賢 vs ジークフリート
『深紅の女王』の二つ名を持つイザベラと配下の妖魔達は、第1妖精隊群の基地の演習場に降り立った。
ジークフリートは配下の妖魔に指示を出す。すると一匹の妖魔が折り畳んで持っていた赤い絨毯を地面に敷く。その絨毯の上にイザベラの分身、ジークフリートが敷かれた絨毯に手をがざす。すると、絨毯から赤い豪華な椅子が迫り上がり即席の玉座が完成した。
「女王よ、お掛けあれ」竜殺しの異名轟く強騎士ジークフリートは手を胸に当て頭を下げた。
「あら、気がきくのね」真紅の女王にして重力を司るイザベラは玉座に腰を下ろした。
しばらくして、この基地で最上位の自衛官である群司令山下空将補がジープに乗ってやってきた。運転しているのは、副官の山田くんだ。山下群司令と山田くんはジープから降りて女王イザベラの前へと進み出た。
女王を名乗る赤いドレスの女は、演習場の平らな場所に豪華な玉座を設け鎮座していた。妖魔の一匹が巨大な傘で女王を日照りから守り、他の妖魔が棒の上に飾りのついた赤い楕円体を刺したようなものを女王の側でかざしていた。おそらく女王の所在と権威を示す馬印みたいなものなのだろう。女王の側には例の鎧を着けた騎士が侍っていた。
女王は山下群司令を見るなりニッコリと微笑んだ。
「あら、貴方が指揮官さん?実物を見るの初めてだわ。渋くていい男ね。結構好みよ」女王は山下群司令に声をかけた。
「美女にそんなこと言われて光栄だよ。私がここの責任者の山下だ」
「私は女王。『真紅の女王』イザベラよ。それで、坊やの方は?」
「もう少し待ってほしい。この基地にはいなかったのでね。今向かっているはずだ」
「そう。早くしてね」
「あそこよ!」
突然空から声がした。荒川祥子の声だ。彼女が妖精隊員を引き連れて飛んできたのだ。妖精隊員たちは妖魔の軍勢と山下群司令を見つけると空から降り立ってきた。
「あら、子猫ちゃん達も来たのね」女王はニッコリしているが山下群司令は渋い顔だ。
「君たちにここに来るように命令した覚えは無いぞ」山下群司令は命令違反を責めるが、
「よう、じゃなかった、『袴田』司令の指示です」祥子は悪びれずに返した。
「全く陽子君には」と言いかけた時、女王の言葉が被った。
「お優しい指揮官さんは子猫ちゃん達には来てほしくなかったみたいだけど、私は歓迎するわ。あれ、でも…」
何か言い掛けたイザベラの声を遮り、祥子が口を挟んだ。
「あんたなんかに歓迎される必要なんかないわよ!このおばさん!」祥子はつい悪い癖で敵を挑発してしまった。
「口の利き方をわかっていない小娘ね」女王は右の眉を吊り上げて祥子を睨んだ。そして、カッと両目を見開いた。
その途端、
「え?え、何!」
祥子は自分の視界が急に低くなったことに戸惑った。驚いて周りを見ると、妖精隊員の皆んなが跪く格好をしていた。彼女はすぐに自分自身も跪いていることに気がついた。
「貴方達、自らを『妖精』だなんて可愛い名前で呼んでるそうだけど、中身は私の後ろの子達とそう変わらないのよ。この子達のこと妖魔とか呼んでるんでしょ?確かに見た目は化け物だけど可愛い子達よ。この子達は私の命令には絶対服従。当然、貴方達も私には絶対逆らえないのよ、どう子猫ちゃん達?」
「クソババアが…」祥子は思わず暴言を吐くが、幸い女王には聞こえていなかったようだ。
「1人、私の意志が通じない子もいるみたいね」
「え?」祥子は、この女が何を言っているのかと一瞬思ったが、妖精隊員きっての美少女にしてロリっ娘、高野藍がなんと棒立ちしていたのだった。
「え、ええ??」藍は訳がわからず混乱しているようだった。
あのクソ女が何をしたかわからないが、妖精の力に働きかけたに違いない。藍は妖精になって月日が浅いので返ってその能力が通じなかったのだろう。祥子はそう納得したが、納得している場合ではない。このままだと藍が危ない。この女に頭を下げるのは腹が立つが…
「藍、座って!早く!!」
「え?あ、はい!」藍は訳もわからず、だが祥子の言う通り膝をつく。それを見た女王はニッコリと笑い、
「そうそう、子猫ちゃんはそうやって従順にしてればいいの」
そう微笑む女王に、山下群司令が語りかけた。
「貴女がたは人知を超えた能力をお持ちだ。やろうと思えば世界を手中に収めることだって」
「世界を手中?お前達サルを支配するですって?なんでそんな面倒なことをしなければならないの?サルはサル同士好きなように争っててちょうだい。私達はそんなことに興味はないわ」
「じゃあ一体何が目的なんだ!」
「サル供がそんなことに興味を持つ必要はないわ」
その時、装甲車がこの場に乗り込んできた。装甲車は急停車すると中から、袴田陽子が降りてきた。
「陽子お姉ぇ!」
「陽子君!」
思わず山下群司令と祥子は2人して陽子の名前を呼んだ。山下群司令は勿論渋い顔だ。待機しろと言ったはずだ。しかし駆けつけてくれた娘も同然な彼女にどこか嬉しさも感じてもいた。
陽子に続き、袴田賢も装甲車から降りてきた。
「お兄ちゃん!!」跪いたまま祥子は嬉しそうに言葉を発する。
玉座に敵の女王、跪く妖精隊員達、陽子はこの光景にハッとするが祥子達が自発的にそんなことをする訳がないのできっとあの女王とかぬかしてる女が何かをしたのだろう。陽子は女王をキッと睨む。しかし女王は微笑んでるだけだ。
「やっとあの時の坊やが来たようね」
「あんたが敵の大将か?一体祥子達に何をした!?」
賢は女王の前にずかずかと歩み寄る。
「女王にその態度、無礼であろう、控えよ」
1人の戦士が賢の前に立ちはだかった。
「威勢のいい坊やね。ジーク、じっくり遊んで上げてね」
「は!女王の仰せのままに!」
戦士ジークフリートは賢の眼前に迫り、告げた。
「女王のお許しが出た。貴様の力量、試させてもらうぞ、小僧!」
そう1対1のファイトを宣言したジークフリートに山下群司令が異を唱えた。
「ケン坊、いや袴田賢は妖精としての訓練をほとんど受けてない。戦闘などやめてほしい!」
「ニンゲンの指揮官よ。その者は王への可能性を秘めた『幼虫』である。訓練など受けずとも闘い方を体が知ってるはずだ。貴殿の出る幕はない。下がられよ」
ジークフリートは山下群司令の要求を一蹴した。
「山下おじさん、俺は大丈夫だ。そいつの言う通りだ。問題ない」
「お前…。ジークとか言ったか?あいつはお前らにも重要な存在なのだろう?せめて手加減をしてほしい」
「男と男との勝負に口を挟むでない!とは言え、防具と武器を持ったままでは貴様との力の差が開きすぎるな」そういうとジークフリートは両手を広て叫んだ。
「キャスト!!オフ!!!!」
彼の鎧と剣が強く光る。賢は思わず目を背けた。しまった!いきなり目潰しか、賢は思ったが、一瞬の後、彼は上半身裸の姿となった。自らの筋肉を誇示するかのように。
「嫌あああああ、変態よーーー!!」
「あのひとバカじゃないの!?なんで裸になるの?」
ムキムキのジークフリートの裸を見せられた妖精隊員達は跪いた姿勢のまま騒ぎ出した!
「黙っておれ、小娘ども!筋肉こそが男の証!!貴様も裸になれ!」
「悪いけど遠慮しておく」
「なれと言っておろうに」
「もうジーク。ちょっとそんなことどうでもいいでしょ。目的を忘れたの?」
流石に呆れたイザベラはジークフリートを制止した。分身は本体であるイザベラの精神の一部、のはずなのだが、イザベラには筋肉をひけらかすような悪趣味はない。これを同僚の女王、アンネローゼにしゃべったら大笑いされそうだ。
「これは申し訳ござらぬ、女王よ…。兎に角、貴様の好きなように攻撃してくるがよい。我は自らの筋肉以外の『力』は使わぬ。安心して掛かってこい」
少しバツが悪そうに、ジークフリートは賢に攻撃を即した。
「バカにするな。舐めるなよ!」賢はなんとなくこんなやつなら倒せる、ような気がした。空手の心得なら少しはある。ねーちゃんに勝てたことは一度もないが、妖精の力を合わせればかなりの攻撃を喰らわせられるはずだ。賢は舐め切って動かない敵につかつかと詰め寄って突きを喰らわした。
はずだったがその瞬間ジークフリートが視界から消失した。
「え?」
「どこを見ておる?」そう言われた瞬間、首に手刀を喰らわされた。
「うがッ」堪らず賢は倒れた。一瞬異空間に逃げなければ首の骨を折って即死だっただろう。
「流石に基本はできるようだな。しかし今我は一切異空間での攻撃も防御もしておらぬぞ。ただお前の視界の外から攻撃を喰らわせただけだ」
「お兄ちゃん!」
「大丈夫だ、祥子」そう返すと、唾を吐きながら立ち上がった。
「未熟よな。もっと肉体を鍛えたらどうだ?」
「余計なお世話だ」
「まあ良い。今度は全力で来い。異空間での力を使うが良い」
「言われなくても!」そう言うと今度は足技を使おうとする。
「全く、そのような予測可能な攻撃など」
が、なぜかその足は逆側からやってきた。
「な!?」彼は咄嗟に飛び上がり、両手で地面を突いて飛び上がり、足から着地した。
「クソ、すばしっこいな、図体がデカいくせに」
「筋肉はないが『幼虫』にしては異空間の使い方が上手いとみえる… 次は我から行くぞ!」
ジークフリートが走って賢に向かってくる。彼の手刀がヒットする直前、賢は上に飛んだ。
「飛んだか!」ジークフリートも羽を出して上に舞い上がる。
真っ直ぐ上昇するジークフリートに真上に居たはずの賢がいきなり真横から飛んできた。
「ん!?」
しかし、賢の攻撃は当たらない。賢はジークフリートをすり抜けてしまった。
「筋肉だけで防御するんじゃなかったのか?」賢はジークフリートのいる方を向いて言った。
「今のは筋肉ではどうにもならんのでな。そうフェイント攻撃が何度も通用すると思うな、小僧」ジークフリートも賢の方を向いて言う。
頭上で繰り広げられる空中格闘戦を行う2人を、山下群司令を始め、袴田陽子も、跪いた妖精隊員もただただ呆然と見上げていた。
彼らの動きは物理法則なぞガン無視したものだった。あの筋肉ムキムキ上半身裸の変態妖魔の頭上を賢は飛んでいたはずなのに、いつの間に真横から水平に飛び込んできたし、さらにはその妖魔をすり抜けてしまった。おそらく妖精の力なのだろうが、通常の妖魔も、妖精もあのような闘い方はできない。そもそも賢はいつ戦闘技術を訓練したのだろうか?陽子は装甲車の中で賢と会話した内容を思い出していた。
「ねーちゃん、俺も闘うよ、きっと戦闘になる」
賢の宣言に陽子は異を唱えた。
「何言ってんの?そもそもあんた戦闘訓練なんて受けてないでしょ?」
「受けてないけど、なんとなく闘い方は教えてもらった気がするんだ」
「誰に?」
「わからないよ」
「わからないって…そんな曖昧な根拠で!昔からあんたはそんな根拠のない自信で痛い目見てきたのおねーちゃん知ってんだからね」
この時は陽子は心底呆れたが、あの賢の戦い方を見ると本当に誰かに戦闘技術を学んだように見える。しかし一体誰が?こんな短期間に?
呆然と見上げる人間達をよそに2人の空中での闘いはなおも続く。
「貴様、多少は『力』の使い方は知ってるようだが、これはどうだ?」そう言うと、ジークフリートは指をパチンと鳴らした。賢の側に突然黒球が出現した。その黒球に賢は引き寄せられる。
「これは!?」
「我が主人イザベラ様はこの宇宙の4つの力のうち、重力を司る女王であらせられる。我はその分身にして女王にその力の一部を賜った者。貴様を重力の虜にすることも自在よ」
ジークフリートは腕を前に突き出し、何かを払い除ける動作をした。
「がああぁああああああぁぁーー」
黒球が突然高速に動き出し、賢はその黒球の強い重力に引っ張られ、
地面に激突し、何度かバウンドして止まった。賢が落ちた側にジークフリートが空から降り立つ。
賢は通常空間から異空間に「浮いて」いるため地面の衝撃はそれほど伝わらない。ダメージとしてはちょっと高いところから落とされた程度だ。それでもしばらくは立てそうにない。激痛が体を襲う。
「貴様、本当に『幼虫』なのか?この程度の重力攻撃も打ち消すこともできぬとは」
「う、打ち消す?」そんな技は知らない。教わってない、気がする。
「小僧、貴様本気で闘っておらぬな」
「そんなわけないだろう!」賢は激痛に堪えてなんとか立ち上がって反論した。
「殺されないと油断しておるな。だから本気を出せぬのだ。確かに我らは貴様と小娘供を殺すなと命じられている。だが」
ジークフリートは指差した。その指の先には…
「ねーちゃん!?」ジークフリートは賢の実姉、袴田陽子を指差していた。
「小僧をこの場に連れてきたあの女、貴様にとって大事な者なのだろう?見ていればすぐわかる」
「何をする気だ!」
「こうするのだ」
ジークフリートがそう発言した直後、陽子は首を押さえてもがき出した。その首には漆黒の輪のようなものが巻き付いていた。
「何をしたんだ!今すぐやめろ!」
「あれは重力の首輪だ。異空間にあるゆえ、通常空間では文字通り真綿で首を絞めている程度のものだ。だが、徐々にその半径は小さくなる。あの女は後3分後に死ぬ。その代わり我に一撃を食らわすことができたら自動的に解除されるであろう。助けたくば全力でかかってこい!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「クソ!!」一刻の猶予もない。奴はおそらく嘘は言わないタイプだ。一撃でも食らわせれば本当にねーちゃんに仕掛けられた重力の首輪は消滅するだろう。
兎に角、賢はジークフリートに向かって突進した。
「幾度単調な攻撃をしようとも我には通じぬ。つくづく戦いのセンスのない小僧よな」
ジークフリートは掌を上に掲げる。今度は3つの重力球が出現した。重力球は瞬く間にハエのように賢にまとわりついた。賢は垂直に跳び上がった。
「逃げても無駄ぞ。学習せぬ奴め」
賢が逃げているのは3次元空間内だけではなかった。重力は異空間軸方向にはあまり伝わらない。異空間軸をずらせばあの重力球は躱せるはずだった。しかしあの球は異空間軸をも追尾してくる上、今度は3つもありうまく躱せない。3つの球に翻弄され、空中でぐるぐる回される。
一方地上では喉を押さえて苦しむ陽子をなんとかしようと山下群司令が慌てて駆け寄って漆黒の輪に触れようとした。しかし、
「うわ!!」
陽子に触れようとした瞬間、電撃のような衝撃が山下群司令の手に走り、痛みに思わず声を上げる。
「群司令!危険です、お下がりください!」山田くんが叫んだ。
「陽子お姉ぇ!クソ!動ければ!!」
パパ司令が無理でも妖精である私ならもしかしたらなんとかできるかもしれないのに。祥子はそう思った。
「ちょっと!あたし達の拘束を解いてよ!陽子お姉ぇが死んじゃうじゃない!」祥子は女王に訴えた。しかし、女王の答えは冷たいものだった。
「あなた達じゃどうにもならないわよ。大人しくしてなさい」
「じゃあ、あの首輪みたいなのをなんとかして!陽子お姉ぇは関係ないじゃない!」
「あの坊やの攻撃が私の分身に一撃でも当たればあの首輪は消えるわ。信じて待つことね」
まるで取り付く島もない。祥子は、悪態を吐きながら、坊や呼ばわりされた兄を探して空を見上げると、光の球に纏わりつかれて苦戦している様子が目に映った。
賢は纏わりつく重力球を振り払うことができずにいた。3つの球に散々に引っ張られ、体が軋む。もう時間がない。このままではねーちゃんが死ぬ。時間をもどすことができるならば… 時間?そういえば高校生の時、物理の先生が時間が逆に流れても物理の法則は変わらないとか言っていたっけ。
朦朧とする意識の中、賢は唐突に物理の授業の内容を思い出した。
もしかしたら、妖精の力ならば、時間を逆向きに、できるのか?全ての分子の軌跡を逆転させることはとてもできそうにない。しかし、いくつかの物の塊の軌跡を逆に辿るくらいなら、例えば纏わりつく重力球と「もう一つ」の位置を…
ジークフリートは空中で静止しながら重力球に揉まれる賢を見守っていた。この程度どうにかできないならば、『幼虫』と呼ぶにふさわしくはない。ならばいっそのことここで始末してしまった方が良いのではないか?君命に背くことになるがーー
「もう時間は残っておらぬぞ。こぞ」小僧と言いかけた瞬間、ジークフリートは辺りの風景が突然変化したことに気がついた。空中にいたはずがなぜか大地に立っていた。
「な!?」
何が起きたのか、確認する間もなく次の瞬間、凄まじい衝撃を受け、ジークフリートは吹き飛ばされた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
呼吸もできず、激しい痛みにのたうち回る袴田陽子は、朦朧とした意識の中で昔のことを思い出していた。
幼い日、賢と共に外で遊んでいたら、突然の轟音と共に家が燃えていた。妖魔の攻撃で焼かれた家にいた両親は焼死、お葬式では遺体の対面もさせてもらえなかった、幼い姉弟は親戚の荒川家に引き取られ、さらに幼かった祥子と暮らしてたあの日々。13歳で家を出て妖精になって妖魔を倒して多くの仲間を失って。ああもうすぐ私もあなた達のところに行くのね。祥子、賢をよろしくね。いいお嫁さんになってね。だけどもっと料理の腕を上げなければダメよ。
「ねーちゃん」
え、だれ?
「ねーちゃん!」
だから誰よ!
「ねーちゃん!!」
自分の呼ぶ声に目を開けると、草むらの上に寝かされ、横から賢が心配そうに呼びかけていた。
「賢?」
「ねーちゃん、気がついてよかった!ねーちゃん!」賢は泣きながら陽子の手を握った。
「もう、いつまでたっても泣き虫なんだから」賢の頬を優しく撫でながら、言う。すると、賢は陽子を両腕で持ち上げた。
「きゃっ!」
陽子は俗に言うお姫様抱っこを賢にされたのだった。
「ちょ!何してんの!?」不意にお姫様抱っこされてしまい焦る陽子。
「救護車まで運ばないとさ」
「もう!!2等空佐をお姫様抱っこなんて100年早いわよ!」
「はは。そんな憎まれ口叩けるようなら大丈夫そうだね」
恥ずかしくて陽子は耳まで真っ赤になる。でも、弟の胸板がこんなに大きくて厚かったなんて気がつかなかった。いつまでも子供だと思ってたのに。
陽子の無事を見て、跪いた姿勢のまま祥子が涙を流していた。しかし、賢にお姫様抱っこされているのを自慢げに、勝ち誇ったように祥子に視線を向けると祥子はふんっとばかり悔しそうにそっぽを向いた。
前言撤回だ。やはり祥子にはまだ賢を渡せない。賢は私の物。少なくともこの瞬間は。
賢は、陽子を救護車のところまで運んでいく。救護車から慌てて隊員が担架を下ろしてきた。
「あんた、油断しちゃダメよ。敵はまだいるんだからね」
「わかってるよ、ねーちゃん。やつらを許すわけない」賢は陽子を担架に寝かた。
「姉を頼みます」
「わかった。命に換えてでも」救護隊員は陽子を乗せた担架を救護車に入れ、急いで救護車に乗りこの場を離れた。
一方、蹴り飛ばされたジークフリートは痛む腕を抱えながら玉座の元に歩いてきた。
「みっともないわね。北欧の英雄の名が泣くわよ」
「面目次第もございません。女王」
「でもおかげであの坊やのデータが取れたわ。我が君もきっとお喜びよ」そして女王は玉座から立ち上がった。
「そろそろ帰りましょ。ジーク」
「は!人間ども!聞け!偉大にして尊厳なる女王の御慈悲は貴様ら虫ケラにすら施される!女王は、貴様らに命ながらえることをお許しになった。その大恩を永遠に忘れること許さぬ。そして女王のご帰還を首を垂れて見届けよ!」
玉座の傍に立つジークフリートは人間達に女王帰還の宣言をした。あまりに人間を見下した物言いに、賢は怒りに我を忘れた。あの女王を名乗る女のせいで、麓の集落に大きな被害が出たことをここに来るまでに聞かされていたのだ。
「ふ、ふざけるな!お前らのせいで何人死んだと思っている!?土石流で麓の集落が全滅したんたぞ!」
「や、やめろ、ケン坊!敵を刺激するな!」
「そうよ、坊や。命を大事にしなさいね。勅命だから仕方ないけど、私としては今のうちに抹殺した方がいいと思うのだけど」
「ボクも同感だよ、イザベラ様」
「誰!?」突然割り込んだ声にイザベラは驚き、声の聞こえた方向に振り向いた。そこには、いつの間にか、3メートルは有に越す緑色の巨人が立っていた。
目を細めて嗤いながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます