家族団欒談義

「それじゃあ、今日は何の妖怪の話をしようか・・・・何かリクエストはあるか?」


 いつも通りアルバイトを終え帰宅すると、家族全員が揃っていたので定期的に開催される父さんの妖怪講座となったがどうやら議題を決めかねている様だ。いつもは俺から質問をして話が始まるが、今日はこれといった質問が無い。どうしようかな~と思っていると母さんが


「そろそろ夏になってくることだし、夏に関する妖怪とかどうかしら?」

「夏か・・・・よし、それでいこう!」


 父さんはそう言って、手元に持っていたタブレットをお絵描きモードにするとホワイトボード代わりにしながら解説を始めて行った。


「夏と言えばどんなイベントを思いつく?」

「夏休み!」

「そうね~虫の大量発生?」

「やっぱ祭りだな」


 やっぱ夏と言えば、長~い夏休みでしょ!学校に行かず一日中ゲームや動画、ダラダラ過ごしのも良しと自由で遊びたい放題それが夏休みだ。去年は受験生だったから勉強をしていて遊ぶ時間が無かったけれど、今年はもう勉強をする必要は無し!バイトをしているから、お金はあるし今年は色々な場所に行ってみたいな~勿論バイトも沢山やるつもりだけどね。


「母さん、虫の大量発生はイベントでは無いだろ・・・・」

「うふふ」

「確かに学生にとっては夏休みが一大イベントだろうな。做夜の言う通り夏に祭りは多く開催される。だが、あのイベントを忘れてないか?まぁイベントというよりは行事なんだがな」

「行事?七夕とか?」

「まぁ七夕もそうだが、先祖を迎える行事があるだろ?」

「あ、お盆!」

「その通り!」


 そういえば大事な行事を忘れてた。夏の時期になると必ず墓参りに行くことになっているし、母さんの実家である京都に帰るのも墓参りに行くためだ。京都には8月にある有名な盆祭りがあるけど、ここら周辺だと7月が盆の時期だよな。


「盆の時期は新盆と旧盆があるんだが、この2つの違いは明治時代に行われた改暦の影響があるんだ。東京だと新盆つまり、7月に盆をやるが殆どの地域は8月の旧盆を行っているな。ところで、盆はどういう行事かしっかり理解しているか?」

「墓参りでしょ?」

「墓参りもそうだが、盆の主な目的としては先祖や故人を迎え感謝を伝えてもてなし供養することだ。盆の時期には地獄の釜の蓋が開くと言われ、あの世に居る亡者たちが帰って来る。そして、この時期はあの世とこの世が交わる時期なんだ」

「なるほど~そういえば、お盆の時期って怪談話とか増えるよな~」

「そうね、心霊番組も増えるわ」

「怖い系の映像って加工だって分かるものもあるが結構面白いんだよな~」


 分かる!これ明らかに作り物だろってやつは結構あるけど、怖がらせるために作っているからこそ、吃驚したりして面白いんだよな。


「覚は昔心霊番組が好きで見てたけど、夜になると怖くなって私達の部屋まで来ていたわよね~懐かしいわ~」

「あぁ夜トイレ行けなくなるんだからやめろって言っても聞かなかったよな」

「俺のベットにも潜り込んできてたからなこいつ」

「怖い夢見た~って朝起きたら泣いたりね」

「毎回同じことをしてるのに懲りないんだよな」

「うっさい!てか、何年前の話してんだよ!」


 確かにそんな時期もあったけど、小学校一年生とかの話だろそれ!今なら分かるけど、夢はその日の出来事とかに影響されるから悪夢を見るのは仕方が無いんだよ。それに、俺は夢を憶えてられるから朝起きてもずっと悪夢の事を憶えてられるから、色々怖かったんだよ!


「はっは、心霊もそうだが盆の時期は怪談の時期なんだ。妖怪もこの時期になると良く人の前に現れては驚かしたりと活発になるぞ」

「そうなんだ」

「あぁこの世とあの世が交わる時期なら、人間達に紛れ込むことも出来るからな。盆で親戚を呼んだら、その親戚は実は化けた妖怪でしたみたいな話は結構あるぞ」

「へ~」

「お祭りに参加していたら、気付かぬうちに妖怪の祭りに迷い込んでしまったみたいな話を京都に住んでいた時に聞いたことをあるわね」

「境が曖昧になる時期だからな」

「妖怪の祭りか~行ってみたいな~」


 俺は妖怪を見ることは出来るけど、妖怪の祭りをやっている場所は特殊だろうから行き方が分からない。恐らくだけど、夢食さんなら知っているだろうし今度妖怪の祭りについて聞いてみよう。


「妖怪の仮装をする祭りはあるぞ」

「そうなの?」

「あぁ中々にクオリティが高い仮装が多いから、良い被写体になる」

「なまはげ祭りなんかもあるな。まぁこれは時期が冬だがな」

「なまはげってあれでしょ?あのすげぇ怖い顔したやつ」

「テレビで見たことがあるけど中々の迫力よね」

「その通りだ。まぁなまはげは妖怪では無く神の使いなんだがな」

「え、そうなの!?妖怪だと思ってた」

「見た目からそういうイメージを持たれがちだがなまはげは厄を払ってくれる有難い神の使いだからな」

「へ~」


 妖怪じゃないなら、俺は本物を見ることは出来ないのかな?妖怪達ははっきり見えるけど、神の使いなんて見たこと無いし・・・・・


「話を戻すとするか、覚が妖怪の祭りに行ってみたいと言ってたがもし本当に迷い込んだらそこに出ている食べ物は食わないようにしろよ」

「なんで?妖怪が出している食べ物なんて面白そうな物沢山ありそうなのに」

「そこで出されている食べ物はあの世の食べ物だから生者が食べたら駄目なんだ」

「もし、食べちゃったら?」

「もし食べてしまったら生者は死者となってしまい、こっちの世界に帰って来れなくなる。これを黄泉戸喫ヨモツヘグイと言うんだが、本当は黄泉の国の物を食ってはならないってことなんだが妖怪でも同じだ。この世で提供されたものは大丈夫だがあの世で出されたものは食うな」

「うっわ・・・・知らなかった」

「うっかり食べてしまう人は結構居そうよね」


 本当にこの世は知らないルールばかりだ。しかもそのルールが、妖怪に名を明かしてはいけないみたいに命に関わるようなルールばかりで、知らないうちに破ってそうで少し不安だ。これから妖怪と関わることが多くなりそうだし、もっと勉強しないとな。


「亡者も妖怪も人間とは違うルールで生きているから、その者達のルールに従わないと駄目なんだ。彼らと関わる時は、まずルールを学んでからが良いだろうな」

「父さん後でそのルールを教えて~」

「おう、良いぞ。他にも妖怪の特性を理解しておけば、もし出会った時に対処できるから知識は無駄にならないぞ」

「対処方法と言えば、昔口裂け女とか流行ったわよね」

「あぁあれは元は子供に夜遅くに歩くことは危ないということを、子供に知らしめるための話だったんだが子供同士の中で広がり、マスコミによって全国的に広がった話だな。場所によって集団パニックが起きたりと、現代になってからとしては異常なほど広まり信じられた怪談話とも言えるな」

「確かポマードって言えば、大丈夫なのよね」

「それが一番有名だな。他にもべっこう飴とかニンニクとか色々だ。口裂け女は本当に色々な説があって、どれがルーツなのか難しいんだよな」

「口裂け女も妖怪の一部なのか?」

「う~ん、怪異だが妖怪かと言われるとな~・・・・超常的な存在ではあるから妖怪の括りには入ると思うんだがな」

「年代が新しすぎるとか?」

「いや、年代が問題では無いんだが・・・・人間の霊って説もあるから少し曖昧なんだ」


 父さんは幽霊と妖怪のどちらにも分類できるってことで、悩んでいるみたいだ。夢食さんは妖怪は自然現象などと結び付いた普通の生物は違う進化をした生き物を妖怪と言っていた。口裂け女は、普通の人間が進化した結果かもしれないし人間の幽霊の可能性もある。確かに分類するのは少し難しそうだ。


「そうなのね~分類って難しそうだわ」

「ある本では妖怪と言われある本では怨霊と言われたりと、結構曖昧な事が多いんだよ」

「現代でも七不思議が生まれたりして、それが妖怪なのかって話になったりするしな」

「花子さんは幽霊だけど、二宮金次郎や動く人体模型は妖怪の仕業なのか?とかかしら」

「母さん、最近の子供は二宮金次郎を知らない子が増えてきているらしいぞ」

「そうなの!?」


 妖怪は曖昧な存在らしいから、話によって違うのはそれが関係してるのかもしれないな。兄貴と母さんが言ったように学校の怪談とかってどっちに分類されるんだろう。明日夢食さんに聞いてみよう!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る