第六回 降りられないんです……

 皆さんは、横浜・八景島シーパラダイスに行ったことがあるだろうか?

 私はここの水族館に、苦い思い出がある。

 後で、確認しておけば良かったと反省することになるそれは、もう三十年以上も前に起きた。

 実は私は、下りエスカレーターに乗ることができない。

 体調とかではなく、普通に怖くて乗れないだけなのである。どう足を置いていいか、タイミングもわからない。落ちたらどうしようと思ってしまうのだ。

 因みに、昇りエスカレーターは普通に乗れる。

 困ったのは、上野駅の東北新幹線乗り場である。

 高校卒業後、私は友人と、北海道旅行を計画。

 電車でゆっくりと向かうルートに決めた。

 まずは盛岡まで向かうことになり、そこで乗ることになったのが上野始発の東北新幹線である。現在はどうかわからないが、当時は地下にホームがあり、下りエスカレーターしか降りる方法がない。

 もしかしたらエレベーターなどあったかも知れないが、一緒にいた友人も初めで、出発時間も迫っていた。

 私にとっては恐怖でしない。

 しかもこのエスカレーター、下が全く見えない。

 友人にタイミングを計ってもらい、「せーの」で乗った私だが、これがまた下に着くまで長いのなんの。

「もう二度と乗るもんか」

 無事に新鮮線に乗った私はそう思ったものだ。

 数年後――今度は、東京駅の京葉線である。

 その時も友人と一緒で、初のディズニーランドであった。

 この京葉線乗り場が地下ときた。

 もしかすれば、下りエレベーターがどこかにあるかも知れないが、当時はそこまで頭が回らず、私はまたも友人の力を借りた。

 そして横浜・八景島シーパラダイスである。

 水族館に入り、上まで上がった私と友人は帰る事になった。

 もう、おわかりだと思うが、下に降りるには下りエスカレーターに乗らねばならない。

 しかもここの売りは、水槽の中にいるような感じになるという「アクアチューブ」というエスカレーターである。

 最も人気があり『横浜・八景島シーパラダイス』の"シンボル"として親しまれている水中エスカレーター『アクアチューブ』は、とても綺麗で楽しいらしい。

 しかし私は下りエスカレーターが苦手なので、今度はスタッフに聞いてみた。

 

「あの、階段はありませんか?」


 スタッフの人が「は……?」的な反応をした。

 確かに水槽の中を通るというエスカレーターを推しているし、それを楽しまずに帰る客に変だなと思ったかも知れないが。

  

「降りられないんです……」


 このときは、さすがに友人にタイミングを計ってもらえなかった。

 躊躇している間に、背後に人が迫り「降りないの?」的な視線を寄越された。

 スタップさんは眉を寄せ、下に降りるにはエスカレーターしかないという。

 暫くして、緊急避難用の階段を貸してくれた。

 以後、何処かに入る時も、まず階段かエレベーターがあるか確認してから行動するようになった。

 現在も、下りエスカレーターは乗ることはできない。

 

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