ヒルダへの罰、そして

ここは古城、しかし内部は改修されて荘厳な一室。普段は使われない謁見の間。


数段の高くなったところに玉座が設てあった。その玉座の段はわりと広めだ。玉座の左右にローマ風の鎧を着た屈強な男が2人、槍を立てて仁王立ちし君主を守護していた。玉座には普段はスーツか白衣を着ているリヒャルトが白いきらびやかな軍装とマントをつけ鎮座していた。


玉座の下には、ヒルダが跪いていた。普段ヒルダは君主に対し跪かず、カーテシーの礼、つまり、ドレスの裾をつまんで片足を下げ軽く姿勢を下げる女性らしい礼が許されているが、今回ばかりはそうはいかない。ヒルダの背後には彼女の分身の2人の少女、そのさらに後ろにイザベラ、その斜め後ろにジークフリートが跪く。


「イザベラ殿に問う。貴公はヒルダ殿の配下が君命を違えて『幼虫』の殺害を図ろうとしたことを目撃したのだな?」


玉座から見て右の男がイザベラに問うた。


「え、あの」


「いいのよ、イザベラさん。本当のことを言って」


「あ、はい、その、ヒルダ様の分身エティエンヌが巨人の姿を取って、『幼虫』の殺害を目論みましたが、失敗に終わりました」


ヒルダの分身エティエンヌの所業などもうわかってはいるのだが、『純白の女王』にして威厳の女王ヒルダに罰を与えるにはそれなりの手続きが必要である。そのために、公式に確認しているのだ。これは一種の儀式だった。


「ヒルダ殿。貴公は王の右腕でありながら、何故君命を違えたのか?弁明を述べられよ」今度は左の男がヒルダに問うた。


「偏(ひとえ)に我が君の安寧がため。『幼虫』はやがて強大な王となり、我が君に牙を剥くに違いありません。我が至尊の君の御身を守ることこそ女王の最大の務め故」


「君命は絶対である。いかなる理由があろうと、たとえ妹君とて違えることは許されぬ」右の男が答えた。


「罰は覚悟の上にて。何なりとこのヒルダに罰をお与えください」ヒルダは深く頭を下げた。


「もう、本当に強情だな、ヒルダは。仕方ないなあ!それじゃ罰を与えよう。どれどれ」


リヒャルトは何やらゴソゴソと玉座の脇に置いてあった箱の中を弄った。


「あった、あった。これだ」リヒャルトは箱の中から白い布のような物を取り出した。


「我が君、それは?」厳しい罰を受けることを覚悟していたヒルダはそんな白い布でどんな罰を与えるのか訝しがった。


「これはだね!我が謹製の白バニースーツだ!お前の体のサイズは把握している。兄だからね。このバニースーツはお前にピッタリなはずだ。ヒルダ」


「え?え?」ヒルダは要領を得ず戸惑った。


「ヒルダ。お前に謹慎を命ずる。その間、このバニースーツを常に着ていること。外出の際も脱ぐことは許さん。謹慎期間中はお前の撮影会があるので、必ず出てこい。わかったな!」


「お、お兄様?ご冗談ですよね?」


「決して冗談ではない。これこそがお前への罰だ。さあ早くこれを着て我が兄に見せてくれたまえ。よく似合うはずだ。楽しみだよ」


「「ヒルダ殿、罰を受けられよ。これは勅命である!」」左右の男がヒルダを指して君主の裁定を再度ヒルダに伝えた。


「え?え? ええええ!!お兄様ああ!?」


「さあ、早くこれを着るんだ!悩ましいほどのハイレグカット、おへそのところがハートマークのようにくり抜かれていてチャーミングだ。威厳の女王なんて堅苦しい称号を脱ぎ捨て今こそ解放されるがよい、我が妹よ!」


「お兄さまあああ!いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


普段は冷静なヒルダが自身の体を抱いて、取り乱して叫ぶ。兄の妙な性癖は知ってはいたが、まさか自分がその対象になるなんて思いもしなかったのだ。見かねたヒルダの分身の2人の少女、リザとルイーゼが前に進み王に懇願した。


「「我が君、これはあんまりにございます。ヒルダ様は我が君の御為にどれほど」」


「なんだ、ヒルダ1人じゃ心配だって?大丈夫だ。君たちの分も用意してあるからね。お揃いだ。3人ともバニー姿で我がカメラの贄となりたまえ、ぐへへ」王はヘンタイだった。


「「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」」

2人は共に抱き合い、ヒルダに続いて悲鳴を上げた。


その取り乱す3人を見て、イザベラは心の底から思うのだった。あんな恥ずかしい白バニースーツを着るのが自分でなくて本当によかったと。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ヒルダの居室。


威厳の女王、のはずのヒルダは、兄から命じられた白バニースーツを着用していた。分身の2人の少女と共に。豪華な玉座に座りながら、恥ずかしさのあまり手で顔を覆っている。もはや威厳などどこにもない。お付きの2人の少女たちも立ちながら恥ずかしさで顔を伏せていた。着ているだけでも恥ずかしいというのに、さらに色々なポーズを取らされて写真に収められてしまったのだった。


これではしばらく外に出れそうもない。


そこに下手人、エティエンヌが虚空から登場した。


「あははははははははははは。いやあ、似合ってるね、3人とも」


「エティ!あなたが直接手を下したんでしょ?なんであなただけ罰せられてないの?」

「あんたも着なさいよ。もう一つ預かってるのよ。あんたが女の子になれるの知ってるんだから」


リザとルイーゼはエティエンヌに詰め寄った。


「やめてくれよ!暴力反対だ。ボクは女王様に命じられてやっただけなんだから」

「あなたもヒルダ様の分身でしょ。同罪だわ」

「無理矢理にでも着せてやるんだから!このクソガキ」


「やめなさい、2人とも!エティエンヌ、あなたに頼みたいことがあるわ」


「えーー、もう王様に逆らうのはやだよ」


「もう、『幼虫』を殺せとは命じないわ。ただ、監視してほしいの。『博士』が本当は何がしたいのかを」


「それはカエデちゃんに任せたほうがいいじゃないの?彼女はいったいどうしてるんだい?」


「言ったでしょ。今はカエデは動けないって。だからあなたに頼みたいの。あなたのその姿なら警戒はされないわ。力を使わなければ唯のニンゲンにしか見えないはずよ。たとえ『博士』でもわからないはず」


「わかったよ、ヒルダ様は結構人使い荒いよなあ。それじゃボクはこの辺で、お暇するよ」


「お願いね、エティエンヌ」


「はいはい、わかりましたー」そう言ってエティエンヌは虚空に消えていった。2人の少女に睨まれながら。

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