第9話 ここまでは、順調ですが……

 わたしたち三人は、人避けの結界が張られた「拠点」に集合しました。


 伊達男さんがわたしの方を向き、

「占い師の予知通り、自分と侍は相方になりました。

 侍も占い師の予知が本物かもと信じ始めたようです」

 と報告します。


「はい。わたしも予知が当たって安堵しています」

 わたしの観る未来。

 秘宝スフィアを入手出来る未来はまだ定まってはいません。

 結果に至る道筋から、わたしに都合の良い結果を望むようにお侍を誘導しているのですから。


「占い師が、自分の未来を観ていたとは思いますまい」

「ええ、そうでしょうね」

 お侍が伊達男さんと組む未来。

 お侍が黒い札を引くと、伊達男さんと組む結果が生じます。


 だから、この結果を逆手に取るのならば……。

 伊達男さんが黒い札を引けば、必ずお侍と組むことになるでしょう。

 よって、伊達男さんには幹部特権で、予め黒い札を押さえておいてもらいました。

 これで伊達男さんとお侍が相方になるという結果が確定するのです。


 派手な女さんの場合。

 これは彼女が三番手に並べば、白い札を手にする未来が見えたので、その通りに並んでもらったのです。


「さて伊達男さん、貴方の未来を見せてください」

「はっ」

 わたしは水晶玉見つめます。

 以前観た映像では、伊達男さんとお侍が、秘密の部屋の入り口へとたどり着く場面だったのですが……。


 今回は、水晶玉の色は紫色に変化してしまっているのです。

 わたしは恐る恐る映像の続きを観ます。

「この未来は……」

 警備の方と、引き連れている犬が五頭。

 ここまでは以前観た映像と同じなのです。


 一瞬だけ、本来いないはずの六頭めが見えました。

 子犬の鳴き声。

 聞こえないはずの鳴き声、その声が耳元で聞こえました。

(まさか予知を外したのでしょうか)


 瞳をこらして水晶玉を見つめます。

 ですが、以前観た映像と同じで、伊達男と侍が秘密の入り口にたどり着く場面となりました。


 不安要素はありますが、今は確度が高い方を選択しましょう。

 五頭のドーベルマンを連れた護衛の方。彼と接触すれば、隠し部屋に通じる通路へと至るでしょう。

 この結果が一番精度が高いはずですから。

ですが……。あの鳴き声は一体どこから……。


「占い師、どうしましたか?」

「いえ。何もありません。

 貴方の出番が来たのならば、お侍と共に左周りに警邏してください。

 これで、隠し部屋への道が開くはずです」

「了解です。必ずや貴女の望むような結果をお持ちします」


「ここまでは順調ですが……」気になることが生じてしまいました。

「ここから先、明日からの未来を観ることが難しくなってきましたね」

 水晶玉の色が、紫色に変化し始めたのです。

 これは、予知の精度が落ち始めてきた証なのです。


「未来が揺らいでいます。不確定要素が増えてしまったようですね」

 わたしが未来を観て当てることが出来る確率。

 蒼が八割、紫が六割、赤紫が四割、赤が二割未満です。

 紫は六割と、直ぐに挽回しなければ、結果が大きく変わってしまう色です。

 まだ頑張れば挽回出来る範囲ですが。人の動きを完全に予知出来はしないのです。


「はい。頼みましたよ。ここまでは予定通りです。

 ですが次からは予知の難易度が上がります。

 今まで以上に気を引き締めて演じなければなりません」

「紫色……。

 やはり敵陣営は、介入を強めてきましたか」伊達男さんの顔が強ばる。

「間違いなくあちらの女神の力でしょうな」


「ええ、そうでしょうね。

 あちらも秘宝スフィアの入手は至上としているでしょうから……」

「占い師が張った結界。

 これには多くの神力を注いでおられます。

 おいそれとはこの拠点を見破るとは考えたくはないのですが……」

 言いよどむ伊達男さん。

「自分たちを探る者どもは、増えてきましたな」


「ですが、まさか聖女様がここにおられるとは思っていないでしょう。

 あ、いや占い師ほどの力を持つ方と、拮抗する者など居るとは考えられないのです」

 と派手な女さんは意気込みます。

「それは相手の指揮官次第だな。だから、未来が変化してきたのだろう」

 と伊達男さんは静かに首を振りました。


「相手の方がどんな方であったとしても……。

 そうですね。想定よりも変化が早まってしまったのは事実ですね」

 わたしも同意します。


「では、私が動きましょう」と派手な女さん。

「まだ少し早いだろう。こちらから未来を変えるのは如何なものか」

「ですが、余裕が無くなってきたのも事実でしょう」

「……うむ」

「占い師、ここは私が動きましょう」

 と派手な女さんは力強い眼差しで、わたしを見つめます。


「……頼めますか? 無理はなさらないでくださいね」

「はい。占い師の御心のままに」と派手な女さんが嬉しそうに肯きました。

「自分も持ち場に向かいまする」

「ええ。伊達男さんも無理をしないようにしてください」

「はっ」

 伊達男さんは慇懃に頭を下げると、派手な女さんと二人で部屋を出て行きました。


 静かに閉まるドアを確認すると、

「ふう……」

 思わずため息が出てしまいました。

 未来の変化。それは人の運命を変えること。

 誰かの未来が変わると他の誰かの未来も変わってしまいます。


「良い方向へ向かってくれれば良いのですが……」

 勿論反対の結果もあります。

 誰かが傷つき、悲しむ未来。

 そのことを踏まえて思い通りに操ること。


 みなさんの前では平然を装っていますが、他の方の未来を変えるという傲慢さに心が潰されそうになります。

 銀の仮面をそっと撫でます。

 今のわたしは占い師。人の未来を予言する者。

 その役割を全うするのです。


 そうすれば、良い結果がきっと訪れます。それを信じて……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る