おまけ②「教えて!琴桐」









ジャスティス

おまけ②「教えて!琴桐」



 おまけ②【教えて!琴桐】




























 丗都が琴桐のもとに来てからしばらく経つが、今でもまだ、丗都は琴桐のことで分からないことが沢山あった。


 「ねえ琴桐、なんで本屋やってるの?」


 「ねえ琴桐、なんで冰熬と知り合いなの?」


 「ねえ琴桐、なんでリーゼントなの?」


 次々に質問を繰り返していくが、琴桐は聞いているのかいないのか、丗都の質問に対し、答えようという気持ちが見えない。


 次第に、丗都もまあいいか、と思う様になるのだが、少し経つとまた気になってしまうようだ。


 琴桐が他の人と話している場面もそうそう見かけず、普段もこうして丗都が一方的に話しかけている状態だ。


 「ねえ琴桐、人ってね、声を発さないでいると、本当に出なくなるんだってさ」


 「ねえ琴桐、俺、介護するのは御免だからね」


 それでも琴桐は一言も発さない。


 ふう、とため息を吐き、丗都はそれが日常茶飯事だから慣れているようで、自分の武器の手入れでもしようかと部屋を出る。


 没頭してしまい、夕方になって陽が沈むまで外が暗くなっていることに気付けなかった。


 それでも琴桐は特に何か言ってくるということもなく、というか、琴桐も同じように何かに没頭しているようだった。


 「・・・何してるの」


 「・・・・・・」


 「ねえってば。それ何?ゴミ?クズ?」


 ゴミがいけなかったのか、クズがいけなかったのか、それともその両方なのか、とにかく琴桐は珍しく顔をあげて丗都を見る。


 そして口を開いた。


 「見りゃわかるだろ」


 「分からないから聞いてるんだよ?琴桐にそんな趣味があったの?」


 そんな、というのは、小さな歯車やネジをいじっていることだろうか。


 何かを作っているようにも見えるが、それが何なのかはさっぱりだ。


 「?」


 丗都は琴桐に近づいて行き、それが何なのかを解明しようとすると、琴桐は丗都を見ずにこう言った。


 「その辺部品があるから近づくな」


 「・・・・・・」


 その辺って、丗都はまだ部屋に入って数歩しか歩いていないというのに、どれだけ散らかしているのだと呆れてしまった。


 それにしても随分と集中しているようで、いつも新聞を読んでいる以外、これといった動きを見せない琴桐が、珍しいことである。


 「玩具でも作ってるの?てか、琴桐って器用なんだね」


 工具を使い、頭には意味があるのかは知らないがタオルを巻き、目を細めて何かを見ている。


 「ねえ琴桐、なんで放浪してた琴桐が、この国で腰を据えたの?」


 「・・・なんだ今更」


 「あ、聞こえてたんだ。てっきり、シカトされてるのかと思ってたよ」


 琴桐のことはあまり知らないが、以前はあちこちの国を旅していたというのは聞いたことがある。


 それなのに、どうしてこの国で、こんなどこにでもあるような国に留まっているのか、丗都は気になっていた。


 それでも琴桐は手を休めることはなく、丗都はテーブルの上にあったあんまんを口に運んだ。


 「ねえ琴桐、教えてよ」


 「1つに絞れ」


 「何が?」


 「何か聞きてぇなら、1つに絞れ」


 「それは何?琴桐は歳だから、幾つか一気に質問されても分からないってこと?覚えられないってこと?」


 「なんでもいいが、んなくだらねえこと言うなら、何も答えねぇよ」


 「へえ。いつも何聞いたって、全然返事してくれないくせにね」


 「何度も言わせるなよ。俺ぁ暇じゃねぇんだよ」


 「すごく暇そうに見えるよ」


 太くてごつい指先を器用に動かしながら、琴桐が直していたのは、どうやら時計だったようだ。


 確かに、家に飾ってあった時計はしばらく前から止まってしまっていたのだが、普段からあまり時計を見ない丗都は、特には気にしていなかった。


 太陽が昇ったら動き出して、沈む頃には寝る準備、それで充分だと思っていた。


 琴桐だって常日頃から時計など見ていないだろうに、なぜか急に気になったのかもしれない。


 直した時計を壁にかけなおすと、琴桐はしばらくそれを眺めていた。


 「・・・琴桐って、変な人だよね」


 「さっきから喧嘩売ってんのか」


 「売ってないよ。それに、売っても買ってはくれないでしょ?」


 琴桐はまた胡坐をかいて座ると、散らかしていた道具やら工具やらを片づけ始める。


 それを頬杖をつきながらあんまんを食べていた丗都は、ただ眺める。


 「俺を拾ったのは、どういう理由があったのかは、教えてくれる?」


 「・・・・・・」


 一仕事終えた琴桐は、煙草を口に咥え、火をつけた。


 一服している琴桐を眺めていた丗都は、さらにもう一つ、あんまんを口に運ぶ。


 ちなみに、あんまんはおやつである。


 「くだらねぇな」


 「くだらないかな?同情して拾ったなら、そう言って構わないよ?俺は自分が幸せな家に産まれたとは、自信を持って言えないから」


 「小せぇことを一々考えるな」


 「小さいことなの?なら、なんで琴桐は冰熬みたいに知られてないの?俺のみたところじゃあ、琴桐だって冰熬と同じくらい強いでしょ?」


 「別に構わねえだろ。名が世に広まったって、良いことなんかねぇよ」


 「まあ、それは冰熬を見てれば分かるけど。一生困らないくらいの大金、手に出来たかもしれないよ?それでも、こうして日向から逃げて生きるのには何か理由があるの?」


 ふう、と煙を吐き、琴桐は灰を落とす。


 「お前を拾ったことに意味なんかねぇよ。そこに意味を求めるなら、俺はお前を拾っちゃいねぇ」


 「・・・よくわかんない」


 「あんまんばっかり喰ってると、俺くらいの歳になったとき、メタボになるぞ」


 「平気だよー。俺は琴桐と違って、ちゃんと運動してるから。あ、そういえば琴桐ってアンコ食べないよね。もしかして嫌い?」


 「別に喰えねえことはねえ。ただ好き好んで喰うほどのものじゃねえだけだ」


 「甘い物は食べるのにねー。よし、まあ、そろそろご飯作るとしますか」


 「炊き込み」


 「今から!?もち米ないから無理。味噌汁は豆腐とわかめにしよう」








 ―数年前


 『小僧、1人か』


 『独りじゃないよ。みんな、死んじゃっただけ』


 『そうか。何をしてるんだ?』


 『あのね、お墓作ってるの。沢山死んじゃったから、沢山作らないといけないの』


 『・・・小僧、着いてこい』


 『知らない人と、怖い人には着いて行っちゃダメって言われてる』


 『俺がどっちに該当してるかはさておき、小僧1人で生きていける世界はねえぞ』


 『けど、ここで待ってなくちゃ』


 『誰をだ?』


 『わかんない。けど、待ってなくちゃいけない気がする』


 『・・・なら、俺も待ってやろう』


 『おじちゃんも誰か待ってるの?』


 『さあな。待ってたもんは、もう来ねえってわかってるからな。暇つぶしさ』


 『ふうん。おじちゃん、変な人だね』


 『小僧もな』








 「琴桐、お願いだから食事の時は煙草は止めてよ」


 「いつからこんな生意気になったんだか」


 「昔からだよ」


 その日の夜、丗都がすでに寝静まった後、琴桐は1人、外へと出ていた。


 少し雲がかった空を見上げていると、冷たい風が煙草の煙を連れて行く。


 「・・・・・・」


 時間は残酷に流れて行く。


 それは誰にとっても平等なこと。


 「俺も、歳取ったな」


 ぽつりと呟いた琴桐の言葉を、踊りながら、笑う様に風が掻き消した。


 冷える身体に、琴桐は家の中へと戻る。


 そこで、上半身が布団から出てしまっている丗都を見つけ、肩までかかるように布団をかけ直した。


 「小僧が」


 小さく笑ってそう言った琴桐を、丗都はこれからも見ることはないだろう。


 翌日、琴桐が目を覚ますと、いつもなら起きているはずの丗都がまだ起きていなかったため、朝食を作らせるために起こそうと隣を開けてみると、そこには、頭と足が逆さの位置で寝ている丗都がいた。


 「・・・どうやったらそうなるんだ」



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