第11話 蔵には何が眠っている?

 俺は空を観て確認。夕刻、影の長さで、大体の時間は分かる。

 時刻はおおよそ六時ぐらいだろうか。

「今は何時だ?」俺は相方に尋ねる。


バルトロが懐中時計を取り出した。

「五時五十分だ。そろそろ交代の時間だ」

 四交代の順繰りだ。意外なほど待遇が良い。

 交代要員が二名来た彼らは今から深夜までの担当だ。

 俺は相方が幹部なので昼間である。

 のっぽの男と小柄な男が来た。

「ご苦労さん」

 俺たちと交代に来た男に割り符を見せて交代した。


「腹が減ったな。まずは食堂に寄ろうぜ」とバルトロはニヤリと笑う。

「ああ」俺も同意する。

 俺としても館の構造を知るには都合が良かったのだ。

「旨いワインがあるんだ。どれか選らんでやるよ」

 バルトロの先導で左周りに食堂に向かうことになった。


(交代時なら、少し人が減っているはず……)

 少しくらい近寄っても警戒されないはずだ。

「バルトロ、この先にある蔵には何があるんだい」

「蔵か……。まあ色々といわく付きの道具があるようだ」

「あんたは覗いたことは無いのかい」

「ああ。蔵の中は古参の幹部しか知らねえ。

 俺みたいな新入りは表の警護ぐらいだな」

「へえ」

 新入りの幹部は中に入れないのか。

 蔵の中のお宝は大したもののようだ。



 暫く歩くと、頑丈そうな造りの蔵が見えてきた。

 食堂のある家屋から二町ほど離れた場所に、蔵が三軒並んである。

 蔵はガウディーノ直属の部下が警備しているが人数は二人だけだ。

 後は雇われた男たちが警備している。


 蔵に向かう途中で誰も出会わなかった。

 蔵の周辺を警護しないで良いとは言われていない。

 それは、誰も近寄りたくないと本能的に感じているのだろう。


(まあ、それはそうだろうな)

 それぞれの蔵からは、わずかではあるが漏れ出しているもの。

 それは不浄の氣だ。邪気や瘴気の類いのものである。

 好き好んで居たい場所ではない。

 それでも結構な人数が警備しているのは、蔵の中のお宝が値打ち物だからであろう。


 蔵にはいわく付きの道具が保管されているという。

 ガウディーノが一代で大きくのし上がったのは、それら呪いの品を使ったからだ、と情報屋の親父からは聞いている。


 それならば、秘宝スフィアを盗み出す際の、目眩ましとして使えるのではないか、そう考えたのだ。

 これから先、本館に置かれている大金庫の警備は更に厳しくなるだろう。

 少しでも警備の人数を減らしておきたいのだ。


(まあ、その見張り役を俺たちが任されているんだけどな)

 自作自演の猿芝居である。

 派手にかく乱させれば、ガウディーノ直属の部下たちも出てこざるを得ないだろう。


 秘蔵のしびれ薬。

 切り札の一つだ。火事でも起こしてばら撒けば、かなりの人数を動けなく出来る。

 銃の間合いを潰すこと。それが肝要だ。


 秘宝スフィアの警護を手薄にすること。

 外の混乱が大きくなれば、館にも動揺が走り、外の警護と、家屋内の警護は厳しくなるだろう。


 それに……。

(あの占い師がたった一人で潜り込んでいるのは、どう考えてもおかしい)

 絶対に手引きした味方がいるはずだ。

 そいつらを巻き込んで、乱戦に持ち込んでしまえば良い。


 俺の「力」と刀があれば、四、五人相手なら十分に戦える。

欲を言えば、闇市当日に大金庫から秘宝スフィアを運び出す瞬間を狙えれば良いのだけど……。

 それは高望みが過ぎるというものだ。

 取り敢えずは、実際に蔵に行き、仕掛けを設置したいのだ。


 蔵の前、ほんの十間(18メートル)もないところまで来た。

 蔵の扉の前には、まだ警護の男たちがいる。

 更に蔵の周囲をガウディーノ直属の男たちと引き連れた犬たちが警邏している。

 犬種はドーベルマンとかいうそうだ。大型犬。こいつらから逃げ切るのは苦労しそうだ。

 人数は少ないが、直属の部下を派遣している。

 やはり蔵の中のお宝が大切なのだろう。

 これは思っていたよりも警備が厳重だ。


 そう言えばあの占い師は、犬に気をつけろと言っていた。

 恐らくあのドーベルマンのことだろう。


(アイツらに見つかったのならどうなる?)

 占い師は、良いことが起こるのか、悪いことが起こるのか肝心な事は言わなかったのだ。

(その上に……)

 俺は隣の相方の方に目を向ける。

 幹部のバルトロがいる。

 下手な真似をすればこいつとも戦うことになるだろう。

 ガウディーノファミリーとは、もちろん一戦するのだが、それは予定よりもかなり早いことである。

 流石に下準備も終えていないのにいざこざを起こすのは拙いと思うのだが……

(まだ蔵に近寄るのは危険か……)

 もう少し様子を見て、仕掛ける機会を待つとしよう。



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