夢食さんのお宅拝見!2
「面白いものは無いと思うが、俺の部屋見てみるか?」
「え、良いんですか?」
「あぁ、良いぜ」
衝撃の生態について話した後俺達は何気ない話をしていると、夢食さんはそういえばと思い出したかのように言う。正直かなり興味があるが、そこまでプライベートに踏み込んでは駄目だと思ったので入りたいとは言わなかった。だけど、まさかの提案に俺は吃驚しながら頷いてしまった。
「それじゃあ、独り身男の要塞にご案内ってな」
「良いんですか?いや、まあ家に上がってる俺が言える台詞じゃないんですけど」
「おう、別に隠すようなものは無いからな」
そう言って立ち上がると俺もそれに続きしまっていた戸を開くとそこにはフローリングの床と中央奥には大きな柔らかそうな紺色のベット。左にはずらりと本棚が並んでおり右はクローゼットになっている様だ。ベットの横にあるサイドチェストの上には、有名な最新ゲーム機があった。
「普通ですね~」
「そりゃ普通だろ」
「お、この漫画俺も持ってます」
「この漫画面白いよな」
ずらりと並んだ本棚の中には、難しそうな本も沢山有ったが半分くらいは俺でも知っているような漫画や自然の写真集など馴染み深いものがあって少し安心した。部屋の中は想像より人間味があって面白く、中に入って色々見てみる。
「写真集も多いんですね~自然とか絶景とか好きなんですか?」
「大自然の写真を見てるとなんだか落ち着くんだよな~仕事で色々な場所に出掛けるが生憎写真のセンスが無くてな。こうやってプロが撮った写真を眺めて楽しんでるんだよ」
「へ~最近だと何処行ったんですか?」
「県外だと1月に新潟に行ったな。大雪の所為で寒すぎて風邪ひくかと思ったぜ」
「仕事でそんなに遠くまで行くんですか?」
「客の中には、自分が住んでいる領域から出ることが出来ない奴が居るんだ。そういう時は俺から尋ねに行くんだよ」
「領域から出られない・・・・座敷童とかですか?」
「あぁ家に住み付いている座敷童もそうだな。あとは見た目を変えられないから妖怪の里から出られない奴とかな」
「なるほど・・・・」
姿を変えられる夢食さんや芍露さん、姿を消すことが出来る脛こすりのモフちゃんを見ていたから、てっきり全ての妖怪は人前に出ても驚かれず大丈夫な方法を持っていると思っていたがそう言う妖怪も居るのか。
「結構あるから朧月の休みが重なったら連れて行ってやるよ」
「え、マジですか!旅費貯めとかないとな~」
「仕事で行くんだ旅費は出してやるよ」
「おお~太っ腹!」
また妖怪に関する場所に行く予定が出来て喜びながら部屋を見渡してみると、本棚の角に飾られたまるで夜空のように儚く輝く見たことが無い花に気付いた。その花はまるでお土産に売られているスノードームのように丸い夜空が花となり、その花を囲むように水晶のような葉が咲いていた。
「これ・・・・作り物ですか?」
「いや、本物の植物だ。名前は
「えいか・・・・?」
「永遠の永に華と書いてえいかだ」
「なるほど・・・・これって見た目からして普通の植物じゃないですけど、妖怪の植物なんですか?」
「そ、雪女が降らす雪の下で月光を浴び長い時間を掛けて成長する花なんだ」
「幻想的ですね・・・・」
まるで作り物のように美しい花に見惚れながら夢食さんの話を聞く。この花は見ていると吸い込まれるような、何処までも落ちていくような不思議な感覚がする。これが妖怪達によって生まれる不思議な植物・・・・
「見た目は綺麗だが、よく言うだろ綺麗な花には棘があるって」
「言いますけど・・・・この花もなんですか?」
「それはな、正しい手段で薬にすると妖怪でも人間でも永遠に目覚めない眠りに就くことが出来る薬の材料なんだ」
「えぇ、こんなに綺麗なのに!?」
綺麗な見た目を裏切り恐ろしい薬の材料になると聞き驚いて思わずのけぞってしまった。
「永遠の眠りってつまりは死んじゃうってことですよね?」
「いや、そっちの永眠じゃない。本当に何をしても起きない睡眠状態になるんだ。より詳しく言うなら体が完全なる冬眠状態になるって感じだな。生理現象も加齢も栄養を補給する必要さえない眠りだ」
「そんな薬が・・・・もはや毒じゃないですか」
「薬も毒も同じようなものさ」
「何でこんな危ない花、飾ってるんですか?」
「研究用」
「えぇ・・・・何か有ったらどうするんですか」
いくら夢食さんが妖怪の花とかに詳しくても万が一ということがある。こんな危ない花を寝室に飾るなんて気が知れない。
「俺を誰だと思っているんだ?眠りに関してのスペシャリストだぞ。少し厄介だが俺の力を使えばこの薬で眠った奴でも目覚めさせられるんだよ。だから、万が一があっても大丈夫だ」
「あ、そっか。夢食さんは・・・・」
「そういうこと」
夢食さんは獏で眠りに関してのことだったら、大体のことが出来るのだった。こんな薬で眠った人をも起こすことが出来るなんて、本当に凄い力なんだな~地味と言ってしまってすみません!
「でも、そんな薬を誰が使うんですか?」
「寿命が永遠に近い奴らとかだな」
「何でですか?せっかく永遠に生きられるのに・・・・」
「あまりに永い時間を生きていると、何もかもを忘れて眠りに就きたくなることがあるんだよ。永遠の命に近いものはそう簡単に命の灯を消すことは出来ないからこの薬に頼るのさ」
「そう・・・・なんですか・・・・」
永遠に近い命と聞くと少し憧れはするが、その宿命を背負った人達にはその人なりの悩みや苦労があるのか・・・・夢食さんはどうなんだろう
「俺はこの薬で眠った人達を起こす仕事もしているからそのために研究用として持ってるのさ」
「これもお仕事なんですね・・・・」
「色々やってるんだよ、他の獏が気ままな所為でな」
「そういえば言ってしましたね。普通の獏は夢から夢へと渡り歩いてるって」
少し暗くなってしまったので話題を変えることにした。夢食さんが出来るって事は普通の獏でも出来るってことだもんな。他の獏は一体何をしているんだろう。
「そうなんだよ、獏は気ままだし悪夢を一回食べてしまうとその人は悪夢を見なくなってしまうから次から次へと場所を変える故に定住をしないんだ。だから、何処に獏が居るかを知っている妖怪は少ないし、昨日見たからと言って今日居る保証も無いからな」
「獏って悪夢しか食べないんですか?」
「いや、悪夢以外も食べられるんだが悪夢が一番美味いし栄養が多いんだ」
「なるほど」
「俺は苦くてあんまり好きじゃ無いけどな」
「苦いんですか?」
「おう、ブラックコーヒーより苦いぞ」
「うわ・・・・」
顔を顰めながら言う夢食さんにつられて俺も味を想像してしまい俺も顔を顰めてしまった。夢食さんは甘党みたいだし、苦いのは苦手なんだろう。
「だから、口直しは必須なんだ」
「あぁだから菓子がいつもあるんですか」
「そういうこと。まぁつまり自由奔放で住所不定の獏どもは用があっても捕まらないから場所が割れてる俺に仕事がまわってくるんだよ」
「大変ですね・・・・」
「獏自体数が少ないから仕方が無いんだけどな~最近は俺じゃなくても良い依頼とかも来るようになったし、はぁ面倒だ」
「依頼って陰陽師とかからも来るんでしたっけ」
「あぁ俺はただの求眠堂の店主だっていうのによ」
凄く面倒臭そうに言っている夢食さんだが、きっと来た依頼を断る事無く受けているからどんどん依頼が来ているんだろうな~夢食さん自分では否定するけど面倒見が良いし、人と接するのが上手いからその人柄も影響しているんだろう。
「何笑ってるんだ?」
「いえ、別に」
「変な奴だな・・・・ほら、そろそろアロマキャンドルが固まってるだろうから見に行くぞ」
「はーい」
俺達は少し親近感が湧いた夢食さんの部屋から、作業部屋へと戻るとキャンドルが固まっていることを確認し今日の作業は終わりだと言われ家に帰った。
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