第2話
自ら名乗り出るように、
突然の声に誰もが目を白黒させている中、一番早く立ち直ったのは
「あらやだ。同士討ちだなんてとんでもない。これは我が家特有のコミュニケーションよ。そうよね、
「うん、そうそう~」
「だから――空気の読めない外野は引っ込んでろ♪」
少々言葉遣いが荒くなったものの、彼女は悪びれることもなく、平然とした顔で貫く。だけど、こちらも気圧されず、“いつも”のように対応する。
「なんと! この未来のビッグスターを外野扱いにするとは、嗚呼、なんて嘆かわしい! だけど、だからこそ燃えル! さあ、共に主役の座を奪い合おうじゃないカ!」
彼のミュージカル役者を彷彿させる喋り方に、相手は困惑を隠せずにはいられなかった。『なんだこいつ頭おかしいじゃないの?』的な目で見られても、その手の攻撃は彼には無効だ。
周囲の白い目と比べたら、これくらい、彼にとっては大したものではない。
「あらぁ、もしかして聞こえなかったかしらぁ? これは
「いえいえ、私のことを幾ら罵っていただいても構いませんが――」
亮は自虐的に笑い、目を伏せる。
だけど次に頭を上げた時には、その童顔から笑顔が消えていた。
「――姫がこうして貴女方の前に立っているのは、彼女が闘病してきた尊い証。勝手に亡き者にするのは、その努力を蔑ろにするのと意味すること。取り消せ、彼女への侮辱を」
いつもの明るい声色とは真逆の、酷く沈んだ声。
彼の赤瞳にはとっくに笑みが消えていて、静かに怒りの炎を燃やしている。普段笑顔の彼がここまで怒りを露わにしたのは初めてで、その変化に相手の二人は勿論、
そこで、みおが壁の後ろから身を出した。
恐怖のあまり、目を閉じて手足が震えあがっているけど、それでも彼女は懸命に言葉を絞り出す。
「そ、そうだ! お姉ちゃんを悪く言うの、めーだ!」
みおの声でハッとなった
「ここは華小路邸ではございません。ここは高山中央病院の中であり、そしてお嬢様はここで療養中の患者の一人に過ぎません。ですので、屋敷のピーチクパーチクをこのような公共の場に持ち込まないでいただきたい。どうか、お引き取りを」
重い沈黙を経て、彼女が「ふーん」と鼻を鳴らした。
「お友達が増えてよかったね、
二人が7階から離れたのを確認して、重荷を下ろしたようなため息が
それとほぼ同時に、みおは姫に抱きつく。まるで「大丈夫だよ」と慰めるように、姫が優しく小さな頭を撫でると、
「……怖がらせちゃったね。ごめんね」
みおは「ううん」と彼女のお腹に顔を埋める。そのまま泣くかと思いきや、みおは少し手を緩めて見上げてきた。
「みおは平気だよ。だって、お姉ちゃんの方こそ、みおよりもずっと怖い思いをしてたもん。だから、これは慰めのぎゅー」
更に腕に力が込められるのを感じながらも、みおの発言に驚く姫。これまでに幾度もみおの鋭さにドキッとさせられ、その都度感心させられてきた。
何が思うところがあってか、姫はふと撫でる手を止めて顔を上げる。すると、清々した顔付きの亮が視界の中に入ってきた。
「いやぁー。皆さん、よくやりましたね! 初めての共闘にしては上々だ! これからも引き続き鬼退治を続きましょうぞ! フハァーハハハ!」
「失礼な人ですね。ああでも一応、お嬢様でございますよ?」
「申し訳ございません、お嬢様。ワタクシめの不注意であの者どもの侵入を許してしまいました。どうか、お赦しを」
「……いいよ。
それを聞いて、
先程の二人の様子から見るに、
「て、そっちの方がよっぽど失礼ではないカ! それに、
「失敬な。ワタシは、いつだって真面目でございます。あれは、単に本心が漏れただけでございます」
「おっとと、本心でしたか。それなら……尚更、コンビを組もうぜ! 私たち『リョウ&マサヨ』なら、お笑い業界で天下一を取るのも夢ではないゾ!」
「どうやら下郎の耳は耳クソ――失礼、耳垢で詰まっているのようですね。今度、妹さんに会ったらそのように提案させていただきます」
「そこは『どうかワタシに亮様のお耳掃除させてください!』って流れじゃあありませんか」
「あら、触りたい人に触ってもらえればいいだけの話ではございませんこと?」
「おふ、厳しィイイイ!」
なんだかんだ言って、二人の
二人を眺めているうちに姫が、自分はいつの間にかこの空気に助けられていたのだ、と気付かされた。
死はいつ自分の元に訪れるのかは分からない。7階の死神だって例外ではない。
――だったら、
その思いに突き動かされたかのように、細い唇が震えながらも開けられた。
「……みんな」
姫の呼びかけに、三人は同時に彼女の方を振り向く。
しかし、いざ伝えようとした途端、思いのほか恥ずかしさが彼女の胸中に押し寄せてきて、暫く「えっと、その、あの」と口ごもってしまった。
「……あ、ありがとね」
三人は予想外のお礼に驚いた表情を浮かべつつも、すぐに満面の笑みで返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます