1-7 死

 進学校では信じられないかもしれないが、この高校では、授業で求人の見方を習う。給料だけではなく、福利厚生の記述や、実際の作業内容を見ろと教わった。ブラック企業が多い中でも、教師たちは必死にまっとうな職を、生徒に選ばせようと必死だ。だが、高校卒業、しかも悪名高いこの高校の卒業生だから、ブラックではない企業の方が珍しかった。土木作業や下請けの工場での作業、清掃業など、いわゆる3Kの求人ばかりが目立つ。香川が見ていたのは、建築業の下請けの会社だった。


「裏切ったな?」


 島崎に続いて、とうとう香川も就職に手を染めていたらしい。


「俺たちは、お前と違って筋金入りじゃないんだよ!」


 そう大声で言うと、香川は廊下を走り去った。それでも、俺は焦らなかった。残り物には福があるというではないか。それに果報は寝て待てとも、言う。俺は一人で、まだ遊んでいた。さすがに一人ではふざけても反応が帰ってこないので、つまらなかった。先輩にメールしても、彼女と遊ぶのが忙しいと、断られた。俺は何かに苛ついていた。好きなことを好きなように、今まで通りやっているのに、何故かむしゃくしゃする。その原因は分からない。公園にいても一人なので、学校に行くようになったが、俺を誰も相手してくれなかった。


 そんな俺のところに、香川からメッセージが届いた。そこには、山口の訃報がつづられていた。


「嘘だろ?」


 俺は香川のクラスに走り込んでいた。まだ休み時間だったから、注意する教師もいない。


「香川、何なんだよ、あのメール」


 俺は、苛々のぶつける場所を見つけたのだと思う。


「彼女に付き合って、産婦人科に行く途中だったらしい」


 そう言えば、山口は彼女を妊娠させたから、就職し、素行も直したのだった。


「車に突っ込まれたらしくて。あいつ、彼女を庇って、死んだらしい」


 山口が庇いたかったのは、彼女であると同時に、そのお腹の中の赤ん坊であっただろう。だから、咄嗟に、自分の体を犠牲にした。


「それで、彼女の方は?」

「それが、亡くなったらしい。病院で」


 言いにくそうに、香川は俯きながら言った。


「赤ん坊は?」


 香川は、これ以上聞かないでくれと言わんばかりに、首を横に振った。俺の苛立ちは、いつの間にか、やり場のない怒りに変わっていた。どうして、あいつが死ななければならなかったのか。あいつが死んでも守りたかったものが、どうして助からなかったのか。


 俺は憔悴しきった香川の肩を叩いて、自分の教室に戻った。






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