分身エティエンヌ
『純白の女王』ヒルダは、自らの執務室にいた。そこに、2人の少女が闇から出現した。
「あら、リザ、ルイーゼ、お兄様は<すまほげいむ>とやらをやめたのかしら?」
女王の問いに、「右の少女」ルイーゼが答えた。
「我が君は、本日はげいむをお止めになると」
「本日は、ねぇ。少しぐらいならわたくしも何も言いませんけど、偉大なる我が君が、一日中お遊びになってるなんて示しがつかないわ。しかも猿共が作ったもので遊んでるなんて」
「ヒルダ様。我が君は、『幼虫』の様子を見てくるように、女王イザベラ様にお言いつけになりました」
『左の少女』リザが主人に報告する。
「そう」
分身の報告に一言答えると、ヒルダは豪華な玉座から立ち上がり、部屋の中をうろうろと歩き回った。そして
「エティエンヌ。おいでなさい」ヒルダはもう1人の分身に自分の元に出向くよう告げた。虚空から、10歳ぐらいの金髪の美少年がふわ、と現れる。
「はいはーい、女王様がお呼びとあらば、ジャジャジャジャーン!エティエンヌ参上しましたぁ〜♪」
おちゃらけた体で、手を胸に当て、足を下げて、中世の騎士のように礼をする。その主人をあまり敬っていない態度に、『右の少女』ルイーゼが苦言を呈した。
「エティエンヌ。それがヒルダ様への態度ですか?」
リザとルイーゼは鋭い眼光を少年に向けた。
「えー、ボクをこんなふうに作ったのは女王様だよ。女王様はね、へこへこされるのはほんとは嫌なのさ」
当の少年エティエンヌは彼女達の眼光にまるで動じない。
「それでも我らが主人。我が君すら威厳ある女王ヒルダ様には気を使っておいでなのですよ」
「やめなさい、ルイーゼ。確かにこういう風に作ってしまったのは私。大目に見てあげて」
女王にそう言われてしまえば、これ以上注意しようもなく、ルイーゼは不満ながらも、
「差し出がましい言上、お許しを」
と言うほかない。
「いいのよ、ルイーゼ。さて、貴方を呼んだのは」
「心配だから『幼虫』を見てきてほしいんでしょ。分身なんだから言わなくてもわかるよ」
「話が早いわ。そう、イザベラさんがお出かけになるから、こっそり見てきてちょうだい」
「てゆーか、カエデちゃんはどうしたの?ボクが行く必要ある?」
「カエデは今は動けないの。だから貴方に頼むわ。もし」
「もし?」
「もし、『幼虫』が実力が予想以上で、お兄様に届く可能性が少しでもあれば」
「殺してしまえって?そりゃ、我が君は怒るだろうねぇ〜」
「お兄様は危ない橋を渡り過ぎなの。お兄様は御身より、研究の成果の方が大事なのだわ。なれば我ら女王は何よりも第一にその御身をお守りすべきなのです」
「全く、君は、寝ても覚めてもお兄様だね。お兄様のためになりたくもない女王になんかなっちゃってさ」
「エティエンヌ、わかったなら早く行きなさい」
ヒルダは少し怒りを込めてエティエンヌに命じる。
「そうカッカしないでよ。ボク知ってるよ。ほんとはお兄様に可愛いって言って欲しくて、毎日美容体操してるんだよね!健気だよね」
「黙りなさい!女王の威厳を保つには美しさも必要なの!!早く行ってちょうだい」
「おお怖。全く素直じゃないなぁ。もっと素直にならないとそのうち後悔するよ。と、それじゃボク行くね。んじゃ」
エティエンヌは、お辞儀をして、闇に消えていった。
「あの子ったらもう、余計なことを」いつも彼は図星をついていて本当に頭にくる。
「ヒルダ様、あの子への制裁をお命じください。いますぐ殴ってきます」
「少しぐらい痛い目に合わないとわからないんだわ、あのクソガキ」
いつもは感情を見せないリザとルイーゼは珍しく怒気を込めてそう言うが、
「あの子は私の一部。もう1人の私だわ。認めたくないけど。だから、いいのよ」
「「ヒルダ様…」」少女は2人とも目を伏せた。
「他の女王はお兄様の命をただ実行するだけの存在。だけど私は…」
そして『純白の女王』ヒルダは祈るように手を組み、こう続けたのだった。
「どうかお許しください、我が至尊の君。例えその命に背いてでも、わたくしはその御身をお守りします。たった1人しかいない、この世で最も大切な、お兄様」
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