第12話「My Friends」ー2

「2人とも、もういいだろう?」


 そう言いながら、強羅は妃美子と茂無の肩をポンっと優しく叩いた。


「強羅、ボクの凶行を止めてくれて、ありがとう! 君が止めてくれなかったら……今頃ボクは……取り返しのつかないことをしてしまっていただろう……でも、どうして、こんな時間に屋上に居合わせたんだい?」


「先週から、オマエの様子がおかしいことには気付いていたんだ。俺は毎朝、柔道部の朝練でかなり早くに登校しているんだが、毎朝、オマエが2年3組の下駄箱の前ですごい形相をして突っ立っているのが、どうにも気になってな。3組の柔道部仲間に誰の下駄箱なのか訊いてみたら、如月だって教えてくれたよ。如月は、この学校で唯一の同中出身でな、家も近所だ。先週いっぱい病欠していた如月が今日、登校していると聞いたのでな、今日1日、オマエの行動を注意深く観察させてもらった。トイレでオマエが妙な着ぐるみに着替えてどこかに向かって行ったので、申し訳ないが尾行させてもらった、というわけだ」


「そうだったのか……ありがとう! 強羅! この恩は一生忘れないよ!」


「気にするな! クラスメイトを助けるのにいちいち恩など覚えてもらっていたらキリがない! そんなもの、お茶漬けと一緒にサラサラと胃に流し込んで忘れてしまえ!」


 そう言って、強羅は豪快に笑った。屈託のないその笑顔は、燦々と降り注ぐ太陽のように、妃美子の心をポカポカと温めた。


「強羅……ありがとう……本当に……ありがとう!」


 緊張の糸が途切れた妃美子の瞳から嬉し涙が流れた。


「外見は随分ど派手になったようだが、中身は変わってねえんだな!」


 強羅が妃美子を茶化した。


「ちょっと、それ、どういう意味よ?」


 妃美子は、餌を頬張ったハムスターのように頬を膨らませた。


「オマエは、何でもかんでも、ひとりで抱え込み過ぎだ。オマエはもっと、周りの人だぢに頼っべきだ。きっと、仲間だぢもそう思ってるんじゃねえのか?」


 強羅は、給水タンクの上を指差して言った。


 そこには、帰宅した筈の楊華と護衛の“アナスターシャ”と思われるロシア系の金髪美女、そして、貴衣と、執事の“神無月さん”と思われる黒スーツに身を包んだダンディーなイケオジが、4人並んでこちらを心配そうに伺っていた。


「えっ? どうして? 2人とも帰ったんじゃないの?」


 妃美子は目をまんまるにして驚いた。


「『どうして?』じゃないわよ! バカ妃美子! どうして、私たちに相談してくれないのよ?」


 相変わらず、良く通る声で楊華が叫んだ。


「そうよ!  私たち親友でしょ? こんな事態になるまで何も相談してくれないなんて、悲しいじゃないっ!」


 貴衣が、薄っすらと涙を浮かべながら言った。


 楊華と貴衣は、給水タンクの梯子から降りて、妃美子のところまで駆け寄り、妃美子をギュッと抱きしめた。


「良かった……無事で良かった……」


 楊華は、まるで子猫を撫でるように、妃美子のピンク色の髪を優しく撫でた。貴衣は、わんわん声を上げて泣いている。

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