第85話「天下の大悪人、雷光師匠に再会する(2)」

き腕を失ってから、従兄──ゼング=タイガは変わりました。それはたぶん……あの人が絶対的な強さを失ったのが原因だと思います」


 ──そんなことを、スウキ=タイガは言った。


 彼女はゼング=タイガの従妹いとこにあたる。

 だからいち早く、あいつの変化に気づいたそうだ。


 軍神ぐんしんとしてあがめられてきたゼング=タイガは、藍河国あいかこくの武術家に敗れた。

 それによって、最強の名にかげりが出た。

 ゼング=タイガは、人々が自分の強さを疑うのではないかと、恐れを抱いた。


 生まれつき最強だったゼング=タイガは、状況の変化にどう対応すればいいのか、わからなかった。自分の中にある『恐れ』をどう扱えばいいのかも、知らなかった。


 だから、自分に反対するものたちを、攻撃しはじめた。

 そうすることで自分の中の『恐れ』を消そうとした。



 ──それがゼング=タイガが暴走した原因だと、スウキ=タイガは考えたそうだ。



 壬境族じんきょうぞくにも現実的な者はいる。

 彼らは、『飛熊将軍ひゆうしょうぐん』との戦いのあと、しばらく藍河国あいかこくには侵攻しないように願い出た。


 ゼング=タイガはその者を処刑しょけいした。


 スウキ=タイガの父も、戦いを止めるように進言した。

 現王の弟だった彼は、殺されなかった。代わりにゼング=タイガは彼を部族の天幕テントから追い出し、王への目通めどおりを禁止した。


 やがて、ゼング=タイガは家畜かちくや作物を、強制的に集めはじめた。

 軍を動かすときの兵糧ひょうろうにするためだ。

 スウキ=タイガの家族たちは、もっとも大量の家畜を奪われた。

 王の一族の義務というのが、その理由だった。


 さらに、ゼング=タイガは新たな兵士の徴用ちょうようを開始した。

 若すぎる者や、齢を取り過ぎた者を集めて、槍を持たせて歩兵とした。


 家畜かちくや働き手を失った民は、冬を越せないと言ってなげきはじめた。

 民の不満は、高まっていった。


 そもそも、壬境族が藍河国あいかこくに侵攻したのは『藍河国は滅ぶ』という予言があったからだ。

 だが、ゼング=タイガの作戦はすべて失敗した。

 ゼング=タイガは片腕を失い、南に侵攻した軍勢は『飛熊将軍』に敗北した。

 戊紅族ぼこうぞくへの攻撃も失敗し、ゼング=タイガは部下のレン=パドゥを失った。配下にするはずだった戊紅族は、藍河国に臣従しんじゅうしてしまった。

 壬境族の周囲にいる異民族たちも、藍河国に使者を送りはじめている。


 予言を信じた行動は、すべて裏目に出ている。

 その結果、人々は不安に思い始めた。


 ──予言は間違っていたのではないか?

 ──このままでは、壬境族は孤立するのではないか?

 ──藍河国の滅びより先に、壬境族の滅びが来るのではないか?


 ……と。


 不安を抱える人々をまとめあげたのが、スウキ=タイガの父だった。

 彼は人々の話を聞き、よく面倒を見た。

 王に会うことはできなくとも、側近たちに話を通して、差し出する家畜や作物、人の数を減らすことに成功した。

 壬境族の者たちは、そんな彼をしたうようになった。



 その結果、スウキ=タイガの父は、ゼング=タイガの攻撃を受けた。



 スウキ=タイガの父は戦いを避け、山に逃げた。

 そこを拠点きょてんに立てこもり、ゼング=タイガには考えを改めるように呼びかけた。けれど、書状を届けに行った使者は、殺された。

 それでもゼング=タイガは、スウキの父を全力で攻撃することはできなかった。

 壬境族同士が本格的に争えば、その隙に藍河国が攻めてくるかもしれないからだ。


 にらみ合いが続く中、スウキ=タイガの父は、娘とレキ=ソウカクに命令した。


 ──藍河国に行きなさい。

 ──北の砦か、藍河国の首都の北臨──安全な方に向かうのだ。

 ──そこで藍河国の高官に、書状を渡しなさい。

 ──すぐに協力は得られないだろう。壬境族は常に、藍河国と敵対してきたのだから。


 ──だが、お前たちが藍河国と接触したという事実は、我々の希望になる。

 ──我ら穏健派に、藍河国が協力するという可能性を示せれば、それでいい。

 ──こちらに力があることを示せば、ゼング=タイガを止められるだろう。


 ──私は壬境族の裏切り者と言われるかもしれぬ。

 ──それでも、暴君の手で一族すべてが滅ぼされるよりましだ。

 ──頼む。どうか、我々に希望を。


 父から書状を託されたスウキ=タイガは、南へと向かった。

 脱出は成功したが、敵兵に見つかった。

 逃亡しながら南下して、街道の近くにたどりついたとき──


 ふたりは灯春とうしゅんの町に向かっていた雷光師匠らいこうししょうと出会ったのだった。






「……壬境族の者が藍河国に救いを求めるなど、虫のいい話だとお思いでしょう」


 説明を終えたスウキ=タイガは、平伏へいふくした。

 となりにいるレキ=ソウカクも同じようにする。


「ですが、先にも申し上げました通り、壬境族の中に藍河国の味方がいるのは……あなた方の利益にもなると思うのです」


 そう言ってスウキ=タイガは、俺たちに書状を差し出した。


「どうか、藍河国の高官の方に、この書状をお渡しください。引き受けてくだされば……私はすぐに父のところに戻り、そのことを伝えます。藍河国の方々が取り次ぎを約束してくれたという事実だけで、穏健派おんけんはは活気づくでしょう」

「それを知ったゼング=タイガたちは、藍河国を警戒する。スウキさんの父君との交渉にも応じるかもしれない、ということですね?」


 気づくと、俺は口を挟んでいた。


「──失礼しました」


 俺は雷光師匠らいこうししょうと秋先生に一礼してから、


「北の砦にいる父に関わることなので、つい、口出ししてしまいました」

「構わないよ。続けたまえ」


 雷光師匠がうなずく。


「天芳はお父さんから、北の地の話を聞いているのだろう? 君の意見は参考になる」

「ありがとうございます。それで……スウキさん」

「は、はい。こうさま」

「あなたのお父さんは書状を、北の砦か、首都の北臨ほくりんに届けるようにと言ったんですね?」

「どちらか安全な方に、と言っていました」


 スウキ=タイガは、懐から書状を取り出した。


「ただ、できれば北臨に届けて欲しいとのことでした。名高い燎原君りょうげんくんなら、事の利害もわかるはず。穏健派を支援してくださるかもしれない、と」

「ぼくも、書状は直接、北臨ほくりんに届けた方がいいと思います」


 北の砦にいる父上が、独断で穏健派おんけんはの味方をすることはできない。

 政治的な判断になるからだ。

 結局、父上は北臨の高官たちに判断をあおぐことになるだろう。

 それじゃ二度手間だ。


「ぼくの父上には使者を立てて、事実だけを伝えた方がいいでしょう。書状は直接、北臨に届けるべきだと思います」

「天芳の言う通りだ。では、私がふたりを、望む場所へと送り届け──」

「無理です。姉弟子あねでし


 雷光師匠の言葉を、ぴしゃり、と、秋先生が否定する。


「姉弟子はしばらく、私の監視下かんしかで、治療ちりょうを受けてもらいます」

「だけど翼妹よくまい。これは私がったことだ」

「今の姉弟子は戦えません。ふたりの護衛をするのは無理です」


 秋先生は真面目な顔で、告げる。

 俺はうなずいて、


「ぼくも秋先生と同じ意見です。それに……書状だけで藍河国の人たちを動かすのは難しいかもしれません」


 壬境族は長年、藍河国の敵だった。

 その壬境族の穏健派が書状だけを送ってきても、効果は薄い。

 信用できるかどうか、わからないからだ。


「ぼくは、スウキさん自身を、北臨に送り届けるべきだと思います」


 俺は言った。


「壬境族の王の弟の子どもが藍河国を訪ねて来れば、穏健派おんけんはの人たちが藍河国を信じている証拠になります。書状の内容にも重みが出るでしょう」

「だが、彼女の父への連絡はどうするんだい?」

「スウキさんに書状を書いてもらうのはどうでしょうか? それを壬境族の穏健派に届ければ、スウキ=タイガさんとレキ=ソウカクさんが北臨に向かったことがわかるでしょう」


 俺は、スウキ=タイガの方を見て、


「スウキさん」

「は、はい」

「あなたが壬境族の王の一族だと証明するものはありますか?」

「……あります」


 スウキ=タイガはレキ=ソウカクに目配せする。

 レキ=ソウカクが懐から、布に包まれたものを取り出す。

 開くと──そこには、石で作られたナイフがあった。


「壬境族の王の一族に伝わる、黒曜石こくようせきの小刀です。王の一族は新年になると、これを使って羊を殺し、皆にふるまうという風習があります」

「ああ。聞いたことがあるね」


 雷光師匠がうなずいた。


「燎原君の客人──詩人のひとりが、そんな話をしていたよ。そのことは燎原君も知っているはずだ」

「これがあれば、スウキさんの身分を証明できますね」


 燎原君にも、スウキ=タイガが壬境族の王の一族だとわかるだろう。

 交渉のテーブルについてくれる可能性はある。


「ひとつだけ、スウキさんに質問があります。あなたは、藍河国の人質になることはできますか?」


 俺はスウキ=タイガに向けて、たずねる。


「壬境族の王の一族のあなたが藍河国に身を寄せれば……藍河国の高官たちは、穏健派の人たちの言葉を信用してくれるでしょう。その覚悟はありますか?」

「あります!」


 スウキ=タイガは、迷わずにうなすいた。


「私は、藍河国との平和を願っております。また、雷光さまに助けていただいたことで、藍河国の人たちが信じられることもわかりました。人質となることに迷いはありません!」

「私も燎原君を説得しよう」


 雷光師匠は言った。


「子どもがここまでの覚悟を示してくれたんだ。私が手を貸すのは当然だ」

「私も、姉弟子と同意見です」


 秋先生も、うなずいてくれた。

 雷光師匠と秋先生がいれば、スウキ=タイガを燎原君に会わせることができる。

 もしも燎原君が協力してくれたら、王や高官たちとの面会も叶うだろう。


 ──もしかしたら、ここがターニングポイントなのかもしれない。


 壬境族の中に穏健派がいれば、ゼング=タイガの侵攻を止めることができる。

 戦うことなく、あいつの動きを封じられる。

 穏健派と接触すれば、『金翅幇きんしほう』の情報も得られるはずだ。


 それには、穏健派に『スウキ=タイガが藍河国に救援を求めた』という知らせを届ける必要がある。それによって穏健派は活気づくだろうし、ゼング=タイガを警戒させることもできるからだ。


 壬境族の土地は、危険だ。ゲーム最強のゼング=タイガがいる。

 雷光師匠を傷つけた弓使いと、飛刀使いもいる。

 もしかしたらゲーム主人公の介鷹月かいようげつや、『金翅幇きんしほう』と出くわすかもしれない。


 それでも……誰かが、穏健派に知らせを届けに行かなきゃいけない。


 俺はゆっくりと深呼吸する。

 正直……怖い。こんなの、気軽に言い出せることじゃない。


 だけど、ここで手を引いて……その結果、穏健派が滅ぼされたら──最悪だ。

 壬境族が暴君ゼング=タイガのもとで統一されたら、俺は間違いなく後悔する。


 だから──


「ぼくが壬境族の穏健派に、スウキさんの書状を届けます」


 ──俺は、皆に向かって告げた。


「そして、壬境族の領地で起きていることを、この目で確かめてきます。見たものや聞いたことのすべてを王弟殿下や、藍河国の人々に報告します。それは藍河国が、穏健派の味方をするかどうかの判断材料になるんじゃないでしょうか」

「いや、待ちなさい。天芳」


 秋先生が声をあげた。


「どうして君がそこまでするんだ?」

「壬境族の問題は、父上と兄上の生死に直結するからです」


 壬境族が侵攻してきたら、最初に受け止めるのは父上と兄上だ。

 ふたりが『剣主大乱史伝』に登場しない以上、命を落とす可能性はどこにでもある。それを防ぐための手を打っておきたい。


 それに……スウキ=タイガとレキ=ソウカクは、『金翅幇きんしほう』のことを知らなかった。さっきの話には『金翅幇』という単語も『介鷹月かいようげつ』という名前も出てこなかった。

 でも、スウキ=タイガの父親なら、なにか知っているかもしれない。


「雷光師匠のやり残したことをするのは、弟子の役目です。さっと行って、書状だけ届けてきます。どうか、お許しいただけないでしょうか?」

「天芳の言うことは……筋が通っているな」


 秋先生は頭を掻いて、


「姉弟子は私が治療ちりょうしなければいけない。となると、私が姉弟子の治療をしながら、スウキ=タイガの護衛をするのが最適だ。そうして私たちは北臨に向かう。その間に天芳が穏健派に書状を届け、スウキくんが北臨に向かったことを伝える……か。確かに、これが一番早いのだが……」

翼妹よくまい

「なんでしょうか。姉弟子」

「以前、私は天芳に『奏真国そうまこくで内力の師匠を探すように』と伝えたのだよ」


 雷光師匠は、真剣な表情で、


「天芳のことだから、最高の師匠を見つけたはずだ。それはあなたなのだろう? 翼妹よくまい

「はい。姉弟子が不在の間は、私が天芳と化央かおうの指導をしていました」

「天芳の内力と武術はどうだい?」

「成長いちるしいと言うほかありません。私が勝てなかった相手を倒すほどです。そして、これから彼には、特別な技を学んでもらうつもりなのです」


 秋先生は声をひそめて、


「私たちが姉弟子を探しに来たのはそのためです。私の知識と姉弟子の技術があれば、技の基本を教えることができるでしょう。それから彼を送り出せば……私も、少しは安心できるのですが」

「……わかった」


 雷光師匠は椅子に座ったまま、うなずいた。

 それから師匠は、申し訳なさそうに、


「すまない、天芳。これは私の失態だ。私が傷を受けたせいで、君に大変な仕事を頼むことになってしまった」

「構いません。これは、ぼくがやるべきことだと思ってます」


 本当に、そう思う。

 俺たちが来なかったら、雷光師匠はふたりを北臨へと送っていただろう。

 その後はひとりで、壬境族の穏健派おんけんはのところに向かっていたはずだ。


 結果、師匠の身体の毒は消えずに、身体に残っていた。

 10年後、師匠は命を落とすか……再起不能になっていただろう。


 俺たちがここにいたことで、それを防ぐことができた。

 俺たちも、師匠がここにいたから、壬境族の情報を得られた。

 ここに師匠をいやす機会と、ゼング=タイガを止める機会の両方がそろっている。それを逃すわけにはいかないんだ。


「……ありがとう、ございます。こうさま」


 震える声で、スウキ=タイガが言った。


「このご恩は忘れません。草原の神の名にかけて、必ずお返しいたします」

「ぼくも、可能な限り力を尽くすことを約束します」

「壬境族の土地には、父の味方をしてくれている村があります。そこの者に書状をお渡しください。そうすれば、父のところに届くはずです!」


 ──スウキ=タイガの父は山の中の陣地にいる。近づくのは危険。

 ──だから、父に味方している村を訪ねて欲しい。

 ──村の者は父と連絡を取り、書状を届けてくれるでしょう。


 そんなことを、スウキ=タイガは教えてくれた。


「村の者には、これを見せてください」


 スウキ=タイガは首飾りを外して、俺に手渡した。

 黄色い石がついたものだった。

 これも、壬境族の王の一族に与えられるものだそうだ。

 色で、誰のものかわかるようになっているらしい。


「これで、黄さまが私の代理人だとわかるはずです。それと、レキ」

「わかってます、お嬢。自分は黄どのの道案内をするのですね?」

「そうです。あなたなら、安全な道がわかりますよね?」

「無論です。必ずや使命を果たしましょう」


 地面に膝をつき、俺に向かって頭を下げるレキ=ソウカク。


「ということです。自分が道案内をさせてもらってもよろしいでしょうか。黄どの」

「もちろんです。ただ、敵の目につかないように、変装してもらえますか?」

「承知しました!」


 レキ=ソウカクはお辞儀をしたまま、胸に手を当てた。


「自分は黄どのを仮の主とすることを、草原の神に誓います。この誓いを破ったときは、我が心身は四散しさんし、風化ふうかしてちりとならんことを」

「──お母さま」


 次に声をあげたのは、冬里さんだった。


「お願いが、あるのです」

「わかっているよ。冬里は天芳と一緒に行きたいのだろう?」


 秋先生の問いに、冬里さんはうなずいた。


「冬里は天芳さまの、専属医せんぞくいになりたいのです」

「天芳専用になるのだね?」

「そうです。壬境族の土地に行けば、水も変わります。食べ物も変わります。そんなときは、冬里の医術がお役に立つと思うのです」

「北臨で彼を待つだけでは、我慢できないのだね?」

「はい。冬里はもう、道を選んでしまったのです」

「いいよ」


 秋先生は、おだやかな表情で、


「冬里が自分の道をみつけたんだ。それを邪魔するほど野暮やぼじゃないよ」

「ありがとうございます。お母さま!」


 冬里さんは、秋先生に向かって拱手きょうしゅした。


「お願いします。冬里をお連れください。天芳さま」

「はい。よろしくお願いします。冬里さん」


 冬里さんが一緒に来てくれるのはうれしい。

 彼女は旅慣れてる。それは灯春とうしゅんまでの道のりで、よくわかってる。


 スウキ=タイガたちの興味を引けたのも、冬里さんが茶館ちゃかんへ案内してくれたおかげだ。

 冬里さんがいれば、旅はかなり楽になるだろう。


「決まりだね。私と翼妹よくまいはスウキくんを北臨ほくりんまで護衛する。天芳と冬里は、レキくんの案内で、壬境族の穏健派に書状を届ける。これでいいかな?」

「はい。雷光師匠!」「承知いたしましたので」

「ただし、天芳も冬里くんも変装した方がいいね。それに壬境族の中には天芳のことを知っている者もいる。名前も変えた方がいいだろう」

「そうですね……天芳と冬里は夫婦ということにしましょう」


 秋先生は、不敵な笑みを浮かべてみせた。


「冬里はそのまま玄冬里げんとうりと。天芳は冬里の夫の、朱陸宝しゅりくほうと名乗るのはどうでしょうか?」

こうしゅに。名は、天と対をなす地を読み替えて、りくに。ほうほうに、だね」

「名前を変えて変装すれば、天芳と気づく者はいないかと」

「いい考えだね」

「それと姉弟子。天芳を送り出す前に、指導をお願いします」

「承知しているよ」


 雷光師匠はそう言って、笑った。


「今のうちに『特別な技』を天芳に教えるのだね?」

「やり方は覚えています。私がそれを姉弟子に伝えましょう」

「わかった。それじゃ、準備をしようか」


 ──新たな武術。つまり『渾沌こんとんの技』。

 雷光師匠はその修得の手伝いをしてくれるみたいだ。


 壬境族の領地は危険だ。

 向こうには、雷光師匠に傷を負わせた飛刀使いと弓使いがいる。

 できるだけ見つからないように……万一、見つかっても逃げられるようにしなきゃいけない。


 雷光師匠と秋先生は、そのために『渾沌こんとんの技』の指導をしてくれるんだろう。


 俺も、覚悟を決めよう。

 壬境族の穏健派──ゼング=タイガへの対抗勢力を助ける。

 そうすることで、壬境族の危険性を減らす。10年後の侵攻を、止める。


 そのために穏健派と接触する。

 それが破滅の未来を避けるために、今、俺ができることだ。


 そんなことを思いながら、俺は修行の準備をはじめるのだった。



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 お知らせです。


「天下の大悪人に転生した少年、人たらしの大英雄になる」が「第9回オーバーラップWEB小説大賞」の賞を頂くことになりました。

(どの賞を受賞するのかは、現段階ではまだ決まっていませんが、受賞することは決定したそうです)


 これも読者の皆さまの応援のおかげです。本当に、ありがとうございます!


 ただいま書籍化に向けての作業中です。

 それでは、これからも「天下の大悪人」を、よろしくお願いします!

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