第2章
第38話「天下の大悪人、親友の父と出会う」
お待たせしました。
第二章、開始します。
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奏真国王と
「……まさか俺が、王様と会うことになるなんて」
当たり前だけど、使節の責任者は俺じゃない。
責任者──正式な使者は、
男性の名前は
ゲーム『剣主大乱史伝』でも、
彼は正使として奏真国とのやりとりを担当している。
俺の仕事は彼の手伝いと、小凰のサポートだ。
それは奏真国に着いた時点で、半分、終わってる。
あとは帰り道、藍河国まで小凰を送り届けるのが俺の役目だったんだけど──
「奏真国王は、姫殿下の
到着した日の夜、
小凰と彼女のお母さんは、すでに王宮に入り、奏真国王と会っている。
そのとき、俺のことを話したらしい。
だから、炭芝さんが王陛下に謁見するとき、俺も同席するようにという指示が出たそうだ。
ちょうどいい。
俺も、奏真国王に会ってみたかった。
ゲームに登場する奏真国王は、黄天芳の
怒りっぽい性格で、『目の前に黄天芳がいたら、その首をたたき切ってくれる!』なんてさけんでいたこともある。
その奏真国王が、現在はどんな人物なのか、見ておきたいんだ。
それに、奏真国王は
彼女の
あとは……藍河国にいい印象を持ってもらえるようにしないと。
そんなことを考えながら、俺は
「ようこそ我が国へいらっしゃいました。
王宮の通路には人々が並び、頭を下げていた。
人々は口々に、藍河国と奏真国の友情をたたえている。
大歓迎だった。
南方にある奏真国は、少し暑い。
人々が着ている服の
『剣主大乱史伝』のゲーム内でもそうだった。
涼しげな服を着て、川の近くでゆっくりするイベントがあったっけ。
……この時代でも、同じようなことが起こるんだろうか。
そんなことを考えながら、俺は王宮を進んで行く。
柱の並んだ通路を抜けると、空の玉座が見えてくる。
俺たちが玉座の前で膝をつくのに合わせて、
そして──
「──第二王女、
声がした。
銅鑼の
「…………あ」
思わず、ため息が出た。
現れた小凰は髪を結い上げて、装飾のついた
きれいに着飾った小凰は、どこからどう見ても、美しい姫君だ。
『剣主大乱史伝』に出てくる奏凰花とは、雰囲気が違う。
あっちの奏凰花は、いつも強い視線で周囲をにらみつけていた。
でも、玉座の横に立つ小凰は、やさしい表情だ。
ほほえみながら、誰かを探すように、あたりを見回している。
「…………」
小凰と、視線が合った。
でも、すぐに小凰は視線を
それからまた、こちらを見て、小さく口を動かす。
『恥ずかしいからあんまり見ないで』……かな?
「国王陛下。ご入来!」
やがて、奏真国王が現れる。
黒い
威厳のある表情で、部下や、俺や炭芝さんを見回している。
ゲーム『剣主大乱史伝』では、奏真国と藍河国は敵対関係にあった。
国交は断絶され、奏真国王は国境に兵を配置して、両国の往来を禁止していた。
やがて英雄たちが現れ、奏真国王は彼らを支援するようになる。
それが、最終的に『
そんな未来は、絶対に回避しなきゃいけない。
奏真国王を敵にまわさないように気をつけないと。
「遠路はるばるいらしたことに感謝申し上げる。藍河国の方々」
奏真国王は言った。
「また、数々のご厚意をいただいたことに感激している。人質として送り出した妻が帰還しただけではなく、
「──なんと」
「──藍河国の方々が、我が国に技術支援を」
「──そのようなことが、かつてあったでしょうか……?」
国王の言葉を聞いて、奏真国の文官・武官たちがざわめく。
技術者派遣のことは、小凰から聞かされている。
話によると、燎原君から藍河国の王様に『藍河国が支援して、奏真国を
前に、俺が太子狼炎に言った言葉に似てる。
燎原君も、同じようなことを考えていたらしい。それをすぐに実行に移すのが、あのひとのすごいところだと思う。
「藍河国のご厚意に、あらためて感謝申し上げる」
玉座に座ったまま、奏真国王は言った。
「貴国からのご提案は、よろこんでお受けする。これほどの支援に対し、どのように礼をすればいいか想像もつかぬほどだ」
「我が王は、奏真国との友好を大切にしたいとお考えです」
顔を伏せたまま、正使の炭芝さんは答えた。
「また、
「うむ。それにもおどろいている」
奏真国王が笑う気配がした。
「送り出したときの
「もったいないお言葉です」
「そして、娘に力を貸してくれた者が、この場にいると聞いた」
奏真国王の視線が、俺に向けられるのを感じた。
「藍河国『
「はい。
顔を上げると奏真国王が、俺を見下ろしていた。
俺はまた一礼して、
「黄天芳と申します。陛下にはご機嫌うるわしく」
「うむ。娘とともに武術を学ぶ者に出会えたこと、うれしく思う」
奏真国王は落ち着いた口調で、
「貴公は娘と協力して、藍河国の敵を退けたと聞いた。おかげでわが妻は帰国が叶い、藍河国より多大な支援をいただくこととなった」
「もったいないお言葉です」
「その働きに対して、特別に
「ぼくは、
俺は言葉を選びながら、答える。
「
「……職分か。なるほどな」
奏真国王は考え込むように、あごをなでた。
「貴公は
「おそれいります」
「ならばたずねよう。藍河国の使者、炭芝どのよ」
「ははっ」
名を呼ばれて、炭芝さんが答える。
「王として、娘の友人に贈り物を与えても構わぬだろうか」
「陛下のご厚意をいただくというのに、どうして我らが邪魔立ていたしましょうか」
「黄天芳よ。使者の方はこのように申しておるぞ」
「身に余る光栄です」
俺はふたたび頭を下げて、
「それでは……貴国を自由に移動する権利をいただけますでしょうか」
「移動の権利だと?」
「奏真国には、すぐれた武術家がいらっしゃると聞きます。ぼくは師匠の命により、内力を指導してくださる方を見つけたいのです。そのために、貴国内で旅ができれば、と」
雷光師匠の手紙に書いてあった。
──黄天芳の体内には『
──それは強力なもので、使いこなすには指導者が必要になる。
──奏真国にはいい武術家がそろっているから、そこで指導者を探すといい。
……と。
俺はその『天元の気』を操れるようにならなければいけない。
『天元の気』は
ふたりのためにも、内力の指導者が必要なんだ。
すでに北方では
十数日前には、最強キャラのゼング=タイガが南下して、父上のいる北の地を攻撃した。なんとか撃退できたけど、それは小凰が力を貸してくれたからだ。
俺ひとりだったらたぶん、
それに、壬境族の強キャラはゼング=タイガだけじゃない。
『
せめて、それを打ち払える力を身に着けないと。
だから──
「ぼくはこの機会に、貴国のすぐれた武術を学びたいのです」
「藍河国の将軍の子が、奏真国の武術を、か」
「どうか。許可をいただけないでしょうか」
俺は再び、頭を下げた。
もちろん、俺が勝手に指導者を探すこともできる。
ただ……『天元の気』をあつかえる人が、奏真国の家臣や、その関係者だったりする可能性もある。俺が接触して『指導者になってください』とお願いすることで、人材の引き抜きをかけていると疑われるかもしれない。
下手をすると、藍河国と奏真国の間の問題になってしまう。
そんなことにならないように、許可を取っておきたいんだ。
「我が娘は、面白い友を見つけたようだ」
しばらくすると──奏真国王の笑い声が聞こえた。
怒ったような感じは、なかった。
「いいだろう。
「ありがとうございます!」
「後ほど通行用の
「──父上」
小凰の声がした。
「
「いや、凰花よ。お主は王宮にいるのだ」
「ですが……」
「父は、お前の
奏真国王はおだやかな表情で、そう言った。
「余はお前をみくびっておった。藍河国との友好を深めるために送り出したのだが、これほど深い
「父上!?」
「お前にはまた、藍河国へと戻ってもらわねばならぬ。それまでの間、話をしたいのだ。お前の母も交えてな」
「は、はい。父上!」
小凰は奏真国王に向かって、一礼した。
よかった。
奏真国王は、小凰や彼女のお母さんを、大切にしているみたいだ。
「では父上。別の提案をお許しいただけますか」
「言ってみるがいい」
「天芳の内力の指導者を、こちらで探してあげるのはどうでしょう」
「こちらで、か」
奏真国王はうなずきかけて……すぐに
「
「どうしてですか?」
「お前の友人を指導できるほどの武術家なら、余が側に置きたくなってしまうからだ。また、こちらが指導者を押しつけることで、彼の武術に探りを入れるとも受け取られるかもしれぬ」
「……父上」
「礼を尽くしてくれた藍河国の方に対して、それは無礼であろう」
奏真国王は俺と炭芝さんを見て、言った。
俺たちは同時に頭を下げる。
それから、正使の
「王陛下のお心遣いに感謝いたします」
「これからも貴国とは、よい関係を保ちたいものだ」
「ありがとうございます。陛下」
炭芝さんが頭を下げるのと同時に、俺も同じようにする。
本当に、このまま藍河国と奏真国にはいい関係でいてほしい。
今みたいな外交関係が、ずっと続けばいい。
小凰は藍河国の師匠に武術を学び、俺は奏真国の師匠に内力を学ぶ。
そんな関係でいて欲しいと思う。
できれば、10年後も。
俺はずっと、そんなことを考えていたのだった。
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次回、第39話は、日曜日くらいに更新する予定です。
(しばらくの間は週に2、3回の更新になると思います)
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