第2話光
月から来たよ、かぐや彦
光
愛されることは幸福ではない。
愛することこそ幸福だ。
byヘルマン・ヘッセ
「バラバラ事件?」
「な?知りてぇだろ?」
歩の部屋でご飯を食べているとき、狸が口にした。
ご飯の最中に話してほしくない内容だったが、夜彦は聞きたがっているようだ。
狸の話によると、本当に身体がバラバラになってしまうという。
しかも朝夜関わらず。
だが、バラバラになった身体の持ち主は死んではいないようだ。
正しく組み合わせれば、また普通の生活が出来るようになるという。
犯人は姿も見せず、謎に包まれている。
「すげぇな」
「だろ!?おめぇならきっと犯人探ししてくれると思ってよ」
夜彦は、バラバラ事件が多発している場所へと足を運んだ。
特にこれといった変わった様子はない。
一旦引き返そうと思った夜彦だったが、急に感じた風に、違和感を覚えた。
瞬間、ビュウッ!!と強く走ってきた風に、夜彦は身体を木の影に隠した。
すると、木の枝や幹に何かで斬られたような痕を見つけた。
それから、足下に落ちていたクルミ。
「・・・リスか?」
犯人はリスが何かだろうかと推測をしながら、夜彦は帰り道を行く。
「異常なかったぜー・・・って、あれ?」
狐も狸もどこかに出かけてしまっているらしく、返事はなかった。
暇だなーと思い、また外に出かけようかとも思った夜彦だが、また違和感を覚える。
窓を開けて外の様子を見て見るが、特に変わったところはない。
「それにしても、腹減ってきたな」
狐と狸を捕まえたとき、多少の報酬を貰う事が出来た。
あれから日は過ぎ、時々歩の部屋に居座ってご飯を貰ってはいる。
が、歩の部屋をノックしても、返事がない。
「なんだよー。歩まで出かけてんのか?」
この時はそう思っていた。
しかし、珍しく五月蠅いも何も言ってこない歩に気付き、恐る恐るドアノブを回した。
「やっぱりいないか」
もしかしたら、誰かに恨まれて刺されたんじゃ、と思っていた夜彦。
部屋はいつもながら綺麗にしてある。
鍵をかけていなのもいつものことだ。
全く、不用心だと言ってはあるものの、歩が言うには、盗まれるようなものはないとか。
諦めて自分の部屋に戻ると、狐と狸が何かをせっせと運んできていた。
「どーした?それ」
「「大変でェ!」」
「なんで江戸っ子?」
えっさほいさと運んできていたのは、どうやら餌食になったもの。
顔も身体もバラバラになったそれは、見覚えがあるような、無い様な。
いや、確実にあった。
「歩か。ついに恨みを買って・・・!」
「違うよー兄貴。きっとあの犯人ですぜ!組みたてれば元に戻ると思いやす!」
何故か、狐は夜彦のことを兄貴と呼ぶ。
「てぇヘんでェ!」
狸は慌てているわりには、楽しそうにあっちこっち走っている。
とにかく落ち着けと、夜彦は狸を制止する。
歩のパーツを持ってきたのは良かったが、なにせ三人揃って頭は弱かった。
一人の身体を完成させるのに、三日三晩どころではなく、一週間ほどかかってしまった。
「かかりすぎだ」
「第一声がそれか!このやろ!」
元に戻った歩は、三人を見て呆れる。
話を聞いてみると、とにかくいきなりスゴイ風が吹いてきたとか。
気付いたらもうバラバラになっていて、クルミが落ちていたようだ。
「やっぱりリスだ」
「リスなわけあるか」
部屋の隅では、狐と狸が珍しく真剣にうーんと頭を捻っていた。
「兄貴兄貴、もしかしたら」
「心当たりでもあんのか?」
「けどよぉ狐。あいつは動きが速すぎて、存在自体確認は難しいって話じゃあねぇか」
「?お前等誰のこと言ってんだ?」
そして、二人ははもった。
「「かまいたち」」
かまいたちとは、狐や狸も会ったことがないという。
それも、姿を見た者さえいないという。
それでも可能性があるならと、夜彦は一人で歩いていた。
何処に住んでいるのかもわからないまま、歩き続けた。
また狙ってくることを祈って。
その夜彦の狙い通り、嫌な空気が漂い、強い風が走ってきた。
「(きた!)」
夜彦はかまいたちを捕まえる体勢に入る。
ひゅんっと頬を掠めたり、着物が破れたりしたが、目が徐々に慣れてきた。
下に落ちていた枝を拾うと、風に向かって投げつける。
「キャッ!」
「(!?キャッ?)」
何処かに命中したらしく、風が一瞬緩んだ。
その隙に、夜彦はかまいたちを捕まえたのだった。
「えっと、犯人て、君?」
なんとも、可愛らしい少女だった。
怯えたような目で夜彦を見つめながら、小さくコクン、と頷く。
「こ、こちらです」
少女の家まで案内してもらい、今までのことを説明してもらった。
白い肌に真っ赤な唇。
大きな瞳に栗色の肩あたりまでの長さの髪の毛。
ふわふわしたイメージで、行動はおどおどとしている。
キャミソールに短パン、ロングブーツを履き、青いマントを背負っていた。
「どうぞ」
おまけに、鈴の鳴くような声。
めっちゃ可愛い。
夜彦の正直な印象であり感想だ。
紅茶を差し出された夜彦だが、正直紅茶とかどうでも良かった。
「えっと、なんで次々に人をバラバラにしていくの?」
なるべく優しい顔に優しい声色で話かけてみるが、びくっとしてしまう少女に対し、自然と口調まで優しくなってしまう。
小さい子を相手にしているように。
「す、すみません。その、私・・・」
かまいたち、と呼ぶのは可愛くないので、いたちちゃんと呼ぶことにしたそうだ。
いたちちゃん曰く、みんなとは仲良くしたいらしい。
だが、極度の恥ずかしがり屋で、挨拶しようにも勢いが良すぎて、気付いたら身体を切ってしまっていたという。
本当に申し訳ないと、今にも泣きそうになるいたちちゃんに、夜彦はすでにデレデレだ。
よしよしと頭を撫でながら、震える肩に触れた。
「じゃあ、練習しよう」
「れ、練習?」
部屋に連れて行くと、狐と狸はほー、といたちちゃんを観察した。
想像していた姿と違ったからだろうか。
「なんでェ。可愛い譲ちゃんじゃねぇか」
「兄貴、やりますねー」
二人を見ただけで、いたちちゃんは顔を真っ赤しに、逃げ出しそうになる。
半泣き状態でいるいたちちゃんに狸は握手しようと手を伸ばすと、恐る恐る手を伸ばしてきた。
指先だけがちょん、とついただけですぐにひっこめられてしまったが。
「よろしくなッ!譲ちゃん!」
「は、はい!」
ビュウッ・・・・・・
組みたてながら、思った。
「挨拶代わりに切られるたぁ、初めての経験だ」
「す、すみません!すみません!」
慣れさせる前に、皆切られるのではないかと。
歩にも事情を説明し、協力してもらうことにしたが、こう言われた。
「協力するのはいいが、ここにいる四人が全員一斉に切られた場合、そこにいる女だけで直せる保障はどこにもないだろ。だから俺は二階にいる。一週間に一回、無残なことになってねぇか確認しにくる」
「薄情な奴め。こんなに可愛い子を」
「確かに可愛い譲ちゃんだ。おれぁもっと若けりゃあなァ・・・」
爪楊枝を咥えながら、しみじみと狸は言っていた。
夜彦なんて、もう何度切られたかわからない。
数人の人と接することも初めてのようで、いたちちゃんは高熱で寝込んでしまった。
看病をしながらも切られ、切られながらも看病をした。
治ってもまた、切られるのだ。
「ふえっ・・・。やっぱり、私には無理なんです・・・!!友達が欲しいのに、絶対に出来ない!!!」
「へーきへーき。あとちょっとだよ」
「なんだか、譲ちゃんに切られるの慣れてきたな」
「面白い感覚ですね。あ、羊羹でも食べて落ち着きましょうか」
以前、粗大ごみから拾ってきた、まだ使えそうな冷蔵庫。
何をどうやって直したのかは知らないが、狐が使えるように修理してくれたらしい。
羊羹を取り出して均等に五等分した。
なんで五等分かと言うと、一応歩の分も入っている。
夜彦は相変わらずで、いたちちゃんの頭をずっと撫でていた。
狐が二階から歩を呼んできて、五人で羊羹をつまんだ。
「食べないんで?」
狐がいたちちゃんに聞くと、まだしょんぼりとしている。
一口で頬張った夜彦は、足を崩して寛ぎながらお茶を飲んだ。
「無理に友達なんか作らなくてもいいだろ」
歩が言った。
いつの間にか夜彦はいたちちゃんの背後に回って後ろから抱きついていた。
どさくさに紛れてどれだけ触るのか。
狐は正座でお茶を啜っているし、狸はすでに身体を横にして爪楊枝をいじっている。
怯えるように歩を見ているいたちちゃんに対し、歩は目を細める。
「そもそも、かまいたちっていうのはそういうもんだろ。孤独に生き、孤独に死んでいく。友達が欲しいなら、他のかまいたちでも探せば良い」
いたちちゃんのような女が苦手なのか嫌いなのか、そんな冷たい態度だ。
俯いてしまったいたちちゃんを気にせず、歩はお茶に手を伸ばす。
ズズッとお茶を啜ると、歩は立ち上がって部屋に帰ろうとした。
そんな歩の背中を、目をうるうるさせながら見ている少女がいることなど、分かっていないだろう。
「てか、もう俺友達だと思ってたけど」
「え?」
「・・・・・・」
自分よりも身体の小さないたちちゃんを抱きしめながら、夜彦が口にした。
その夜彦の言葉にいたちちゃんも驚き、首だけ後ろに向ける。
ニシシ、と歯を見せて笑う夜彦。
横では狸がごろごろと、たぽんたぽんのお腹を叩きながら盛大に笑っていた。
狐は狐で、コンコンとおしとやかに笑う。
二階へと帰ろうとしていた歩は思わず足を止めた。
「違ぇねぇな。俺達と譲ちゃんは、とっくにダチだ。じゃなきゃ、こんなに毎日毎日切られたくねぇってんだ」
「ほんにほんに」
「なっ?それに、こんなに可愛い女の子、放っておけるわけないっしょ。なんなら、俺と一生を共にする伴侶いでッ!!!」
調子に乗っている夜彦の頭を、狸のでかい尻尾で叩いた。
思いのほか痛かったのか、夜彦は後頭部をさすっている。
「ったく。こんないたいけな譲ちゃんに手ぇ出すたぁ、てめぇは男の中の男だな」
「だったらなんで叩いたんだよ」
キラン、と輝くような顔に、親指をグッと立てた狸を、今度は狐が成敗した。
狐はいたちちゃんにペコペコと頭を下げて謝る。
一方の本人は、あまりのことに思わず笑ってしまった。
すると、優しくポン、と頭に手が乗った。
「そうやって笑ってな。その方がうんと可愛くなるってもんだ」
そんなことを言われ、いたちちゃんは照れ笑いをした。
そのやりとりを見ていた歩は、はあ、と小さくため息を吐き、二階へと上がっていく。
「・・・本当に、お人好しだな」
この星に産まれてからというもの、周りに干渉してこなかった歩。
正直言うと、この星は“ゴミ箱”だと思っていたようだ。
その理由としては、自分を含め、ここに住まう連中はみな、産まれた星から追い出された邪魔者のように感じたからだ。
夜彦に言った、金を出してくれる気前の良いばーさんというのだって、自分の本来の星からの仕送りとも言える。
もしかしたら、自分をこの星に送ったことによる罪悪感からなのかもしれない。
一人で生きて行くには不自由なく、文句もない。
誰にも干渉さえされなければ。
歩が生まれる前に衝突してきた隕石があった。
星に直撃することはなかったが、空中分解したときに散らばった破片から出た何かの粒子の影響が母体に出たらしい。
産まれた時から、歩はおかしな力があった。
世間体を気にする両親は歩を手放し、この星へと飛ばしてきた。
本当のことも知らないし、興味もないが。
「・・・・・・あの馬鹿のせいで、俺の生活が乱れる」
ふと、夜彦のことを思い出す。
誰にでもどこにでも出しゃばっていく。
他人のテリトリーに土足で入り込むなど、とんでもないおせっかいな奴だと。
「はあ。めんどくせー」
言葉とは裏腹に、日常が退屈でなくなったのも事実だったが。
その頃、夜彦たちはまだ練習をしていた。
少しずつ、本当に微量ずつではあるが、なんとか他人に慣れてきたような気がする。
「あれ?」
「どした?狐」
ふと、狐が何か思い出したように口を開いた。
夜彦といたちちゃんを交互に見ると、首を傾げる。
「そういえば、さっき兄貴が抱きついた時は、平気でしたよね?」
「はん?そりゃあ、羽交い締めされてて、動けなかったんじゃねぇのかい?」
「それってつまり、兄貴には慣れてきたってことですよね?」
「・・・ってこたぁ!!!!」
「はい!そうです!!!」
何かに気付いたようで、狸は両手を天井に向けて雄叫びをあげた。
「俺も人間に化ければ、譲ちゃんに抱きつけるってことかーーーー!!!」
「違います」
べしっと狐に叩かれた狸だが、めげない。
「じゃーなんだってんだよ」
「順調にいってるってことです!この切られる練習が!もしかしたら、人間に化ければもっと上手くいくかもしれませんね!」
「やってやるぜー!!!」
いつにもなくやる気を見せた狸は、筋肉隆々の男へと化けた。
思った通り、いたちちゃんは驚いてしまった。
口を開けてワナワナと震えている。
「まずは女の子でどうでしょう?」
そう言って、狐がボンッと変化すれば、そこにはいたちちゃんと同じくらいの年齢の女の子がいた。
恐る恐る、目をギュッと瞑るいたちちゃんの手を握る。
ゆっくりと目を開け、自分の手に感じる他人の温もりを感じると、いたちちゃんは口を半開きにしてぽかんとしていた。
女の子がにこりと笑う。
「同性からの方が、慣れやすいでしょう?」
「ちぇっ」
狐の行動を見て、狸も女の子に化けた。
そして、誰よりも喜んだのは、他でもない夜彦であった。
「やっべ。選び放題」
自分の前にいる三人の可愛い少女たちに、夜彦は鼻の下を伸ばす。
狸の化けた女の子に触ろうとすれば、思いっきり殴られた。
狐の化けた女の子に触ろうとすれば、手加減なしに抓られた。
だからといっていたちちゃんに下心丸だしで触れようとすれば、狸と狐両方から挟み撃ちにあった。
仕方なく、夜彦は部屋の隅で見ていることにした。
きゃっきゃっと楽しそうに話している。
これがガールズトークというやつかと、頬杖をつきながらつまらなさそうに、唇を尖らせ拗ねていた。
陽が暮れる頃、いたちちゃんが夜彦のもとにやってきた。
「あ、あの」
「んー?」
眠いのか、目が細いままだ。
「ありがとうございます。あの、私のために、その、何度も切ってしまって・・・。それに、皆さんにも、ご迷惑を」
「はいはい、そこまで」
ぷにょっと、夜彦はいたちちゃんの頬を両手で掴んだ。
無邪気な子供のように笑う夜彦の笑顔は、張りつめていた何かを簡単に壊す。
がっちりと南京錠で閉ざされていた心の檻は、たやすく開く。
「・・・っふえ」
自分の意思とは関係なく溢れてくる涙を止めることは出来なかった。
泣きじゃくる背中を、いやらしく・・・いや、優しく夜彦は撫でる。
顔もぐしゃぐしゃにし、声を殺すこともなく。
「なんでェ。泣くなら俺の胸にしろってんだ」
「狸親父より月の王子様ってな」
「あん?てめぇ何言ってやがる」
勝ち誇ったように言う夜彦を、狸は悔しそうに睨みつけた。
夜彦たちは、いたちちゃんを連れて星を歩き回っていた。
それは、今までしてきたことへの謝罪をしたいからという彼女の願いで。
しかしまだ恥ずかしさは消えないようで、頭まですっぽりとフードを被ったままだが、理由を説明すると、許してくれたようだ。
殺されたわけではないし、何しろこんなに可愛い子だから、というのは夜彦の勝手な理由である。
それからというもの、なんとか握手であれば誰にでも出来るようになった。
うんと腕を伸ばし、指先をちょん、と触れるだけなのだが。
だが、夜彦にとってショックなこともあった。
それは、そんないたちちゃんを嫁にしたいという男が現れたからだ。
夜彦と狸は必死に、それはもう必死に止めていたのだが、二人は恋仲になったのだと狐から教えられた。
聞くところによると、容姿も良い男で、優しくてそれなりにお金もあるようだ。
狐が言うには、とにかく幸せそうだとか。
「・・・いつまでそうしてるんだ」
三人は、歩の部屋にいた。
夜彦は歩のベッドで横になっているし、狸は床でうつ伏せになっている。
狐は歩と一緒に紅茶を飲んでいる。
「儚かったな。俺の愛」
「それを言うなら、俺だな。てっきり譲ちゃんは俺に惚れてるもんだと思ってた」
「それはねぇな」
「いや、そっちこそねぇな」
「お前狸のくせに何人間の女の子狙ってんだよ。メスの狸口説いてろよ」
「てめぇこそ。あんな純情そうな良い子じゃなくて、不細工で器量の悪い女にでも声かけてりゃあいいんだよ」
「俺は化けなくても良い男だけどよ、お前は化けねぇとただの中年太りの狸だろうが」
「何言ってやがる。狸はそもそも中年太りなんだよ。俺に限ったことじゃあねぇんだ。俺限定じゃねぇんだよ、アホンダラ」
「俺なんてな、後ろからぎゅーってしたけど嫌がられなかったし、あの柔らかいほっぺだって触ったんだぞ」
「俺ぁな、てめぇとは違う、下からのアングルでじーっと、そりゃあもう熱い眼差しを送っていたんだぜ」
「俺のこと好きだったのに、きっと俺には手が届かねえと思って諦めたんだぜ」
「あんな熱い視線を向けられたのは俺だけだろうな。まったくこれだから女ってのは強がってていけねえな」
「いや、絶対そういうんじゃねぇから、お前の場合」
「ああん?それならてめぇのことだって好きじゃねぇっての。良い子ほど自分のことを押し殺しちまうもんだもんだ」
「勝手に妄想してろ。狸親父が」
「てめぇこそ勝手に恋に恋してろ」
「ばーかばーか。置物にされちまえ」
「くーずくーず。干されちまえ」
「五月蠅い」
くだらない口喧嘩を始めた二人の襟首をつまんだ歩は、窓を開けてベランダに吊るした。
ひゅーひゅーと足が宙に浮いている。
すぐに謝った二人だが、歩は完全無視。
「ほんに、仲がよろしいですね、お二人さん」
「黙れ狐。さっさと助けやがれ」
「嫌ですわ。歩兄さんを敵には回せませんって」
ぶらぶらしている二人を尻目に、狐はクスクスと笑った。
ルンルンと歩の元へ向かう狐の背中に、ぼそっと「転んじまえ」と狸が言っていたが。
「どうした、急に静かになっちまって」
「んー?ああ」
心もとない洗濯バサミに吊るされているからだろうかと思った狸だが、違うようだ。
紫色の髪の毛が靡くのを見て、涎を垂らす。
「涎を止めろ」
「ん?ああ、悪ィ悪ィ。芋みてーでうまそうだと思ってよ」
「芋と一緒にすんなっての。この高貴な色彩を」
ゆっくりと口元に綻びを浮かべた夜彦。
天気も良いし、今日みたいな日はのんびり日向ぼっこでもしたい。
それに何より。
「良い風だな」
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