断章: 特別情報官の居室にて
防衛省情報本部特別情報官のオフィスに2人はいた。1人はこの部屋の主である松本明宏、もう1人は彼の実質的な部下にして、妖精科学研究所主任研究員、高野藍の姉、高野美世だった。
「特別情報官、研究室の立ち上げも終わり、現在、『彼』の実験を兼ねた訓練が始まりましたわ」
「その、特別情報官って肩書きあまり好きじゃないんだけどねぇ」
「これは失礼しました。松本警視正」
「防衛省ってのは、なんというか、武骨者の集団でね、特に制服組は。どうも馴染めないんだよね。ま、それはともかく『彼』の様子は?」
「とても素直でいい子ですよ。我々の実験にも協力的だし」
「それはよかった。それで、所長の方は?」
「今のところ、怪しい動きは見られません」
「監視を怠らないでくれたまえよ。彼の存在自体、怪しいんだ。彼は妖精科学の世界的権威だ。妖精科学自体彼が創めたようなものと言っていい。南条所長は、瀕死の妖魔から分離した妖精虫が保管されていて、それが偶然ある少女に寄生する事故が発生し、そこから妖精学が発達したと言っているが、本当に偶然なのか?今回の『彼』への寄生も偶然なのか?怪しいにも程がある。所長は何かを隠しているに違いない。例の研究所の地下の『アレ』には参考になる情報しかなかったとしか言っていないしね」
「監視は続けております。しかし今のところ『彼』を意図的に研究所の特別警備隊員にしたという証拠は見つかっておりません。『彼』に辞令を出せる権限者に、所長と接触した者は見当たりません。所長が何かを隠しているという兆候も今の所発見できません」
「別に君の手腕を疑ってるわけじゃないけどねぇ、プロである我々にだって見落としがある。常にそのことを頭に入れておいてほしい。あ、あと山下群司令の動きにも注意をね」
「はい、心得ております」
「ところで、君は妖精隊員の高野藍準空尉の姉だったね」
「はい、正確には従姉妹なのですが、彼女の両親が亡くなったため、私の家で引き取って一緒に暮らしています」
「実は…娘が高野藍准空尉、藍ちゃんのファンでねぇ。今度サインを貰ってきてもらえないかな?」
「は?」
「最近、妖精部隊のドキュメンタリー番組をやってるだろう?それで娘が藍ちゃんに憧れててねぇ。適性試験では落ちてしまったので、妖精にはなれないんだけどね。すごく憧れてるみたいなんだよ」
「え、あの、藍に聞いてみます…」
高野美世は、本当は松本警視正がファンなのではないかと疑いつつも、とりあえず、適当な返事をしておくのだった。
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