夢食さんのお宅拝見!
アロマキャンドル作りが終わった俺達は、さっさと片付けを始めテーブルの上には固まるのを待つキャンドルだけとなった。他に作業も無いので、夢食さんと雑談でもしようかなと思っていると
「此処に居てもつまらないだろ、後は固まるのを待つだけだから他の部屋行くぞ」
「え!!」
「なんで目を輝かせてるんだ・・・・?」
「探検!」
「子供か!まぁ良いが面白いものなんて無いぞ」
作業部屋だけで他の部屋を見ることは出来ないと思っていた俺は、他の部屋に行けると聞き二階に行くと聞いた時のあのワクワク感と探検心を思い出し目を輝かせる。そんな俺を見て夢食さんは、若干呆れ顔だが特に咎める気は無いみたいだ。俺は夢食さんと部屋を出る。二階の間取りは階段を挟んで前後に一部屋ずつ、そして階段の横には廊下を挟んで大きな襖が並んでいて欄間には洗練された葉や枝が彫られたものが飾られている。
「あっちの部屋は何ですか?」
「あっちは洗面台と風呂」
「なるほど」
俺達が出て来た部屋の対面にある部屋が何かを聞いてみると、あっさりと答えてくれる夢食さん。そして、大きな襖に手を掛け開くとそこには想像していた景色とは全く違った光景が広がっていた。
「なんか・・・・凄いリラックス空間ですね」
「そりゃ一人で住んでるんだから好きな空間作るに決まってるだろ」
「クッション好きなんですか?」
部屋の奥には、テレビの部分だけが窪んでいる凹という漢字のような木で出来た棚に大きなテレビ。そして、い草の香りが立つ新しい畳の上には低い木で出来たテーブルに柔らかそうなクッションたち。そして、丸いタイプや横長のタイプ、そして大きな人を溶かすことで有名なクッションたちが床に置いてあった。しまいには、寛ぎやすそうなふかふかの大きなソファーという完全に寛ぐための空間が出来上がっていた。
「おう、普通のソファーも好きだがゆったり寛げるクッションの方が好きだな」
「へ~俺もクッション好きですよ!」
「そうか、飲み物入れてくるから好きに寛いでろ」
夢食いさんはそう言うと部屋の左にある戸を開く。その先にはリビングとは違い新しいフローリングの部屋が広がっていて、冷蔵庫やダイニングキッチンを見る感じ隣の部屋はキッチンになっているみたいだ。
「朧月~おはぎ食べるか?水と茶とジュース、牛乳が有るけど何が良い?」
「頂きます~お茶で!」
「あいよ~」
そして夢食さんはおはぎと一緒にお茶を持ってきてくれ一緒に作業後のおやつとなった。
「ん~おはぎ美味しい!」
「そりゃ良かった。そういえば、朧月はこし餡と粒餡どっち派だ?」
「俺は美味しければどっちも好きです!」
「俺もだ」
「夢食さんって何時も何かしらのおやつ食べてますよね~甘い物が好きなんですか?」
「なんかその言葉だけを聞くと食いしん坊みたいに聞こえるが甘い物は好きだな」
今日ご馳走になっているのはこし餡のおはぎでサイズは中々に大きく一つで十分な量だ。小豆の甘さが良く出ているが、くどい程甘い訳では無く大きなおはぎでもぺろりと食べてしまう程優しい甘さだ。毎回思うけど、夢食さんが勝ってくる菓子は全て美味しいんだよな~。
「このおはぎも近所のお店の奴なんですか?」
「そうだぞ~」
「近所に美味しい店があるって良いですね~」
「おう、飯屋も美味い所ばかりだから良くお世話になってるぜ」
「へ~自炊はあんまりしないんですか?」
キッチンを見た感じ綺麗に整っているし、調味料や料理器具など結構料理しそうな感じなんだが。
「いや、基本的には自炊をしているぞ。だが、たまに作るのが面倒になる時が有るからな」
「なるほど」
「これでも一人暮らしが長いからな、一通りの物は作れるし家事なんかは店で色々やっているから苦手なものは特に無いな。朧月はどうなんだ?」
「ん~子供頃はお菓子作りとかしましたけど最近は全くですね。飯も母さんが作ってくれるからな~」
「家事は一通り出来た方が良いぞ~」
「あ~そうですか?」
「掃除と洗濯は仕事でやるから出来るようになるだろうが自分が好きな物を作って食べられるっていうのは良いぞ~」
「そういうもんですか?」
料理って材料をそろえたり下準備をしたり煮たりと色々と時間が掛かってしまうから面倒でやろうという気にならないんだよな~毎日そんな面倒な飯を作ってくれる母さんありがとう!
「家族や同居人が居る時は無理だが、一人暮らしの場合毎日ジャンキーなものでも文句言われないからな!自分の好きな味付けにも出来るしな」
「なるほど~」
「誰にも気を使わなくていい食事っていうのは楽しいもんさ」
「あ~レモンかけるかけないとかありますもんね」
「ある程度の物を作れるに越したことは無いってことさ」
「じゃあ、夢食さん教えてくださいよ」
「嫌だ面倒」
「即答!?」
料理を作れる魅力を語ってくれた夢食さん。夢食さんの言葉も一理あるなと思い料理を教わろうと思ったらあっさり断られてしまった。もう少し考えてくれても良いと思うんだけど!
「毎日のようにバイトしてるんだがから、教える時間なんてねーだろお前」
「休みの日とか」
「休みの日は休むためにあるんだよ。学校にバイトにと忙しいんだから、休みの日ぐらいしっかり休め」
「え~」
休みの日も料理を教わるという名目で求眠堂に来られると思ったのに!
「母親にでも教えてもらいな。そういう親子のコミュニケーションって出来る時にしておいた方が良いぞ」
「一人でも出来ると思うんですけど」
「初心者が監督無しでやるのは危ないだろ。刃物や火を使うんだから、誰かしらの熟練者が居た方が良いんだよ」
「は~い」
「それで良し」
母さんに教わるのはちょっと恥ずかしいなと思って自分一人で携帯で調べながら練習してみようかなと思ったけど、火事とか起こしてしまったら取り返しがつかないので夢食さんの言う事に従っておこっと。
「右の部屋は何の部屋なんですか?」
「ん~?そっちは俺の寝室兼書斎みたいなもん」
「へ~・・・・」
「そんな期待した目で見ても、何も無いからな」
夢食さんの完全なる私室となれば、何か面白いものがあるのでは!?と思ったけど、そんな考えはお見通しのようで呆れ顔を向けられてしまった。
「え~とか言って本当は何か隠してるんじゃないんですか~」
「二十代の一般男性に何を求めてるんだお前は」
「夢食さんは一般男性じゃないでしょ!」
「妖怪と関わる仕事をしているってだけで私生活は人間とほぼ同じだぞ。純粋な獏のみたいに次から次へと悪夢に魘されている人間を探している訳じゃないからな」
「そうなんですか・・・・残念。てか、獏って悪夢に魘されている人間を探すんですか?」
普段の生活は普通の人と殆ど変わらないと言われてしまい少し残念だが何やら面白そうな話が新たに!そういえば、獏の力については聞いたけど生態について詳しく夢食さんから聞いたこと無かったな。
「ん~あ~普通の獏はな」
「なんか歯切れ悪いですね」
「まぁお前なら良いか。獏は夢を食べるという性質が加わった所為で体を維持する為や成長するためには夢を食わないといけなくなったんだよ。だから、獏達は人間で言う栄養補給つまりは食事の為に夢を見ている人間の元へ行かないと駄目なんだよ」
「え、それって夢を食べないと死んじゃうってことですか?」
「そういうこと」
「えぇぇぇ、肉とか魚とかは食べられないんですか?」
「食べられない訳じゃ無いぞ、栄養にならないだけだ」
「そうだったんですか・・・・」
まさか、獏が夢を食べなければ死んでしまう生き物だということを聞いて衝撃を受けてしまった。妖怪は不思議な生き物だとは思ってはいたけど、そんな性質を持った生き物が居るなんて・・・・あれ?でも、夢食さんはどうなんだ?人間の体を持っているけど獏の力を持っているんだよな。
「じゃあ夢食さんも夢を食べないと死んじゃうんですか?」
「・・・・まぁな」
「大変じゃないですか!?あの、俺の夢食べますか?お腹空いているなら今すぐにでも寝ますけど!?」
「・・・・ぷっ はははははっははは」
「え!?ちょなんで笑ってるんですか?」
夢食さんは俺の言葉を聞くと、鳩が豆鉄砲を食ったような顔を見せると次の瞬間腹を抱えて爆笑し始めてしまった。俺は夢食さんが死んじゃうんじゃないかと思って心配して言ったのになんでそんな笑っているんですか!!
「いや~笑った笑った。何だよ俺の夢食べますかってあははは」
「ちょ!人が心配して言ったのに!」
「あはは、心配してくれたのかありがとな。だけど大丈夫だ。求眠堂に来る客の夢を食べさせて貰ってるから死ぬようなことは無いから安心しろ」
「あ、そうなんですね・・・・良かったです」
「俺は人間の体を持ってるからな、普通の食事でも少しは栄養補給が出来るから純粋な獏よりは楽なんだよ」
「なんか、ホッとしました」
「ありがとな」
夢食さんは何時もとは違うとても優し気な笑顔をしながら言った。
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