第10話 犬に気をつけて
俺は朝飯を食べるついでに占い師に会いに行った。
昨日と同じ場所に彼女はいたのだ。
占い師は他の料理人と同様に忙しそうに料理を作っている。
(何故誰も気付かないのだろう)
狐につままれたような感覚に襲われるが、相手は魔女だからと自分に言い聞かせた。
「それで結果はどうなりました?」
「まあ、当たったようだ」
「ふふ。そのことをお聞きして安堵しました」と天使の様な微笑みを浮かべる。
「嘘つけ」
絶対こうなると知っていたのだろうに。
(さて、俺が独りで秘宝を手にしたとしても……)
例え俺が秘宝スフィアを手にしても宝の持ち腐れになるだけだろう。
悔しいが、高価な宝石が一つ手元にあるだけで、何も変化は起こらないだろう。
(秘宝の使い方なんて知らないからな)
最悪の場合は、情報屋の親父が知っているかもしれない、それが唯一の望みだったのだ。
願いを叶えることに夢中で考えが及ばなかったんだ……。
いいや、考えが及ばなかったのではない。考えたく無かった。
ただ生きていくだけの目的が欲しかっただけなのだ。
秘宝スフィアを手に入れる、この目的が無ければとっくの昔に自棄っぱちになって、あっさりと野垂れ死んでいただろう。
だが、もしかしたら本当に望みが叶うのならば……。
それが、この胡散臭い占い師だけなのだとしたのなら。
(この少女を信じるのか?)
正直な所、まだ迷っている。
だけど、この胡散臭い占い師の言葉はよく当たるのだ。
(既に、この少女の術中に嵌まっているのかもしれないがな)
この少女が聖女だろうが魔女であろうが、何者でも構わない。
俺はもう一度だけでも、出会いたい人がいるのだから……
この目的を叶えるために、こんな西の果てまで来たのだ。
「……ふう」
俺は頼んだ焼き魚を頭から頬張る。味わう間もなく温くて薄いエールで流し込むと、
「……報酬のことだがな」
俺は真剣な眼差しで、占い師を見つめた。
「嬉しい。引き受けてくださるのですね」
「ああ。頼む」
俺は静かに頭を下げた。
「では、これからのことについてお話をしましょうか」
「ああ。俺はこれからどうすれば良い?」
「はい、これから先の事を占いましょう。
では手を出してください」
水晶玉。紫色の輝き。輝きが収まると占い師はゆっくりと瞳を開いた。
「犬に気をつけなさい」
「犬? そいつを見つけた後はどうする?」
「未来の扉を開く手掛かりは、犬が教えてくれるでしょう」
「また、煙に巻くようなことを……」
こんな予言を初めて聞いたなら、怒鳴りつけて立ち去ることだろう。
だが、今まで当ててきた実績があるのだ。
……それに。
(未来の扉ねえ……)
犬を見つければ何が起こると言うんだ?
淡い期待と望み、怖い物見たさがない交ぜになったような奇妙な信用がある。
「まあ良いだろう。犬に気をつけるよ」
どうやら本当に、この少女の術中に嵌まっているのかもしれない。
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