第10話「天下の大悪人、妹を探す」
「なんだこれ。祭りの人出か!?」
町は人であふれていた。
数日後に、国王陛下の誕生日を祝う祭りがある。
そのせいで、人が集まってきてるんだ。
だから見通しが悪すぎる。背伸びしても、まわりが全然見えない。
それに……人が多すぎて……走ることもできない。
でも、
たとえば背の高い人、見晴らしのいい場所にいる人なら……。
「……あれか」
広場に、馬車が停まっていた。
町の様子を見に来た貴人の馬車だ。
この世界の馬車は座席に車輪をくっつけた、いわゆるチャリオットだ。
座席は高い位置にある。
そこに座っている人なら、星怜を見ているかもしれない。
馬車に刻まれた
あれは……王弟殿下の馬車だ。
王弟の名前は
『剣主大乱史伝』に登場するキャラのひとりで、主人公の援助者だ。
この世界は
だけどゲームに登場する燎原君は優しい、仁徳のある人だ。
だから、殺されることはない。たぶん。
もしかしたら──力を借りられるかもしれない。
星怜がさらわれたことは……『黄天芳破滅エンド』に関係している可能性がある。
このまま彼女を取り戻せなかったら、俺はゲームの通りに、破滅するのかもしれない。
だったら……ここで無礼をとがめられて、斬り殺されたとしても……たいした違いはないんだ。
無茶なのはわかってる。
でも、できることは、なんでもやってみるしかない。
「
俺は馬車の横に立ち、叫んだ。
護衛の者が剣に手を掛けるまえに、
「ぼくは『
「無礼者!」
「王弟殿下の馬車と知っての
「引っ捕らえよ! 子どもといえど
「構わぬ! 聞こう。少年よ、続けるがいい」
馬車の上から声が返って来る。
力強い──けれど、優しい声だった。
「義妹の名前は
俺は一気に叫んで、地面に額をこすりつける。
「
「顔を上げよ、少年。その
言われた通りに顔を上げる。
馬車に乗った男性──燎原君は、笑っていた。
年齢は……ゲーム開始時には50代後半だったから、今は40代。
年齢相応に髪は白髪交じりだ。けれど肌つやは良く、眼には力がある。
燎原君は目を細めて、俺を見て、
「『飛熊将軍』は、藍河国を守る盾でもある。そのご子息の依頼を断ることがあろうか。
「ありがとうございます!」
「君の義妹を見たものがいるかどうかだが……うむ。そうか」
燎原君は振り返り、同乗している者たちと言葉を交わす。
それから、すぐに俺の方を向いて、
「
「ありがとうございました! 後ほどお礼にうかがいます!!」
俺は一礼して、路地に向かって走り出す。
今は星怜を助けるのが最優先だ。
なのに……祭りのせいで人が多い。
走るどころか、まっすぐ歩くこともできない。
星怜が連れ去られたのはかなり前だ。このままじゃ追いつけない。
だったら──
「『
背骨をゆるめる。全身の関節を、ゆるやかにする。まるで、蛇のように。
導引でずっとやってきたことだ。さっきもできた。
全身をゆるめて、蛇のようにすれば──
しゅるん。
俺は人混みの
そのまま、燎原君が指さしていた路地へ。
人混みを抜けたら、あとは全力で走るだけだ。
どこにいるんだ。星怜。
なんで星怜の身内が、彼女をさらったりするんだ?
この世界は、どうして星怜にばっかり辛くあたるんだよ!
星怜は家族を亡くして、でも、やっと元気になってきたところなのに。どうしてこんなことになるんだ? どうして、星怜を静かに暮らさせてやらない!?
「──取り戻す」
絶縁された叔父なんかに、星怜は渡さない。
どうしても星怜がついていくというなら、理由を聞いてからだ。
わけもわからず星怜が消えて……破滅フラグに怯えて生きるなんてまっぴらなんだよ。俺は。
そうして俺は、路地を走り続けるのだった。
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次回、第11話は、今日の夕方くらいに更新する予定です。
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