学校の怪談2

 興味本位で学校の怪談について聞いてみたら、夢食さんが言うには怪異というのはとても厄介な存在のようだ。怪異、それは人間を襲う理性の無い災害のようなものだという事は理解できたが、同時に複数の場所で出現する怪異が全て同じ存在ってどういう事だ?


「意味が分からないって顔だな」

「全てが同じってどういう・・・・」

「怪異っていうのは俺達の狐や獏のように種族を表すんじゃなくて、一つの現象を表した言葉なんだよ。だから、個体というのは無いんだ」

「????」

「そうだな~分かりやすく言うと、お前達に人間というのは種族の名前だろ?」

「はい」

「でも、人間という種族には個体の差があることをお前達は認識している」


 例えば俺、爽太、父さんみたいに個々が独立して存在していてその違いというのは認識しているってことだよな。


「そんな感じで、個々が違う性格や見た目をしていて個と言う存在が確立しているのが俺達妖怪だが怪異は空気や水のようなものなんだ」

「水や空気?」

「そう、例えばだが」


 夢食さんは帳簿を手に取りその端を持つと団扇のようにして俺に向かって扇いだ。そして、帳簿によって押し出された風が俺に当たり髪を少し動かした。


「今当たったのはなんだ?」

「空気です」

「それじゃあ、今お前が呼吸をして吸い込んだ物はなんだ?」

「それも・・・・空気です」

「それの違いは?」

「違い?」

「そう、今当たった空気と吸い込んだ空気何が違う?」

「それは・・・・」

「同じだろ?この空間の中に漂う大量の空気という存在をお前は吸い込み受けた。その空気の違いをお前は認識できるか?」


 そんなの出来るはずがない。空気は空気という一種の概念であり場所によって成分的には差があるのだろうけど空気を個別認識するなんて事出来ない。空気は空気、それが答えた。


「出来ないだろ?空気という概念、現象に個体の差を認識することはまず無理だ。何故なら、大きな括りでは全て同じ存在だからだ。怪異も同じように、全てが同じである現象なんだ。雨が降るという現象に差はあるか?風が吹くという現象に差はあるか?雨の大きさや風が吹く理由には差があるかもしれないが、雨が降る風が吹くという現象には差が無いだろ?怪異も同じように現象であるから、個という存在が無く起こる現象そのものが怪異なんだ」

「じゃあ、場所によって存在の差は無いってことですか?」

「そう、A校B校C校で現れた花子さん全てが同じ存在であり同じ現象であり全てが同じ花子さんなんだ。だから、個を祓って数を減らすなんてことは出来ないんだ」

「うわぁ・・・・」


 普通の生き物であれば、種の数を減らし絶滅させることや調整することは出来るが怪異は個という存在が無いから数を減らし絶滅させることは無理なのか。全てが本体だから、一つの場所で消されたとしても他の場所で本体が生きているから全くダメージが無い。厄介過ぎないか?


「聞いてるだけで分かるだろ?怪異の厄介さが」

「はい・・・・関わりたいって気持ちが綺麗さっぱり消えてなくなりましたよ」

「陰陽師連中も新たな怪異を生ませないように、話を潰したりはしているんだが数を減らすのは難しくてな~」

「じゃあ、怪異はどうにもならないんですか?」

「いや?さっき言っただろ、怪異にははっきりとした対処法があるって。その対処法を大体的に知らせることによって犠牲者を減らすって言う取り組みをしてるんだよ。他にも怪異は人々に語られる内容と強く結びついているから、怪異の内容変えることによって危険性を減らしているんだよ」

「内容を変える?」

「例えば、怪談話に弱点の話を加えることによって明確な弱点を持たない怪異に対して後付けで弱点を加えることが出来るんだよ。火に弱いとか水を渡れないとかな。大々的に存在を変えることは出来ないが、少しずつ弱体化させていくっつうのを今の陰陽師はやってるな」

「なるほど・・・・話で語られた現象だからこそお話に引っ張られるんですね」

「そゆこと、人に知られれば知られる程その要素は強固になり切って離せない要素になる。そして弱点を知っていれば対処は出来るもんなんだよ」

「知識って大事なんですね」


 消し去れない存在だが対処法はあるという事を知って少し安心した。現代では新たな怪談話が次々と現れるから陰陽師の人達は大変そうだな~・・・・俺も身近に有る怪異の事は調べて弱点を把握しておかないと駄目そうだな。


「大事だぞ~知っていれば対処できるかな。ちなみに、花子さんなんかの類は呼び出すこと自体が交流しているってことだから呼び出した時点でアウトだからな。気軽に呼び出す儀式なんてするなよ。儀式による召喚なんて一種の取引かつ契約だからな」

「コックリさんは?」

「あれは陰陽師が無事に呼び出した者を返す方法を確立させたから、少しは大丈夫だが呼び出した時点で縁を結んでいるから後々影響出るからな」

「うげ」

「厄介なのが分かったら怪異なんかには関わらないことだな」

「そうします」


 怪談話で霊や怪異を呼び出す方法って沢山出てくるけどそれを実行するだけで危険なら絶対にやらないようにしなくては。怪異は一目見てみたい気持ちは無いと言ったら噓になるけど、自分の命を危険に晒すほど馬鹿じゃ無いし夢食さんに絶対に怒られるから怪異とは今後とも関わらないようにしよう。


「俺達でも関わる気になれないからな~」

「そうなんですか」

「おう、あいつらは面倒くさ過ぎる」

「他に気を付けた方が良い事とかありますか?」

「ん~特には・・・・あ、そうだ。幽霊達とも関わるなよ」

「怪異の話がインパクト強すぎて忘れてましたが、怪異の中にも幽霊が居るんですよね?てか、幽霊って実在したんですね」

「死んだやつ全てが幽霊になる訳じゃないぞ。強い心残りや恨みを抱えた奴が魂の力を使い現象を起こすんだ」

「魂の力・・・・陰陽師みたいな力ですか?」

「まぁ大体一緒だな。肉体が死に魂だけになったから才能が無い奴でも力を使えるようになるんだ。強い恨みを抱えた奴は、場所や現象に固執するから少しでもやつらを刺激したら呪われたり憑かれたりするから気を付けろよ」

「見えないのどうしろと・・・・」

「強い思念を持ってる奴ならお前でも見れると思うぞ」

「そうなんですか!?」


 今まで生活してきた中で幽霊なんて一度も見たこと無いので俺には幽霊を見る力は無いと思っていたが夢食さん曰く俺は見ることが出来るらしい。だけど、そんなやつ見たこと無いぞ・・・・もしかして、知らないうちに見てた?


「まぁ強い思念を持ち恨みを抱えているような怨霊と呼ばれる存在は、そうそう居るもんじゃないから見る機会は殆ど無いだろうけどな」

「あ、そんなに数は居ないんですね」

「生き物は死んだら魂は循環へと変えるのが普通なんだ。その循環に逆らってこの世界に残り続けられる程の恨みを抱えた奴なんてそうそう居ないぞ。居たとしても普通は時間が経ってしまえば消えていくもんだ」

「そうなんですか」

「普通はな。だから、長い間語られている場合は怪異と化してるか相当強い怨霊だ。どちらも危険だから関わるんじゃねーぞ」

「分かりました!」


 俺の目を見て強く言ったので、しっかりと返事をするとそれで良しと頷き夢食さんは奥にある冷蔵庫からショートケーキを出してくれた。


「頂きます!」

「うむ、もし関わってしまったらすぐに俺に連絡するようにな。ある程度なら俺が何とかしてやる」

「迷惑かけないよう、そういう場所には近づかないようにしておきます」

「それが一番だ」


 心霊スポットとか少し憧れてたけど、夢食さんが言っているような存在が居たら命がいくつあっても足りないだろう。しかも、俺は見ることが出来るのだから、普通の人より危険性が高くなってしまう。命を大事にするためにそういう場所には寄らない・近づかないを心掛けよう。それに、そもそも私有地に入ったら不法侵入で犯罪だもんな。

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