない率直な言葉だったのだけども。
「……はい?」
彼女にとっては違かったらしい。
彼女は悲壮感を感じさせる顔から、ポカンとした顔に変わる。そして俺に詰め寄ってきた。
「ど、どういうことですか?嘘ですよね?」
「いや、嘘じゃないんだ。俺はブス専だ」
「えっ……いやいやいや。笠原さんみたいに、カッコよくてイケメンで優しくて大人びていてクールで面白くて頼り甲斐があって振った相手にもハンカチを渡す気遣いが出来るような方が、ブス専なんて……」
「凄い高評価だな……」
褒められるのは悪い気分では無いが、流石にここまで言われると恐怖を感じてしまう。
俺が苦笑いをしていると、突然彼女は必死の形相で俺の胸に両拳を当ててきた。
「ふざけないでください!なんでそんな嘘つくんですか!?私の何がいけないんですか!?」
「えっ……だって君可愛いし。ブスじゃないじゃん」
「かっ……!?」
すると突然、彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
あまりにも現実味のない言葉なので、やはり嘘と思い込んで怒ってしまったのだろうか。
「あのー、もしもし?」
「……たい」
「ん?」
「この変態ヤリチン野郎!!!!」
「はっ?」
人畜無害そうな小動物系美少女から、何故か突然罵られた。
「そうやって簡単に可愛い可愛い言って、色んな女の子をたぶらかしているんでしょう!?噂は本当だったんですね!こ、この変態!」
「えぇ……」
あまりにも酷すぎる言い分に、困惑するしかない俺。
「私みたいな地味で目立たない子は眼中に無いんですよね!でも残念ですねぇ、私は貴方のことをずっと見てましたよ!毎日毎日ストーカーのように陰から見ていました!なのに今日告白してみたらまさかの『ごめん』の一言!そして謎の言い訳!一体なんなのでしょうか!私の恋は何だったんですかぁ!?」
彼女がポカポカと俺の胸を叩きまくってくる。肉体的ダメージは全く無いものの、色々と情報量が多すぎるせいで、精神的に不味いことになっている。
毎日毎日ストーカーしてたって何だよ。怖いな、おい。
「いや……君は地味じゃないだろ。そんなに可愛いんだから謙遜することないだろうに」
俺は後頭部を掻きながら、素直な感想を述べた。
こういう美少女に限って、自己評価が低いのは何故なのだろうか。もっと自分に自信を持った方がいいと思う。
「バカバカ大アホ!何がブス専ですか!そんなのある訳ないじゃないですか!」
「あるんだけどなぁ……」
「うるさいですっ!どうせ私が鬱陶しいから嘘をついているんでしょう!?私みたいな陰キャには興味無しですか!」
駄目だこれ。完全にヤケクソ状態になってる。
ナイフで刺されそうになったり、無理やりキスされそうになったり、取り巻きの女子生徒達が出てきてリンチにされかけた時よりはマシだが、これはこれで対処が難しい。
自己肯定感が低い子というのは、まずは自分が可愛いと自覚させた方がいいのかもしれない。
「うーん……君は可愛いんだから、もっと自信を持った方がいいんじゃないか?」
「〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」
彼女は声にならない悲鳴をあげると、茹でダコのように真っ赤になった顔を両手で覆い隠しながら、扉を開いて走り去っていった。
俺はそれを見届けると、大きくため息をつく。
「はぁ……またか……」
彼女の涙で濡れたハンカチをポケットに戻すと、その場に座り込み、空を見上げた。
全男子が思い描く男の理想像ってやつだろうか。誰もがハーレム学園生活なんてものを想像したことがあるんじゃないだろうか?
確かに、俺の顔は整っている方だろう。自分で言うのもあれだけど。ずっとイケメンと言われたら嫌でもそう思ってしまう。
だが残念ながら俺はブス専だ。ブスしか愛せないし、ブスしか恋できないし、ブスしか好きになれない。そんな人間だ。
俺にとって美少女とは恋愛対象外であり、微塵も異性として意識することが出来ない。
だからいくら美少女にモテたところで意味が無いのだが、何故かブスにはモテずに、美少女にばかり迫られる。
確かに好意を寄せてくれるのは嬉しい。どんな人間であれ、好かれるのは悪い気分にはならない。だが度を越すと流石にしんどくなってくる。まず美少女に魅力を感じないから。
「……ブス専って、案外辛いんだぜ」
よくこんな言葉があるだろう。
可愛いは正義と。
だが俺からしてみたら──
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