第34話「『飛熊将軍』黄英深、北の国境で戦う」
──『
「
天芳の父、
急いで来たつもりだが、敵の対応も早かった。
それでも、敵の計画を撃ち砕き、軍勢を追い払うことはできた。戦果としては十分だろう。
「だが、
英深は、隣にいる少女──
「お前の
「……天芳兄さんも、戦っていたみたいですから」
星怜は小さな声で答えた。
彼女の肩には白い鳩が乗っている。
それが天芳からの書状を届けてくれたのは半日前のこと。
書状には海亮が敵と戦ったことと。壬境族についての情報が書かれていた。
敵軍の本隊が国境近くまで来ているかもしれないという、天芳の推測も。
難しくはなかった。
鳩は、燎原君の部下の報告書の写しも運んできたからだ。
そこには
英深はそれを元に、敵の位置を特定したのだった。
「武器も、
特に、馬を奪えたのは大きい。
壬境族にとって馬は友であり、移動手段でもあるからだ。
そのうえ、大量の
壬境族は、それらすべてを失ったのだ。
次の
それを未然に防げたのは、本当に幸運だった。
「これも、天芳が敵を倒してくれたおかげか。だが……」
天芳はいつのまに、それだけの武芸を身に着けたのだろうか?
半年前の天芳は弱かった。内力を感じ取れないほどに。
なのに今の天芳は、壬境族の武将を倒すほどになっている。
燎原君の客人のもとで修行をしたのはわかるが、これほど急速に成長するものだろうか……。
「兄さんは、すごい才能をお持ちなのだと、思います」
ふと、星怜はそんなことを言った。
「わたしは……ずっと、兄さんのお側でお仕えしたいです。兄さんは天下を動かす人だと思うんです。そんな兄さまのお役に立ちたいのです」
「うむ。だが、王弟殿下も天芳を狙っておるようだぞ」
「王弟殿下も、ですか?」
「そうだ。天芳を異国への使者に出したいという話だったな。貴人をお送りするのに同行させたいそうだ。断るわけにもいくまいよ」
「…………わたしも、行きたいです」
「それは難しいだろうな。国としての大事な役目だからな」
「そうですか……」
「星怜はそうまでして、天芳に仕えたいのか?」
「はい。父さま」
「そうか。ところで……これは
こうして──北の地で起きた『
壬境族は少数の兵のほか、武器と馬、多数の
さらに、最強と名高いゼング=タイガが片腕を失った事実は、壬境族を動揺させた。
その後、壬境族の中では、藍河国との和平論が広まりはじめる。
だが、壬境族の
『大国の星は落ちる。藍河国が滅亡する運命は、変わらない』と。
──まるで、はじめからそう定められているように。
──10年以内に藍河国では大乱が起こり、壬境族が南下する好機が訪れると。
藍河国で行われるあらゆる占いも、同じ答えを出し続ける。
──『藍河国、危うし』と。
その理由もわからぬまま、うわさは人々の間を流れ続けるのだった。
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次回、第35話は、明日の夕方くらいに更新する予定です。
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