夢食さんの力

 翌日の昼休みいつものメンバーと一緒に昼飯を食べていると、話題は最近放送されたファンタジーアニメについてとなった。


「それでさ~そのキャラが狐獣人でめっちゃ可愛いんだよ!」

「あ~分かる~あのモフモフの尻尾触ってみたいよね~」

「うむ、やはり獣人というのはとても魅力的だ」


 俺は三人が話しているアニメを見ていないので詳しくは知らないが、話を聞いているとそのアニメは多くの獣人や架空の生き物を擬人化した女の子たちと一緒に冒険をするという話らしい。中でも、爽太のお気に入りは狐の獣人とのこと。


「狐の姿になっても可愛いよな~モフモフってどうしてあんなに可愛いんだろう」

「アニマルセラピーだよね~」

「犬や猫はその代表格だな。家で柴犬を飼っているが、あれほど可愛いものは存在しないとすら思える」

「あ~確かに犬と猫は可愛いよな~」


 会話に合わせながら話しているが、俺の頭の中は狐の獣人と聞き昨日会った芍露さんで埋め尽くされていた。聞いているかぎりだと、完全に芍露さんの特徴と合致してしまい、可愛いと言われてちょっと素直に頷くことが出来ない。あの人は可愛いじゃなくて、美人・・・・いや残念美人?獣の要素もかなりあるみたいだし本性は震えるほど怖かったしな~・・・・

 みんなが話している狐獣人とは違う物だと頭では分かっているが、どうしても違うものだと考えられず生返事になってしまう。


「蛇の獣人も居るんだけど、あれはあれで可愛いよな。俺蛇って言ったら怖いイメージだったけど、あの艶々した鱗とか綺麗だって思ったよ」

「蜘蛛の子も可愛いよね~僕、虫は苦手なんだけどあれなら大丈夫だな~」

「龍人も素晴らしい肉体美だ」


 蛇か~昨日帰った後に夢食さんが言った蛟について調べてみたら水の中に住む蛇に似た妖怪と出て来た。求眠堂のお客さんらしいからそのうち会うだろうけど、恐らくだけどアニメみたいな可愛らしい性格はして無いと思うんだよな~。


「あのアニメって、可愛いキャラが居るのも良いが戦闘シーンもかなり凝ってるよな」

「だね~普段はほのぼのとした作画なのに、戦闘シーンに入った瞬間迫力のある作画になってギャップが凄いよね~」

「あぁ特に各々の特徴を生かした戦闘シーンは見ものだな。トレンドになるのも分かる」

「へ~そのアニメ戦闘シーンもあるんだ」

「そうだよ~狐の子は雷とか幻術を使ったりして戦って、蛇の子は毒とか水を使って戦うんだけど、戦い方がみんな特徴的だからすごく面白いんだよ!」

「そうなのか、俺も見てみようかな」


 ほのぼのアニメなのかなと思ったらどうやら戦闘シーンにもかなり力を入れているアニメらしい。キャラ一人一人に特別な力を持っているアニメか~ちょっと興味あるな。

 狐のキャラが幻術を使うと聞いて、真っ先に思い浮かんだのは芍露さんと初めて出会った時のことだ。あの時確かに店内を見渡したはずなのに、芍露さんの姿を見つけることが出来なかった。あの現象ってもしかしたら、芍露さんの力だったりするのかな?


「色々な配信サイトでやってるか、おすすめだぜ」

「うむ、まだ5話だからな。十分に追いつけるだろう」

「おう、帰ったら見てみるよ」


「って言う事が有ったんですけど」

「それを聞いて、俺はなんて言えば良いんだ・・・・友達出来て良かったなとかか?」


 学校が終わった俺はいつも通り求眠堂に来てバイトをしながら昼間の会話を夢食さんに伝えると、渋い顔をしながら首を傾げる。


「いや、妖怪にもそういう特徴的な力ってあるのかなって思って・・・・てか、その言い方だと俺友達居ない人みたいじゃないですか!」

「だってお前毎日のようにここに来るからさ、友達居ないのかと」

「いや、友達の事結構話してますよね!?」


 絶対いるってことを分かっていながらも揶揄ってくる夢食さんに抗議すると、悪い悪いと笑いながら


「お前が言うように妖怪固有の力っていうのはあるぜ。昨日会った芍露はお前の予想通り幻術を使うんだ。よく昔話にもあるだろ?狐は化かすって」

「じゃあ、芍露さんのあの姿って・・・・」

「あれも化かした姿だな。本当の姿は大きな黄金色の毛皮持った狐だぜ」

「えええ、そうなんですか・・・・ちょっと見てみたいな」

「あ~芍露は獣の姿を見せるのは好きじゃないから滅多に見れないと思うぜ。他の奴だったらワンチャンあるかもな」

「え~残念です。狐って他にも能力ってあるんですか?」

「あるぞ~谷を越えるほど脚力や風や雷を操ったり数が集まれば天候も操作できるぞ」

「おおお、すげぇ!狐ってめっちゃ力強いんですね!」 

「狐は妖怪として昔から色々な事象と結び付けられて来たから多彩なんだよ」

「じゃあ、夢食さんは何が出来るんですか?夢に入ったり夢を食べたりする力は知っているんで他には!?」

「近い」


 狐はアニメのような力を持っていると断言され、その力の豊富さに興奮しつい夢食さんに詰め寄ってしまった俺は言った落ち着きを取り戻すために、深呼吸をする。


「いや~すみません」

「興奮し過ぎだろ」

「いや、アニメみたいな力があるって聞いたら誰でも興奮しますよ。それで、他にどんな力を持ってるんですか?」

「はぁ、眠りに関することなら大体のことは出来るぞ」

「具体的には!?」

「ぐいぐい来るな・・・・眠らせたり眠りから覚ませたりそんな感じだ」

「眠らせる・・・・あ、前に言ってた眠らせてるから起きないって」

「そ、力を使って眠らせているから俺が起こすまで起きないんだ。と言っても客全てに力を使ってる訳じゃないぞ。あまりにも眠れない場合や長時間眠りたい時ぐらいに使うだけで、他はアロマを使って自然に眠らせてるんだ」

「そうだったんですか・・・・こう言ったら何ですけどなんか地味ですね」

「あぁん?」


 もっとこう影を操るとか雷を操るといった派手で爽快な力を期待してた故に、思わず本音がポロリと。それを聞いた夢食さんはまさに般若のような形相で俺を睨み顔面を掴み上げる


「いたたたた」

「嘘言ってるんじゃねーぞ、力入れてねーだろうが!」

「あー酷いー暴力はんたーい」

「棒読みじゃねーか!」


 痛がる演技をする俺に溜息を付きながら


「あのなぁ力っていうのはどんなものでも使い方と捉え方次第で強くもなるし弱くもなるものなんだよ。朧月、一つ聞くがお前は寝ている時に襲われてすぐに反撃できるか?」

「え、そんなの無理に決まってるじゃないですか」

「だろ?生き物は寝ている間必ず無防備になる。そして、その無防備な状態を俺は強制的にさせることが出来るんだ。俺が目覚めさせない限り、そいつは何やっても起きないし好き放題ってことだ」


 どんな状況でも相手を確実に眠らせる能力ってことか・・・・そう考えると中々凶悪な力じゃないかそれ。


「うわ・・・・悪役みたいですね」

「まぁな、眠りの力を悪用したらえげつない事まで出来るんだよ。やらないけどな。もし力を悪用したら妖怪全体に影響が出るし、陰陽師に目を付けられた退治だってあり得るしな」

「あれ?芍露さんは今の陰陽師は妖怪と戦うなんて事あまり無いって・・・・」

「あまりだろ?陰陽師は妖怪に対する警察みたいな役割も持ってるから、もし妖怪が犯罪を犯したら陰陽師が対処することもあるんだ。まぁ殆どは妖怪内で問題を解決するんだがな」

「へ~・・・・妖怪でも犯罪者は居るんですね」

「そりゃ妖怪だって良い奴と悪い奴がいるさ」

「でも、妖怪内で問題解決するなんてみんな協力的なんですね~普通なら警察に頼ると思うんですけど」


 人間だったら、力の持った悪人に対して極力関わらないで全て警察に任せてしまうと思う。妖怪の力って人間にとっては、銃やナイフといった凶器みたいなもので、それを振り回している人に俺は近づこうと思わないし、殆どの人が近付きたくないと答えるだろう。


「別に仲が良いからとか正義感で、問題を解決してる訳じゃないぞ」

「そうなんですか?」

「人と一緒に生活している妖怪にとって、力を犯罪に使って悪目立ちするやつは迷惑なんだよ。自分は関係無いのに、力を持っているという共通点で陰陽師の目が厳しくなるし、大昔には同じ種族だからとして大量に退治されてしまった事もある。だから秩序を乱す奴は自分の平穏を乱すものとしてさっさと対処するんだ。力をある程度持っているなら自分で解決してしまった方が早いからな」

「あ~なるほど」


 自分でも対抗できる力を持っているからこそ、自分達で解決しようとするのか。そう考えると夢食さんの能力って、犯人を捕まえるのにはもってこいの能力じゃないか?どれだけ力が有ったとしても、それを使う前に眠らせてしまえば終わりなんだから。


「夢食さんの力って制圧にはもってこいじゃないですか。夢食さんはそういった問題を解決したりするんですか?」

「しねーよ。俺は先祖返りだからそこまで深く関わったりしないからな」

「そういえば、夢食さんって先祖返りって言ってましたね。前に妖怪と人が混ざって生まれた人間は力を持ってるけど弱くなるって言ってましたけど、先祖返りも同じなんですか?」

「あ~・・・・先祖返りは例外だ。先祖返りっていうのは妖怪の性質が突然変異で強く出てしまった存在の事を言うんだ。だから、先祖返りが持っている力は純粋な妖怪と同等かそれ以上の力を持っているんだ」

「へ~じゃあ、夢食さんの力は強いんですね!凄いな~先祖返り」

「あんま良いもんじゃねーぞ」

「そうなんですか?」

「ま、色々あるんだよ」


 そう言って黙ってしまった夢食さん。少し寂しそうな雰囲気を出している夢食いさんにこれ以上追及することは出来ず俺は仕事に戻ることにした。

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