恐怖のエティエンヌ
「貴様!何奴ぞ?イザベラ様に向かってその態度、無礼にも程があろう?」
女王の騎士ジークフリートは当然のごとく誰何した。
「誰でもいいじゃん。ボクはボクの仕事をするだけだよ。ちょっと静かにしててくれる?」
巨人はジークフリートの誰何を無視すると、賢の方を向いて、
「やあ、君が『幼虫』だね?遠くから見てたけどさ」
そう言うや否や、巨人の姿が消えた。そして、
「ここで死んでくれる?」突然、賢の前に再び現れて、賢の腹をその太い腕で強力なボディブローを食らわした。
「ぐはああっ!」
たまらず膝を付いた賢に巨人はさらに渾身の蹴りを食らわした。しかしすんでのところで異空間の軸をずらしてかわし、腹を抱えながらも賢は空に飛び出した。
「逃げたって無駄さ」巨人も飛び上がる。
賢は、さっきジークフリートにやったように、「妖精の力」を使った。しかし、
「効かないんだよねぇ。生憎」
巨人は賢に追いつき、両手を組んで上からおもいっきり殴った。賢はそのまま墜落した。巨人も空から降りてきて、賢のそばにゆらりと歩み寄る。
「今『時間反転』をしてボクの位置を戻そうとしたでしょ?でもボクはさっき見てたんだよ。技が単純すぎるんで使えないよう簡単に『ロック』できてしまうよ。間抜けなジーク君ならともかく、そんなのボクに通用するわけないじゃん。つーか君、『ロック』すら知らないんだね」
一方、2人の闘いを呆然と見ていた騎士は、巨人の殺意が確固たるものであることに驚き女王に進言した。
「女王!彼奴めは『幼虫』を殺そうとしております。我が止めに!」
「やめなさい、ジーク!!」
「しかし、このままでは君命を違えることになりますぞ」
「あいつも『女王』の分身よ。それも我が君の命に公然と背こうとしている…。そんなことができる『女王』はただ1人」
「な!彼奴はヒルダ様の手の者!?」
ヒルダ・フォン・マインシュタイン。その二つ名は『純白の女王』。全ての妖魔達に君臨するリヒャルト・フォン・マインシュタインの実の妹にして他の女王すら跪かせる威厳の女王。組織運営がまるでダメな兄に代わり『城』を実質的に切り盛りする妖魔のナンバー2であり、君主の精神支配を受けないただ1人の存在。その意向に背くことは、君主に背くことよりも恐ろしい。そもそもヒルダの分身にはジークフリートでは歯が立たない。イザベラならどうにかできるだろうが、力の加減ができない彼女では『幼虫』を殺してしまうかもしれなかった。
巨人はジークフリートとイザベラをチラリと見、ニヤリと、嗤う。
「あやつめ!」
ジークフリートは憤った。あの巨人は、ヒルダを恐れるイザベラが手を出してこないと知っていて、『幼虫』を始末しようとしているのだ。腹立たしいが見ているしかない。
「さあて、いきなり全力を出したりすると強力なカウンターを喰らうかもと警戒してたけど、なさそうで安心したよ。早く帰りたいんでとっとと死んでもらうよ」
巨人は賢の頭を掴んで持ち上げた。賢はさっきの攻撃で気を失っているのかピクリともしない。
「殺しても時間を巻き戻して復活されたら困るからね。存在自体を消させてもらうよ」
袴田賢は絶体絶命だった。
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