9-2 評価
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私は県下一の不良高校から、国公立の大学に進学しました。この高校から国公立の大学に現役で進学したと言うと、信じてもらえないことが多かったのを覚えています。ただ、多くの生徒の中には、年に何人かは国公立の大学に進学している人もいました。私の代では私を含めて三人が、それぞれ、希望する国公立大に進学しています。これは並大抵の努力では叶わないことです。周りは遊び惚け、授業の妨害が日常茶飯事ですから、その中で成績を維持するのはとても大変でした。
ここまで話すと、何故大学進学を目指すのに、この高校を選んだのか疑問に感じると思うので、先に言ってしまいますね。ただ単に、体が病弱で出席日数が足りず、内申点が低かったことが原因でした。授業にあまり出られなかったので、成績もあまりよくありませんでした。通院も出来て、確実に入学できる高校は、限られています。そこで私が目に付けたのが、この不良高校でした。折しも私が行きたかった大学が、推薦入試を始めた頃です。無理に進学校に言って下にいるよりは、最低ランクの高校で上位者になった方が、推薦枠が取りやすいと考えました。こんな打算で進学したのですから、佐野君は呆れるでしょうね。それとも、この高校の先輩らしいと笑うでしょうか。
話を戻します。予定通り、私は高校で上位者になりました。そして狙っていた通り、推薦枠で大学に進学することになりました。正直なところ、私は模擬試験の成績は悪く、A評価どころか、BもCもつけてもらったことはありませんでした。推薦がなければ、私はどこかで、妥協していたと思います。
大学に入ってからは、周りについて行くことがとても大変でした。特に今までの積み重ねがものを言う英語の授業は、どんなに頑張っても、常に笑い者で、成績も単位が取れるぎりぎりのラインでした。その流れで第二外国語も、やはり大変でした。語学が苦手な代わりに、新しく学ぶ分野の成績は良かったです。苦手分野と得意分野でバランスが取れたので、私の大学生活は穏便なものだったのだと思います。
しかし、大学生は四年間限定です。大学生の就職活動は、年々早まっていて、私の場合は三年生になると、もう就職活動が始まっていました。毎日のように就職のセミナーが催され、面接の練習会や、説明会が開かれました。慣れないスーツに身を押し込め、慣れない靴で歩き回るのですから、いつも以上に疲れ、足には靴擦れが出来ました。それでも次の日も、また次の日も、スーツを着て靴をはいて、企業の説明会や大学のエントリーシートを書くために、日々動き回らなければなりませんでした。長かった髪を言われた通りに短くして一本に束ね、化粧もナチュラルメイクを施し、爪も磨きました。それでも、私は皆より就職活動が上手くいきませんでした。それはそうです。皆は受験を正当に受けて、実力で受かっています。しかし私は推薦頼みの劣等性です。それに、県内企業から、エントリーシートに書いてある高校名で、落とされたという話を聞いてしまいました。大学のエントリーシートは、履歴書の電子版です。大学の卒業見込みがある大学生は、高校卒業から書き始めると決まっていました。その高校名で、私が推薦組だとばれていいたのです。
結局、私は四年生の夏に、県外の企業から内定が出ました。大手の事務機器メーカーの企画運営でした。就職活動に疲れ、目標とする企業もなかった私は、その一社の内定を受けて、就職活動を終えました。単位もそろっており、後は卒業論文を書けば、私はそのまま卒業となるはずでした。しかし、その卒業論文の資料を集めている中で、私に内定を出した会社が、ブラック企業であるという噂が流れてきました。本当にブラック企業なのかは、入社してからしか分かりません。どの会社もどこかは問題を抱えていて、それを外部の人間がブラックだと決めつけるのは、おかしい気がしました。だから私は、その企業の内定を取り消そうとは考えませんでした。
卒業論文を書ききった私は、無事に大学を卒業しました。そして四月から大手事務機器メーカーの会社で、新しい一歩を踏み出しました。実際に企業で働いてみると、ブラック企業と言う噂は、嘘だと分かりませした。私は任された仕事を次々こなし、新しい仕事にやりがいを感じていて、何の仕事が来ても嫌な顔せずに受け取っていました。そのせいか先輩や同期からの信頼も厚く、上司からの評判も上々でした。会議でも大学で培った論破の力がものを言い、すぐに上司に褒められるまでになりました。相手の議論のおかしな点を見事に突き崩し、代替案も正確に打ち出す私は、会社から一定の評価を得るようになりました。
そして入社して間もない私に、一つの転機が訪れました。新商品の企画開発のプロジェクトリーダーを任されることになったのです。入社一年目にしてこんなに大きなプロジェクトを任されたのは、私が初めてだと言う話だったので、私は今までの苦労が報われたと思って、意気込んでいました。だから、私のことを気にいらない人々も中には存在するということを、この時の私は考えもしませんでした。
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