第13話「楊貴妃のアフタヌーンティー」ー3

 貴衣が用意してくれた、円城寺えんじょうじ家のお抱えシェフ特性のアフタヌーンティーセットは、今まで妃美子が食べたことのないような高級な味がした。キャビア、フォアグラ、ローストビーフ……サンドウィッチと言えば、ツナかタマゴかハムだと思っていた妃美子の常識を覆す高級食材が、パンとパンの間にたっぷりと挟まっていた。


(キャビアって、生まれではじめで食べだなあ……あまり美味しくねえってきいでだけど、このキャビアは塩気がぢょうどよぐで美味しいなあ。本当のごとを話したら、2人に呆れられぢゃうがなあ?  でも、これ以上、大好ぎな2人を騙し続けるわげにはいがねえ。もう、ちぐはづがねえって、決めだんだ!)


 妃美子は、キャビアをゴクンと飲み込み、アールグレイで喉を潤し大きく深呼吸をすると、意を決したように、対面に座る2人に向かって話し始めた。とても大切な人の為に織物を紡ぐかのように、一言一言に愛を込めて。


「私ね、今、生まれて初めて『キャビア』を食べたの……」


 2人は、妃美子が何を伝えようとしているのか解らないといった表情をしていた。妃美子は話を続けた。


「私ね……2人に今まで嘘吐いてたの……うちの父ぢゃ……パパが、株式投資で成功して、未上場のベンチャー企業に投資している有名な投資家だ、なんて言っちゃったけど、本当はうちね、株は株でも違う株……『かぶ農家』なんだあ。住まいもね、都内の高級タワーマンションの最上階に住んでるなんて大嘘なの。茨城から、片道2時間かけて電車で通学してるの……2人の家柄があまりにもすご過ぎて、私、卑屈になって、つい、嘘を吐いちゃったんだ。私って、案外見栄っ張りなんだなあって気付いて、すごく虚しくなったよ……今回の事件はね、身から出た錆なんだあ。犯人の茂無もぶくんはね、『楊貴妃のお戯れ』の犠牲者で、ずっと、私のことを恨んでた。そして、私の後をつけたりして、私が嘘を吐いてたことを知って、そのことをネタに私を脅してきたの……自業自得だよね……『悪いごとは絶対にするな! お天道様は、みーんな見でっからな! 絶対に隠し通すごとはできねえし絶対にバチが当だるんだ』って、うちの父ぢゃんが言ってた……嘘吐いてごめんなさい……」


 そう言って、妃美子は2人に頭を下げた。真珠のような涙が一雫、ティーソーサーの上に落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る