第13話「楊貴妃のアフタヌーンティー」ー1

 高貴な至極色しごくいろを基調とした簡易応接セット、マホガニー材で作られたと思われる流れるような赤褐色の木目のテーブルの上には、純金で作られたと思われるアフタヌーンティースタンドが鎮座し、高級食材をふんだんに使った美味しそうなサンドウィッチや、焼きたてのブリティッシュスコーン、宝石のように煌めく色とりどりのスウィーツたちがセンス良く配置されており、妃美子は、夢でも見ているのではないかと思い、ほっぺたをつねってみた。


「痛っ!」


「もうっ! 何やってるのよ、妃美子―!」


 楊華の凛とした声が教会の鐘の音のようにこだました。2人のやりとりを見ていた貴衣がくすくすと笑った。


 そう……ここは、高級ホテルのラウンジ……


 ではなく、玄宗学園高校の屋上。


 昨日、「もふネコ着ぐるみ襲撃未遂事件」が起こった場所とは思えないほど、長閑のどかで優雅な時間がゆっくりと流れている。


「妃美子様、珈琲になさいますか? 紅茶になさいますか?」


 高級そうな黒のスーツを身に纏った、貴衣の執事の神無月さんが、スマートな立ち居振る舞いで妃美子に尋ねた。


「てぃ……ティー、プリーズ!」


 日常とかけ離れたゴージャスな雰囲気に動揺した妃美子は、思わず、英語で答えてしまった。すると、神無月さんは、にっこりと微笑み、


「英語の発音がとても綺麗でいらっしゃいますね」

 と言いながら、妃美子のティーカップに香り高いアールグレイを注いだ。


「ヨウカサマー、スクリーンハ、コノヘンデOK?」

 と、楊華の護衛のアナスターシャが、ゴージャスな薔薇の花が描かれたロココ調の衝立を肩に担ぎながら楊華に訊いた。楊華は、右手の親指と人差し指で作ったオーケーサインを、アナスターシャさんに見えるよう、右手を高く掲げた。薔薇模様のウインドスクリーンに囲まれた空間は、北風が吹き抜ける灰色の屋上から一転して、中世ヨーロッパ貴族たちの社交パーティー会場のような華やかな雰囲気に包まれた。

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