妖魔将への挑戦

「りか、さな、陽子お姉ぇの話聞いてた?」


荒川祥子は、南りか、堀田早苗に話しかけた。


「もちろんだとも、しょーこ。あの『妖魔将』とか抜かしてたおっさん妖魔を倒すんだろ、僕たちで」

「やりますよ、あの変態っぽい妖魔、絶対倒しましょう、先輩」


2人が答えた。荒川祥子の通信機に別の音声が入る。


「私も聞いていました。選抜隊を募ってあの妖魔の親玉を倒すのでしょう?第2中隊からは、私の他に数人出しますよ。早苗が出るんなら私も出るのは当然です」


声の主は堀田早苗の姉にして第2中隊長堀田あかりだった。「早苗」が会話の中に入っているのは相変わらずで、当の堀田早苗は呆れ顔だ。


ともかく、即席の選抜隊が素早く結成された。あまり時間はない。赤外線による目潰し作戦はそんなに長くは続けられない。妖魔達も段々と順応してしまい効果が薄くなってしまうからだ。


「陽子お姉ぇ、支援ヘリコプター隊の一斉攻撃をもう一度やってもらって。その隙をついてあいつに攻撃を仕掛けるから」


「わかったわ… ちょっと待っててね」


袴田陽子は、支援ヘリコプター隊に連絡し返答を得た。


「次に知らせるタイミングから30秒後に一斉攻撃するとの返事よ。準備して」


荒川達はタイミングを待った。合成音声で、タイミングが知らされた。


「攻撃30秒前です」


「皆んな、位置について。攻撃が始まると同時に飛び出すよ」荒川が指示を出す。


「しょーこ」 南りかが呼ぶ。


「何よ、りか」荒川祥子が尋ねる。


「この戦いに勝ったら、僕は賢さんに好きなおっぱいの大きさを聞くんだ」南りかがフラグめいたことを呟やく。


「あんた!こんなときになにいってんのよ!」荒川祥子が怒る。


「攻撃20秒前です」


「きひひ。こんな時だから言いたい。男はみんな大きいのが好きなのさ!賢さんだってその例に漏れない」南りかが自分の胸を自慢する。


「お兄ちゃんは小ぶりなの好きなの!あたしが小学生の時までいつも一緒にお風呂はいってたんだから私にはわかるの!」荒川祥子が爆弾発言をする。


「え!?どういうことよ、そのとき賢は中学生だったはずよ、後で賢を問い詰めなきゃ」たまらず袴田陽子まで通信に割り込む。


「まあ、私も荒川さんのお兄さんの好みを聞きたいですわね。私自身は早苗の小さいのが好きなのだけど」堀田姉があいからわず妹ラブを披露する。


「おねえちゃん、ほんとやめてよ、もう!」堀田妹は姉の言動を嘆く。


「攻撃10秒前です」


荒川祥子。「みんな行くよ!」


南りか。「奴の土手っ腹に穴を開けてやろうぜ!」


堀田あかり。「早苗、おねえちゃんに続きなさい!」


堀田早苗。「先に、早苗が出るもん!!」


そして、司令航空機から、妖精の力はもう使えないが、それでも同じ空に飛ぶ袴田陽子が号令を掛ける。


「やっつけちゃいなさい!皆んなのターンよ!!!」


「全機攻撃!」


支援ヘリコプター飛行隊からミサイルが「妖魔将」目掛けて発射される。同時に、4人の少女達が飛び出した。一気に間合いを詰め、全員両手をかざし、敵に向ける。その瞬間爆発が起こる。


「やった!!」


攻撃が成功した。奴を倒した。


はずだった。しかし、素早い動きで、爆風から何かが飛び出す。それは『妖魔将』だった。『妖魔将』は南りか目掛けて飛び出し、南りかの腹を殴った。


「ぐはあああーー」


たまらずりかは血と胃液が口から吐き出す。


「りかーーーーー!」祥子は南りかを助けるため、りかのそばに寄ろうとするが、『妖魔将』は、


「そらよ!!、返してやんぜェ!」と言い、りかを片手で荒川の方に投げた。


「きゃーーー!!」りかが祥子にぶち当たった。


堀田姉妹が叫ぶ。「荒川さん!」「先輩!!」


「みんな目を瞑ってぇ!!」 袴田陽子が叫んだ直後、再度支援ヘリコプター隊からミサイルが撃ち込まれた」


だが、


「きかねぇンだよ、そンな攻撃はよ。ったくうぜーなぁ!!」と言い、その数秒後、爆発が起こった。


ヘリコプターの1機が爆発したのだ。それに続き、次々と陸上自衛隊の支援ヘリコプター隊所属のヘリコプターが爆発した。全てあの『妖魔将』が破壊した。奴は凄まじい速さで動き回り、ヘリコプターを破壊して回ったのだった。


袴田陽子は、もう命令とは言えない叫び声を出した。


「みんな、逃げてぇーーー!」


しかし、逃げようとする妖精たちの通信に再び『妖魔将』が割り込んだ。


「おい、逃げてンじゃねえぞ!!逃げた奴から殺すからなぁ。ケケケケ。ところでヨォ、暗号変えたって無駄だっつーの。てめら下等生物の暗号なンてすぐ破れんだ、コラ」


「あんた、何者なの!?何が目的なの!?もう、もうやめてよ、こんなこと!私の仲間にもう手を出さないで」


袴田陽子の声は、完全に泣き声だった。その声を聞いた妖魔将が嗤いながら陽子に言い放った。


「おい、指揮官のねぇちゃんの声かぁ?いいねぇ、女の泣き声ってのは。もっといい声で泣きやがれよ、ああ!?」


「このゲス野郎!」


「あ、なんだって??」


「このゲス野郎って言ったのよ!このくそ妖魔!!」


祥子は、苦しむりかを空中で抱きしめながら、言い放った。


「女の子を痛めつけて、あんた変態なんじゃないの?最低にも程があるわ」


「ンだと、このアマ!てめえから痛ぶってやってもいいンだぜ」


「やれるもんならやってみなさいよ!」


「やめて、祥子!敵を挑発しないで!」袴田陽子が止めに入るが、もう遅かった。


「ケケケ。妖魔将を怒らすとは、いい度胸だな、ニンゲン如きが」


妖魔将はゆっくりと荒川に近づいてきた。


「さあて、どんなふうに、鳴くのかなぁ。下等生物でも、女の苦しむ顔ってのは興奮するんだよなぁ、キヒひひひヒヒひひひひヒ!」


顔のない妖魔は口だけで嗤った。大抵のものは、それだけで逃げ出すだろう。しかし祥子はなおも痛みに悶える南を庇いながら、キっと『妖魔将』を睨んでいた。


不意に、別の男の声が通信機に飛び込んできた。


「やめたまえ。君は仮にも『妖魔将』を名乗っていると云うのに、無抵抗の者を痛ぶるのかね?」


「ああん?誰だあ?」


一機のヘリコプターが妖魔将に向かってゆっくりと接近してきた。そして、声の主はこう続けた。


「私は、全妖精部隊を預かる群司令の職にある者だよ。私も『空将補』なんだ。同じ『将』同志、指揮官たる者がどうあるべきなのか、語り合わないかね?」

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