最終話「玄宗学園高校の楊貴妃」ー2

 玄宗学園高校では、新1年生の入学式当日の午後、新2年生、新3年生たちとの“対面式”が行われ、新入生代表の挨拶、在校生代表の挨拶などが執り行われた後、部活動紹介が行われるのが習わしとなっている。


 今年の部活動紹介のパフォーマンスで、全校生徒の興味関心をもっとも多く集めていたのは、玄宗学園高校のスクールカーストの頂点に君臨する、“カイザーKaiser”こと平野 皇一と、“女帝empress”こと高宮 楊華が陣頭指揮をとり、今年度より同好会から正式な部として認められた「もふネコ戦士エカチェリーナ部」であり、“もふネコ部”一同は、プロ顔負けのド派手なパフォーマンスで新入生たちはもちろんのこと、在校生徒の心をも鷲掴みにした。


 そして、“もふネコ部” に続き、生徒たちの注目を集めたのは、なんと、柔道部だった。簡単な部活動紹介の後に乱取りを披露する、という、地味な部活動紹介であったが、最後に、マネージャーである如月 妃美子が登場すると、欠伸をしていた男子生徒たちが一斉にどよめきだした。人前で喋るのが苦手な妃美子は緊張のあまり、


「私を、インターハイに連れで行っでください!」

 と、うっかり茨城弁で喋ってしまったのだが、それが、かえって男たちの“萌え心“ をくすぐり、体育館内には、此処彼処から「尊い!」という声が飛び交った。


 そんなわけで、柔道部部室前には、仮入部希望の男子生徒たちが長蛇の列を成し、整理券を配布するという異例の措置が取られた。


 しかし、妃美子目当てで仮入部した男子生徒たちは、インターハイ出場を目指す、柔道部のストイックな練習に耐え切れず、次々と脱落し、結局、正式に入部したのは5人だった。いずれも実力者揃いだったため、部長である強羅は、


「これで、俺たち3年が引退した後も、玄宗学園高校柔道部は安泰だ」

 と言って、嬉しそうに微笑んだ。


 6月中旬に行われた地区予選で、玄宗学園高校柔道部は、団体戦では、惜しくも全国大会への出場切符を手に入れることができなかったが、個人戦では66kg級で藪塚やぶづか選手が、90kg級で強羅が、全国大会への切符を見事手に入れた。そして、8月中旬に実施された全国大会で、強羅は、見事、3位入賞という快挙を成し遂げ、強羅 剛が率いる玄宗学園高校柔道部3年生たちの……そして、密かに強羅に想いを寄せる妃美子の夏が終わった。

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