おまけ② 【 女の本性 】





壊し屋~最後の砦~

 おまけ② 【 女の本性 】


   おまけ② 【 女の本性 】










































  私、中島結花。自分で言うのもなんだけど、結構美人の方だと思うわ。


  けどね、美人っていうのは常に面倒なもので、意識してなくても勝手に人に恨まれてしまうものなの。


  女の僻みっていうの?そんなものに私、負けないけど。






  職場での出来事。


  「中島さんって、部長の愛人なんでしょ?」


  それは、良く晴れたある日、仲の良くない同じ職場の女性たちの会話の一部から始まった。


  結花からしてみれば、正直どうでもよくて、別にそれが事実であれ嘘であれ、自分には関係ないことだと割り切っていた。


  「え?課長の愛人じゃないの?」


  「私、別の部署の先輩の遊び相手だって聞いた!」


  「社長とも寝たって噂でしょう?」


  「うわ、最悪」


  「てかさ、一昨日かな、隣の課の東さんに告白されてたよ」


  「えー!?東さんって、あの超イケメンの!?信じらんない!!!」


  「ちょっと綺麗だからって、良い気になってんじゃないわよ」


  「本当は整形してるんじゃないの?」


  「それ、有り得る」


  クスクスと笑いながら話を続ける女性たちは、ちらちらと結花の方を見て反応を確かめてくる。


  それさえも煩わしいと感じる結花は、表情を変えずに事務作業を行っていた。


  五時になって定時であがろうと挨拶をして帰り支度を始めると、コツコツ、と数人のヒールの足音が聞こえてきた。


  「何か用?」


  「何か用?じゃないわよ。何よ、わざとらしく無視なんかしちゃって。あんたみたいな女、さっさと切ればいいのよ」


  「・・・それは残念ね。まあ、仕事に関しても見た目に関しても、私の方が上だから、残されるんだったら私のほうだと思うけど」


  「はあ!?」


  「こいつ、生意気!」


  学生の喧嘩か、と結花は半ば呆れながら着替えを終える。


  女性達の横を通り過ぎてさっさと帰ろうとすると、腕とぐいっと掴まれた。


  「東さんまでフッて、何様のつもりよ!!!」


  「・・・・・・ああ、東さんのことが好きなの?」


  確かに、さっきも東のことをイケメンだとかなんだとか言っていたような気もするが、結花にはあんな優男、眼中になかった。


  東はイケメンなのだが、一回話をしたとき、下ネタばかり投入してきたため、ゲスだと確信していた。


  結花にさらっと言われ、女性は顔を真っ赤にする。


  「ムカつく!!!」


  パシンッと頬を叩かれ、女性は興奮気味に息を切らせて結花を睨み続けるが、叩かれた方の結花は目を細めて女性を見る。


  凍りつくような冷たい視線に、女性達は皆一歩下がり、結花との距離をとる。


  少し赤くなった頬を押さえるわけでもなく、乱れた髪の毛を直すわけでも無く、結花は冷静に顔を正面に向ける。


  「東は止めておいた方が良いと思うわ」


  「な、何言ってんのよ!?」


  「顔は良いかもしれないけど、あいつは女遊び激しいと思うわ。この前二人で飲んだときだって、酔って何人の女を抱いてきただの、犯罪になるけど十歳年下でも全然イケるだの、上は母親くらいの年齢でも平気だの、胸は張りも大事だけど大きさは当然あるべきだの、甘えん坊だの実はMだの、Sっぽい上司と一回寝たけどその上司も実はMですごく引いただの、くだらないこと言って笑ってたから。私から見れば、あんな奴クズだし興味ないし、本当は会社を辞めて欲しいくらいに接したくないし、Mの男とか本当無いし、下世話な話ばっかりで正直うんざりしたわ。それでも貴方達が東のことが好きで付き合いたいとかお近づきになりたい、って言うなら私は止めないけど、きっと後悔すると思うわ。けどそれに対して責任は持てない。出来れば紹介もしたくないわ」


  一通り言いたいことを言い終えると、結花はちょっとスッキリした顔つきになり、ここでようやく髪の毛を直しだした。


  キョトンとしてしまった女性たちは、結花が去っていくのを止めなかった。


  ハンカチを水で冷やして少しだけ頬に当ててから会社を出ようとしたとき、「中島さん」と声をかけられた。


  声の持ち主には覚えがあったが、振り向きたくはなかった。


  聞こえないフリをして足早に去って行こうかとも思った結花だが、肩を掴まれてしまったため、仕方なく振り返る。


  「あら東さん。お疲れ様です」


  「良かったー!無視されちゃったのかと思ったよー!」


  「すみません、ボウッとしてて」


  ニコリと笑ってすぐに会話を終了させる努力を試みるが、空気が読めないこの男は、会話を終わらせても次の議題を持ってくる。


  「あれ?ほっぺた赤いよ?どうしたの?」


  「!」


  さらっと結花の髪の毛を触ったかと思うと、頬にまで手を伸ばしてきたため、思わず結花はその手を払ってしまった。


  「・・・なんだよ、その態度」


  「ごめんなさい。吃驚しちゃって」


  「ちょっと大事にしてやれば、それかよ」


  ああ、本当に面倒臭い男だ、と思うながらも、大事にしたくない結花はただ謝るだけだった。


  それでも怒りが収まらない東は、器が小さいというのかケツの穴が小さいというのか、人間が小さいというのか。


  このままではダメだと判断した結花は、東に向かって直球で言ってみることにした。


  「私、貴方には興味ないから。今後一切近寄らないでくれるかしら?」


  「・・・!?なんだと!?このアマッ!!!!」


  東の手が頭の上に上がり、結花も、先程よりも強く叩かれることを覚悟したのだが、それが降ってくることはなかった。


  「危ない!結ちゃん!!!」


  どこからか現れた祐介が、全速力で結花のもとまで走ってきて、結花と東の間に立ちはだかった。


  両手を広げて結花を守ろうとしたようだが、祐介にも当たり事はなかった。


  ぱこ、と軽く、近くにあった看板で頭を叩かれた東は、その衝撃が来た方を睨みつける。


  看板がもとの場所に戻されると、それを持ってた男は東に近づいてきて、見下ろすように目を細める。


  「広太郎!なんでここに!?」


  「うるせえよ。なんだ、こいつは」


  「それはこっちの台詞だよ!!!なんだ、てめぇらは!中島の男か!?」


  「え!?」


  「ああ?」


  東の言葉に、祐介は思わず顔を赤らめてしまい、広太郎は口角をピクッと動かして怪訝そうな表情をする。


  「んなわけあるか。誰がそんなバイオレンスな女」


  「結ちゃんの男なんて、俺、初めて言われた!ちょっと嬉しくなってきちゃった!!!」


  「そもそも、俺はただ仕事帰りで通っただけだ。てめぇに文句言われる筋合いなんてねえんだよ」


  「俺はね、今日珍しく仕事が早く片付いたから、結ちゃんと一緒に帰ろうと思って来たんだ!そしたら結ちゃんのピンチに遭遇したんだ!」


  二人の様子を見て、東は馬鹿にしたように笑う。


  「ハッ。なんだ、こいつの男じゃねえのか。なら、あっちにいけ。これは俺とこいつの問題だ。他人は素っ込んでろ。なよっちそうな男に、真面目が取り柄だけの坊っちゃんか、あんたは」


  なよっちいと言われたのは祐介で、坊っちゃんと言われたのは広太郎だ。


  東の一言一言に苛立ちを覚え始めた広太郎は、持っていた鞄を脇のほうに静かに置くと、ネクタイを緩める。


  「こんな奴に馬鹿にされる覚えはねえな」


  「は?」


  ボソッと言った広太郎の言葉が聞こえず、東は広太郎に寄って行こうとする。


  しかし、近づくにつれて感じる広太郎の空気に、思わず足が竦み、声が出なくなる。


  「初めて会った奴でこんなに不愉快な思いをさせられるとは思わなかった。だが覚えておけ。お前が誰だろうと、どんな権力や地位があろうと、金を持っていようと、俺はそんなものに従う愚行は犯さねえし、大体、俺が坊っちゃんってなんだ?あん?どの辺がそう見えるのか教えてくれるか。今までそんなに真面目一筋で生きてきた心算はねえんだがなあ。それに、真面目だけが取り柄ってのもなんだかなあ。お前みたいなクソ野郎にんなこと言われる筋合いねえし、胸糞悪いんだよな。だから一発殴らせろ」


  「え?」


  最後の最後でニコッと満面の笑みを見せると、東に歯を食いしばる時間も与えず、広太郎は右ストレートをかました。


  口の中を切ったのか、東は痛そうに頬を押さえ、怯えるように広太郎を見上げる。


  「いいか。今後一切、俺の前に現れるな。もし視界にちょっとでも入ったら、そんときは歯の一本や二本、無くなることを覚悟しておけよ」


  そのままネクタイを締め直し、鞄を持って帰って行ってしまった。


  「結ちゃんも帰ろう。送っていくから」


  「・・・・・・そうね。頼むわ」


  唖然としている東を尻目に、結花は祐介に送ってもらう事にした。








  ―翌日


  昨日叩かれた頬ももう赤さは消えており、いつも通りの化粧をして出勤した。


  自分の椅子に座って今日の仕事を確認し、さあいざ始めようというとき、女性たちが一斉に結花のところまで集まってきた。


  何事かと、目を丸くしていると、女性達は目をキラキラさせながら、こう言った。


  「昨日の人、誰!?」


  「え?昨日?何が?」


  何のことか分からないでいると、次々に結花に迫る。


  「惚けないでよ!!帰りに東さんから中島さんを救出した、イケメン二人のことよ!!!もう!超格好良かった―!!!」


  「え、まさか・・・・・・」


  あの二人のことだろうかと、結花は思わず眉間にシワを寄せる。


  「一人は爽やか系の少年よね!もう一人は、もう文句がないくらいのイケメン!しかも強い!格好いい!!!!!」


  「いや、あのね」


  「紹介して!!!」


  結花は学んだ。


  女性はイケメンが好きだ。


  そして、性格は二の次だ、と。


  「勘弁してほしいわ・・・・・・」






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壊し屋~最後の砦~ maria159357 @maria159753

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