6章過去編①

 昔から俺は友達ができにくかった。その理由は人見知りという俺の性格と、相手にとってわかりにくい発言をすることと、自分の興味のあることを優先したこと。それにより、一緒にいた人から無意識に離れていたからだ。

それに気づいたのは、俺が小学校高学年に上がる頃だ。今まで一緒にいたクラスメートの奴らが、向こうからあまり話しかけてこなかった。それが寂しくて、下校時間になると、俺は急いで家に向かって駆け出した。そこで録画をしていたテレビアニメを見る。俺は自分の好きなアニメを見ることがなによりも楽しかった。親は仕事が忙しく夜遅く帰るので、それまでの間が俺の至福の時間だった。

 新しい話が放送されるまで、一週間もあるので、録画していたアニメを繰り返し見ていた。気に入ったキャラクターが登場すると、俺は同じタイミングでセリフを言った。そのセリフを言うとアニメの中にいるような感覚になるので、楽しかった。次第にそのセリフはアニメを見ていない時でも言うようになっていき、ついには学校でも独り言を言うようになった。


 学校で無意識に独り言を言って、今まで一緒にいた人が誰も俺を誘うことがなくなった。俺は寂しかった。かと言って、今まで仲良くしていた人ともう一度話しかける勇気が出ない。だから一人でも大丈夫なように、気に入ったキャラクターのセリフを言い続けて、寂しさを紛らわせた。それがきっかけで、どんどん人から遠ざけられた。


 小学校を卒業して春休みになり、一旦自分の心が落ち着いた。しかし、友達が欲しいという気持ちがまだあった。


 そんな中、俺は中学に入学した。内心、どんな中学生活が送れるのかワクワクしていた。入学式を終えると俺は教室に戻った。

休憩時間、俺は勇気を出して、前にいるやつに声をかけた。


最初は楽しかったが、俺の話したいことだけを延々と喋りすぎたせいかどんどんそいつは俺と話す時はめんどくさそうな顔をしていた。ただでさえ、自分の話を最後まで親も聞いてくれなかったから気分が悪かったのでそいつにかなり話していたようだ。


それから、そいつに話しかけても冷たくあしらわれたため、俺はほかのやつと話しかけることに決めた。



休憩時間、俺は暇だったので廊下を歩いていた。すると、他のクラスの扉から、一人の女子が出てきた。胸が高まった。俺は一目惚れをしたのだ。名前は知らない、でもすっげーかわいい子。話しかけたいと思ったが、緊張して出来なかった。半ば放心状態だった俺だが、気がつくとその女の子はどっかに行っていた。


そして俺は真っ先に、あの子の名前を聞くためと、あの子に一目惚れしたことを言うために、最初に話したやつのところへ向かった。なぜならアニメでは自分の感情を曝け出すともっと仲良くなれるシーンがあったため、同じことをすればまた仲良くなれると心から思ったからだ。


そして俺はそいつからあの子の名前を知り、そしてあの子に一目惚れをしたことを言った。すると、何故か食いついてきたので俺は嬉しかった。聞いたところによると、あの子は小学生の頃学校のマドンナだったらしく、今もそれが続いているらしい。だから俺はあの子に一目惚れしたと分かった。


俺は話しかけたかったが、そんな勇気も出ず1年間話しかけることが出来なかった。でも、休憩中に何度か会うことがあって俺はその時間が最高だった。



時が過ぎ、俺は二年生になった。なんと、嬉しいことにあの子が俺と一緒のクラスになったのだ。


話しかけようと思ったが、その子の周りには女子友達らしき人が何人かいて、話しかけにくかった。何日も何日も休憩時間、いつもあの子は友達に囲まれていて話すことが出来なかった。


俺はどうにかして話しかけられるのか考えた。まず第一に、あの子含めて二人以上いると、俺は絶対に話しかけることができない。だからどうすれば話しかけることができるのか、俺は悩んだ。



数週間経った頃だ。放課後、漫画の新刊が出たので俺は最寄りの本屋に買いに行った。そして外に出る時だった。薄々考えていたけど、一番見たくないものを見てしまった。それは、あの子ともう一人同じクラスの男子が一緒に帰っているところだった。

「待って……」

悲しかった。だから、俺は衝動的に駆け出した。あの子の方へ手を伸ばして。

「◯◯さん!」

俺の声に気づいたのか、彼氏らしき人が咄嗟にあの子を庇うように、あの子を後ろに行かせ、その男子は腕をやや広げては前へ出た。

「(6章の幽霊の名前)じゃん。」

その男子はクラスメイトの人だった。男子は俺の存在を確認したのか警戒体制はなくなった。男子は続けて

「もしかして、◯◯に用がある感じ?」

男子はあの子を下の名前で呼んでいて、俺は動けなくなった。するとあの子が前に出てきた。あの子は俺を睨みつけていた。

「話しかけてこないで。キモい。去年、私のこと好きなのをバラしてたでしょ。あれほんっと嫌だった。話したこともないのにあの時友達から急にそんな話題になってたから心底ゾッとしたよ。それに今だっていきなり大声で私の名前を呼んでさ、正直怖かった。(6章の幽霊)さ、何がしたいの?」

全部否定されたような気がした。すると男子が口を開いた。

「なるほどね。まあ、◯◯がそう言ってるわけだし、ごめんけど俺としては今後話しかけるのはやめてほしい。でも俺は(6章の幽霊)が悪い奴とは思ってないから、きっといい出会いあると思うよ」

男子がそう言った直後。〇〇さんは逃げるように俺から離れ、男子はそれを追うように歩き出した。


俺は、買った漫画を落としていたのに気づいた。




俺は、失恋をしたのだ。自室のベッドに飛び込んで、俺は泣いた。今までで一番多く泣いた。泣いている途中に、さっきのことが脳内で何度も再生してくる。その度に俺はうずくまり、泣き叫んだ。とにかく嫌だった。


ラインでオープンチャットを開いた。「失恋、辛い」を検索して、たった今と書かれてあるグループに入った。

俺はそこで、今までのことを話した。


みんなものすごく励ましてくれる。嬉しかった。でも、ひとつだけ引っかかることがあった。それは「あなたの好きな人の幸せを奪ってまで、話しかけたいんですか?」という文だった。


…は?俺の幸せはどうでもいいってことか?今奪われてんだよクソが。俺にとっての幸せはあの子と俺が両思いになることだけなんだよ。わかんねえのかボケが!


俺は返信はしなかった。


今までのことを親が帰るまでに行った。



翌日、教室に入ると俺を見たクラスメイトたちが何やらひそひそ話しているのに気づいた。…昨日のことだろうか。あの子がそうするのはわかるのだが、全く関係ない人がそうするのは俺には意味がわからなかった。


昨日のことがあって、もう傷つきたくなかった。



日を重ね、それでも俺を馬鹿にしたような声が聞こえて来て、その度にいつも『俺をバカする奴は俺よりも馬鹿だ』と心の中で思い、身を守った。



しばらくして、俺は落ち着いた。暇だったのでクラスの周りを見ることにした。そこでいろいろ気づくことがあった。そこには俺みたいな冴えないやつがほとんどいなかった。女子は〇〇さん中心に群がっていて、男子は陽キャ集団が何人かいて、俺には居心地が悪かった。しかしそれだけではなかった。周りを見れていなかったせいか、ぼっちがもう一人いることに気づいた。


俺は陰キャ同士仲良くなれるかと思い、ぼっちくんに近づくと、独り言を言っていることに気づいた。しかも常にやっていたので俺は少しギョッとし、話せなかった。


……あれ?


翌日もぼっちくんを観察してみることにした。今日もぼっちくんは独り言を言っていた。すると突然立ち上がったかと思うと、〇〇さんの方へ向かった。〇〇さんは不機嫌そうな顔をしていた。会話の内容がうっすら聞こえたので、俺は耳を澄ませた。

なにやらぼっちくんは〇〇さんのことが好きみたいで、なんの恥ずかしげもなくみんながいる状況で言った。

正直俺から見るとぼっちくんは恐怖でしかなかった。


……あれ、ちょっと待て。

見覚えのある光景だった。ずっと独り言を言っていること、急に〇〇さんの元へ行くこと。

「あ…っ」

全て思い出した。俺が独り言をいってたこと、好きな人をすぐにバラしてしまうこと、急に〇〇さんに近づくこと…。

「ははっ、俺、すっげーキモいな…」

俺は急に気分が悪くなった。


教室にいたくなかったから、俺は保健室に行き、早退した。



…俺はめちゃくちゃ迷惑をかけたんだ。なんで俺はそのことに気づかなかったんだ。馬鹿にしてくるのも当たり前じゃん。

自室で俺は考えていた。

…だから、変えよう自分を。底辺に落ちまくった俺はそうするしかねえだろ。

そうと決まれば、俺は余ったプリントにやることリストを書いた。

•独り言は絶対にしない

•コミュニケーションが苦手ならまずは話しかけない。

•勉強に集中する。

など、俺の短所を補うことや長所を生かすことができるものを書いた。


早速、次の日からそうした。これを何ヶ月もコツコツ続けた。続けられたのは失恋や自分の失態に気づくことより全然苦ではなかったからだ。



浮いていたもう一人のボッチは三年生に進級した時は別クラスになった。正直俺の短所を大きくしたようなやつだったから見たくなかった。だから少しだけほっとした。


三年生になったので勉強をより一層打ち込むことにした。


結果、そこそこいい高校に入ることができた。


中学ではあれから、俺への悪口が減り、正直楽になった。卒業式の時は、中一の時に話したあいつからまあまあレベルの高い高校に受かったことについて祝ってくれた。久しぶりに話すので、どう接したらいいのかわからなかったが、雰囲気ではガチで祝ってくれてるみたいなので、正直嬉しかった。そして、俺が成長したところも認めてくれたので、それがなによりも嬉しかった。

…変われたんだ、俺!


春休み、そしてわかったことがあった。俺は本当に人付き合いが下手らしい。まず、俺の言いたいことを言うのを優先してしまうため、相手の話を聞いていないことが多かった。それなら、向こうから話しかけてきたら、聞かれたことについてだけ言うことにしよう。それに、冷静ではなくなると、〇〇さんにしたことみたいにおかしな言動をとってしまうことだ。だから、もし気分が動転してしまったら、絶対に人に会わないようにしよう。


俺は新たなルールを決めて、新学期を迎えた。

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