第12話「My Friends」ー4

「強羅は、帰らねえの?」


「おめがイヤじゃなぎゃ、送ってぐ。近所だしな」


「うん。じゃあ、そうする! ありがと……」


 会話がないまま、2人が正門を出ると、来訪者用駐車場に見慣れた軽トラが停まっていた。強羅は、軽トラの方を指差して、


「あれ、おめんちの父ぢゃんと、母ぢゃんじゃねえが?」

 と言った。


「あっ! ほんとだ!」


 2人の姿に気付いた父が、鬼のような形相でこちらに猛ダッシュしてきた。


「おめか? うぢの妃美子ひみごを苦しめでだのは?」


 小柄な父が、大柄の強羅に掴みかからんばかりの勢いで詰め寄った。その絵面は、さながら、月の輪熊に襲いかかろうとするチワワのようであった。妃美子は、慌てて、


「違うの! 父ぢゃん! 強羅は、私を助げてぐれだの!」

 と言った。


 猪の如く軽トラから飛び出して行った父を追いかけて来た母が、父を取り押さえながら言った。


「ちょっと、アンタ! 早とぢりしてるんじゃねえわよっ! 彼は“ 強羅農園 “のどこのつよしぐんじゃねえの! 剛ぐんが、妃美ぢゃんを苦しめるわげねえべ?」


 母に取り押さえられて、冷静さを取り戻した父は、強羅の方を見て、


「あれ?  強羅農園の次男坊じゃねえか? しばらぐ見ねえうぢに大ぎぐなったなあ」

 と言った。先ほどまでの鬼の形相は何処かへ飛んでいってしまったらしく、いつもの呑気で陽気な父の顔に戻っていた。


「もうっ! 父ぢゃんの早どぢりには呆れで物が言えねえわよ! 剛くん、うぢの父ぢゃんがごめんなさいね」


 母が申し訳なさそうに、強羅に頭を下げた。


「強羅、ほんと、ゴメンね」

 と、妃美子。


「ほんど、面目ねえ……」

 と、父。


 如月家一同に謝られた強羅は、思わず吹き出した。


「大丈夫ですよ! 自分、無駄に体がでげえし、顔もいがづいんで、お父さんが勘違いしたのも無理がねえですよ。気にしねえでぐださい!」


 夕陽に照らされながら、温かい笑顔を浮かべる強羅を見て、妃美子は、ポッと頬を赤らめた。


「良がったら、乗って行ぐが?」


 父は、駐車場に停めてある軽トラを指差して、気障っぽく言った。


「それはいいけど、アンタ、誰が荷台に乗るの?」


 母が父に尋ねた。


「そうだなあ……母ぢゃんが運転して、妃美子ひみごが助手席に乗って、俺ど剛ぐんが荷台に乗るが?」


 父が提案すると、


「そうね……それがいいわね」

 と、母も父の意見に賛同した。皆、特に、異論も無い様子で駐車場に向かい歩みを進めたが、妃美子だけは、その場に立ち尽くしていた。そのことに気付いた母が振り返って、


「どうしたの? 妃美ぢゃん、帰るわよ」

 と言った。妃美子は、スカートの裾をギュッと握りしめながら、


「ちょっと待っで! 私、荷台に乗りたい! 強羅ど一緒に荷台に乗る!」

 と言った。3人は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

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