夢食さんと雑談

「それは、恐らくだが一反木綿だろうな」

「一反木綿ってあの?」

「そ」


 一反木綿と言えば俺でも知ってるくらい有名なアニメに出ていたキャラクターの妖怪だ。ひらひらとした白い布に顔が付いていて自由に飛ぶことが出来る能力を持っていたはず。


「へ~あれがそうなんですか・・・・」

「空を白い布が風も無くひらひらと飛んでいたんだろ?雲や鳥、龍でもないんだろ?なら、一反木綿だろうな」

「雲みたいな妖怪も居るんですか?てか。龍も居るんですか!?」

「おう、居るぞ~」

「何時か見れるかも、今度から空も注目しておこっと」

「今回は遠目だったからよかったが、一反木綿には近づくなよ」

「え、何でですか?もしかして、危ない妖怪なんですか?」


 一反木綿と言えばアニメでは優しそうな感じを出していたし、あのゆらゆらとした姿は少し可愛らしいと思ってたんだけど・・・・


「一反木綿は空を飛び人に近付きいきなり首に巻き付いて窒息死させる妖怪なんだよ」

「こっわ!!!!」

「妖怪は基本的には人を害する存在として認知されているからな。元は鹿児島県が発祥の妖怪だが空を飛べる性質から全国各地に行くことが出来るんだ。だから、何処で見ても可笑しくないから気を付けろよ」

「見た目は布なのに怖すぎませんか?」

「刃物による攻撃に弱いから簡単に切れるんだが一般人じゃ刃物を持っていたら銃刀法違反だからな~頑張って顔を手の前に出して巻き付かれるのを防げ」

「頼りないな・・・・」

「まぁ最近は陰陽師に退治されるからそんな事をする奴は居ないと思うが警戒するに越したこと無いからな」

「そうですね・・・・俺も気を付けておきます」


 妖怪はとても興味をそそられる存在だが、危険な奴もかなりの数いる。見えてしまう俺は日ごろから警戒をしなければならない。ちょっと面倒だなと思うが、普通の人は見えない物を俺は見ることが出来るという優越感が勝っているのでこの体質を嫌ったりはしない。危険な妖怪は夢食さんに教えてもらえば良いしね。俺は、店の掃除をしながら今日あった出来事を夢食さんに話すことにした


「そういえば、今日体育祭のクラスTシャツを作るために案を出し合ったんですけどなかなか決まらなくて・・・・宝物を象徴する物とかってありますか?」

「もうそんな時期なのか・・・・体育祭は分かるがなんで宝物なんだ?」

「俺のクラスが提案した競技は宝探しなんですよ。だから、それに関連したモチーフにしたいなって」

「へ~今の体育祭ってそんな競技もするのか」

「うちの学校は特殊なんで」

「ん~宝か・・・・富や名声を意味する花は結構あるんだよな~ディモルフォセカや黄色のポピーにセンリョウとかな。宝石だとダイヤモンドカットが富の象徴としてるが、ダイヤモンドの石言葉は純血や永遠の絆だな。ムーンストーンは富の宝石だが恋人たちの石って感じが強いしな~」


 宝物を象徴する物を次々と上げていく夢食さん。何も調べずによくそんなポンポンと出てくるな。


「宝物と言えば金のマークや金貨、日本だと小判だな。それらは流石に体育祭に向かないモチーフだから無し。高価な花と言えばローザジュリエタや月下美人とかだな。だが、これらは知っている人が少ないからモチーフにするのはな・・・・デザインしやすく大衆理解が良い物、ん~オリーブなんてどうだ?」

「オリーブですか?オリーブオイルの原料の?」

「そうだ」

「オリーブって宝物に入るんですか?」

「オリーブは古代ギリシャでは豊穣や富の象徴とされているんだ。オリーブオイルは液体の黄金だと言われるほどにな」

「液体の黄金・・・・良い響きですね」


 誰しもお金持ちになる夢を見ることがあるだろう。俺も小さい頃アニメで金塊や札束の山を見て自分もやってみたいって想像したことあったな~あれ?今ならその夢叶えることが出来るかも。夢の世界でならどんなことも出来るなら金の山や金のプールだって作り出すことが出来るはず!・・・・っと思ったけどそんな事しても夢から覚めたら消えてしまうだけだから虚しいだけだ。


「オリーブは古来では神聖な植物とされていてオリーブの葉で作られたオリーブの葉冠は古代オリンピックの優勝者に与えられるものだったから勝利を目指すっていう意味でもオリーブは良い植物だと思うぜ。他にもオリーブは国旗にも使われているし平和の象徴でもある。オリーブの葉冠は円形だから団結や協力という意味も持てるし良いモチーフだと思うぜ」

「なるほど・・・・良いですね。明日提案してみます!」

「まぁ俺の一意見だからお前達の好きなように作りな」


 オリーブか~良いかも。古代では神聖なものとして扱われてた植物でオリンピックで使われたなら体育祭にピッタリじゃん!植物がデザインのTシャツなら文化祭でも使えるだろうし良い案だと思う。流石夢食さん!


「はーい、取りあえず案だけ提案させてもらいますね。夢食さんはどんな高校生だったんですか?」

「あ~?普通の高校生だよ」

「え~夢食さんが普通なんてあり得ませんよ」

「どういう意味だこら」

「恋人とか居たりしたんですか~?夢食さんモテそうだし」


 夢食さんの顔は少し老け顔だが落ち着いた雰囲気と相手の調子に合わせる話術、面倒見が良い性格などモテそうな要素が沢山だ。あ~でも、イケイケな夢食さんとか想像出来ないし高校生時代でも若さを感じられそうにないから人気ないかも?


「おい、一人であ~やっぱりないなって顔してんじゃねーよ」

「やべ、顔に出てましたか?」

「大変分かりやすかったぞ」


 やっべ、夢食さんは察する力が強いんだから表情には気を付けないと。まぁ別に怒って無さそうだし、高校時代の夢食さんはかなり気になる。


「いや~すみません。それで、実際どうなんですか?」

「普通の公立で真面目に勉強してただけだからな、恋人は無しだ」

「そうなんですか~」

「高校時代は色々と必死だったからな恋愛なんて眼中になかったぜ」

「なんでそんな必死に?」

「良い大学に入ってさっさとこの店を開くためにだ。この店の持ち主が大学を出るまでこの店はやらんって言いやがってな。本当は大学も行く気は無かったんだが、仕方なく経営の短期大学に行ってやっと去年店を開けたんだ」

「そうだったんですか・・・・」

「必死な学生時代だったからそこまで印象に残っていることは無いが、一度しかない学生生活だ。存分に楽しめよ」

「はい、楽しみます!」

「という訳でバイトを減らして青春を・・・・」

「バイトも青春の一部何で減らしませんからね!」


 働き過ぎだというがこのバイトはかなり楽だしやりがいがある。だから、バイトを減らすつもりは無しい学校生活を犠牲にしているつもりもない。夢食さんは学生時代は大変だったみたいだけど、今はのんびりとこの店をやれてるみたいだし努力が報われて良かった。俺が夢食さんと出会えたのも夢食さんが努力したからなんだよな~夢食さんにとって俺と出会ったことが良い出会いになると良いな。


「まったく・・・・バイトに入ってくれるのは嬉しいが友達と遊んだり家族と話すのを大事にしろよ」

「それはしっかりと時間を取ってますのでご心配なく」

「そうか、なら良かった」


 帰ったら父さんの妖怪講座を聞いているし、バイトのシフトは自由だから友達の休みに合わせて調整できるし不自由なんて一切感じてない。


「ほら、バイトが楽しいなら仕事を増やしてやる。面倒でつまらない店主とお茶だ」

「わ~い、今日は何の菓子ですか?」

「ミルクレープだ」

「大好きです!」

「ミルクレープって自分でも作れるけど、何枚も重ねて作るのは面倒で絶対作りたくないよな~」

「菓子作りって手間も多いですよね~」

「だから、買うに限る」


 俺は夢食さんと楽しいお茶の時間にすることにした。求眠堂に来たおかげで毎日が本当に楽しく新鮮な事ばかり夢食さんには感謝しないとね。

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