第12話「My Friends」ー3

 楊華は、妃美子と貴衣の頭をポンっと優しく叩くと、茂無の方へとツカツカと歩いて行った。


「ちょっと、アンタ!」


 茂無の前で腕組みをして仁王像のように立ちはだかる楊華の圧に気圧され、茂無は、


「ヒイッ!」

 という情けない声をあげて、後退し、へなへなと蹲った。


「アンタが、うちの妃美子にしたことを私は許さないっ! でも……“楊貴妃のお戯れ”で、アンタを含めた沢山の男たちを弄び傷つけたことはサイテーだと思っているわ」


 そう言って、楊華は、長い脚を折り曲げ、地べたにつけると、


「ごめんなさいっ! もう、このような悪趣味なゲームは二度としません! 日を改めて、1人ずつ謝罪に行くつもりよ」


 そう言って土下座をした。


「待って! 楊華! それなら、私も同罪だわ!」


 貴衣は、執事の神無月が止めるを制止して、楊華の横に並んで土下座をした。妃美子も貴衣の横に並んだ。


「もうっ! 皆さん、お顔を上げてくださいっ! ボクだって、妃美子ちゃんに最低なことをしたんですっ! もう充分ですからっ!」


 茂無はあたふたして、そのまま卒倒した。


「ふうっ……まったぐ……世話が焼げるやづばっかしだな」


 卒倒した茂無を片手でヒョイっと担いだ強羅に、アナスターシャと神無月さんが話し掛けてきた。


「今日は、貴衣お嬢様のご学友を助けてくださり、本当に、本当にありがとうございました」


 神無月さんは、深々とお辞儀をした。


「アナタガデシャバラナケレバ、アタシガ、カッコヨク、ヨウカノフレンドヲタスケテタンダカラネ!」


 どうやら、アナスターシャはかなり負けず嫌いの性格のようだ。


「アナスターシャさん、今回は、私たちの負けですよ! 茂無様がバタフライナイフを振りかざした瞬間、強羅様は、気配を消しながら、かつ俊敏に茂無様の後ろに回り込み彼の腕を掴んだ。私たちは強羅様より出遅れた……強羅様がいらっしゃらなかったら、妃美子様の可愛らしいお顔に傷がついてしまっていたかもしれません。素直に負けを認めて、彼に感謝しましょう! そして、初心にかえって、日々鍛錬致しましょう!」


 アナスターシャは、ロシア語で、何やらブツブツ呟いた後で、強羅に、


「アリガトウゴザイマス! コンド、アタシトショウブシテクダサイ!」

 と言った。強羅は、思わず吹き出した。


「いいですよ! プロの護衛の方と試合が出来るなんて、光栄です! いつでも受けて立ちますよ!」

 と言って、顔をクシャクシャにして笑った。


「あっそうそう! 強羅様! 茂無様のことは私たちにお任せくださりませんか? もし、よろしければ……妃美子様をご自宅まで送っては頂けないでしょうか? あんなことがあったばかりですし、妃美子様も、同郷の強羅様になら心を開いていらっしゃるようですし……厚かましいお願いなのは重々承知しております。どうか、お願いできませんでしょうか?」


「そんなに畏まらなくても、如月がイヤじゃなきゃ、そうするつもりでいたし、俺は構いませんよ」


「ありがとうございます。心から感謝いたします」


 神無月さんは、執事らしい優雅な所作で強羅にお辞儀をした。


「モブオハ、アタシタチニマカセナ!」


 アナスターシャは、強羅が担いでいた茂無を、無駄のない動きで取り上げながらウインクをした。


 なかなか妃美子から離れたがらない、楊華と貴衣を、神無月さんとアナスターシャが説得し、屋上に残ったのは、妃美子と強羅の2人だけになった。

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