第5話 館の前で一悶着
ガウディーノの館が見えてきた。かなりの広さの館だ。
館の周囲を高い外壁が並び、更にその周囲は堀に囲まれている。
並の貴族の館より遙かに大きい。
「へえ。どんなアコギな手を使えば、あんな館が建てられるんだか」
俺は館の門へと向かった。そこには既に幾人もの男たちが並んでいた。門は閉められていて、門番が男たちを追い払おうとしている。
(ん。既に門が閉じているのか)
男たちの喧噪。館に入れる、入れないで揉めているようだ。
「ふざけんな。俺は印を持ってんだぞ」「中に入れる」「話が違うじゃねえか」
「募集はもう締め切ったんだ。諦めな」と門番。
もう腕自慢を雇わない? 締め切っただと?
荒れる闇市では、使い勝手の良い下っ端は必要だと思うのだが……。
少し慌てて真鍮の印を見つめる。もしそうならば、無難に館に入る手段が減ってしまう。
後は、闇夜に乗じて忍び込むか、闇市の客として正面から入るしかない。
そうなると館の配置を事前に知ることが難しくなってしまう。
(地図は持っている。
が、闇市が始まる前に下調べを終えておかなければ、話にならないぞ)
秘宝スフィアを手に入れる云々の前に、捕まって終わる可能性すらある。
「うるせえ。諦めきれるかよ」と柄の悪い男たちが門番に食ってかかる。
ガウディーノに雇われることで箔を付けること。
更にガウディーノは金払いの良い男なので、証に金を払っても十分に元は取れるという話だ。
腕自慢でもないくせに、そんな旨い噂話に飛びつく人間はあまりいないと思っていたのだが、実際は相当いたようだ。
諦めきれない男たちが門番に食ってかかっている。
俺も納得なんて出来はしない。
こんな所でつまずくわけにはいかない。
「門番の兄さん見てくれよ、俺は俺は証を持っているぜ?」
俺は真鍮の印を門番に見せた。
「ああ?」門番の男は、面倒くさそうに印を見る。「ああ、それか」と言うと、
「去年なら意味があったんだがなあ」とぼやいた。
「去年? なら今年は駄目なのか?」
「ああ。今回は無理だな」門番の男は大きく頷いた。
「そいつを手に入れるた連中がかなりいるんでな」と言い、後ろの男たちを指さした。
「まあ、来年に期待するんだな」
門番は真鍮の印をぞんざいに投げ返した。
「こいつ……俺がどれだけ苦労して、ここまで来たと思っている」
俺は門番を睨みすえた。少しばかり「氣」を当ててやる。
「う。だ、だが無理……なんだよ」門番は言葉を詰まらせた。
怯んだ門番を見て、周囲の男たちも勢いづく。
「そうだそうだ、さっさと入れろ」「門番ふぜいが偉そうなんだよお」「のろまっ、とっとと入れやがれ」
「だ、駄目だ駄目だっ!」
門番がホルスターから銃を抜きだして威嚇する。
帝国では戦場の主役は剣から銃に換わりつつある。
まだ命中精度と値段に難があるが、剣よりも射程と威力に優れていているからだ。そのため帝国兵士は他国に比べ軽装である。
抜かれた銃を見て、男たちの顔色が変わる。
銃に対抗するため、男達もそれぞれの得物に手を掛ける。
事態は収拾が付かなくなってきた。
「何だ、この騒ぎはっ!」
低くて良く響く声。その声で、場に居る男たちは一瞬動きを止めた。
一人の男が、人だかりの中を堂々と入ってきた。
仕立ての良い服、確かスーツと呼ばれる服だ。
スーツを違和感なく着こなした体格の良い壮年の男だ。
甘いマスクは有名劇団で主役を張れるだろう。結構な伊達男だ。
ただし、鋭い眼光がヤクザ者だと証明している。
「あ、バルトロの兄貴」門番は破顔する。どうやらこの伊達男は幹部のようだ。
「コイツら、館に入れろと五月蠅いんですよ」
「なんだと」ジロリと男たちを見据える。
俺は伊達男の前に出た。
「五月蠅いんじゃなくて、証があっても入れてくれないからだ」
俺は真鍮の印を伊達男に見せた。
「ほう。あんた証を持っているのか」
「ああ」
「なら、入れてやれ」
伊達男は、門番に対して顎で命令する。
「え。ですがもう予定より多いのですが……」
「人手は余計にあっても良いだろう。どうせ今年も荒れるんだから」
「そ、そりゃそうですが……」
「それに、この兄さんは通りでゴロつき相手に大立ち回りしていたぜ。素手でな」
「へ、へえ。素手で……」驚く門番の男。」
「腕はオレが保証してやるよ」
伊達男は俺に向かって、ニヤリと意味深な笑みを浮かべた。
「ああ。俺を雇っても損はさせないぜ」俺も不敵な笑みを浮かべた。
「へ、へえ。兄貴が言うのなら……」
「お、おれも」「入れてください」と男たちも次々と前に出てきた。
「いいぜ。使える男たちは大勢いてもかまわねえからよ」と、伊達男は大げさに肩をすくめて見せた。
バルトロの計らいでどうにかガウディーノの館に入れることになった。
(これで面倒ごとを起こさないで済んだか……)
俺は内心安堵する。
(ん、待てよ……)
これは、もしかしてあの兄妹を助けたから入れるようになったのだろうか。
そうなると、あの占い師の言うことが当たったことになる。
(まさか。ただの偶然さ)
俺は感じた違和感を笑い飛ばすのだった。
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