第12話「My Friends」ー1

「おいっ! 強羅! 手を離せよ! 俺は、コイツに弄ばれたんだっ! 絶対に許さない! この女の顔に傷を付けてやるんだ! コイツは顔だけの性悪女だっ! その可愛い顔に傷を付けたら、この女には何も残らないんだ! ゴミだ! コイツはゴミ屑以下の女なんだっ! コイツの顔に、ボクの心に刻まれたのと同じくらい深い傷を付けてやるんだっ! 邪魔するなよ!」


 ひょろメガネ男は、強羅に掴まれた腕を振り払おうと必死で抵抗するが、ピクリとも動かない。


「もう、やめるんだ、茂無もぶ! 確かに、如月がオマエや他の男たちにしたことは、人として最低だ。オマエが憤る気持ちもわかる……でも、もう、そのへんにしておけ! 如月も自分がしてきたことを反省しているんだ。男なら許してやれ! 惚れた女なら、なおさら許してやれっ!」


 茂無もぶは、強羅に抗うことを諦めたのか、バタフライナイフを握る手の力を緩めた。その瞬間、強羅は、茂無からナイフを取り上げ、地面に置き、右足で地面と平行に遠くへと蹴り飛ばした。


「愛していたんだ……本気で愛していたんだ……ボクみたいな、何の取り柄もない非モテの陰キャが、玄宗学園高校の“楊貴妃トリオ”の一角を担う妃美子ちゃんに相手にされるわけがない……そんなこと……ボク自身が一番良く解っていたよ。それでも、あの日、妃美子ちゃんに呼び出されて告白された時は……本当に……本当に嬉しかったんだ……こんなボクでも、諦めずに生きていれば……こんな奇跡みたいなことが起こるんだって……まるで夢でも見ているようだったよ……」


 茂無の目から涙が溢れた。茂無の心の痛みがダイレクトに妃美子の心に伝わってきて胸が張り裂けそうになった。


 妃美子は、ゆっくりと態勢を立て直し、地べたに正座をした。そして、茂無に向かって話掛けた。


「茂無くん、下の名前を教えてください」


 妃美子は、優しく微笑んだ。茂無は、妃美子の天使のような微笑を見て頬を赤らめ、視線を下方に逸らしながら、


「茂無……茂無 良太もぶ りょうたです……」

 と言った。


「茂無 良太くん……あなたの心を、こんなにも深く傷つけるようなことをしたことを、心から反省しています。謝って許されることじゃないのはわかっています。でも……私には謝ることしかできないから……本当に、本当に、ごめんなさい!」


 そう言って、妃美子は地面に額をつけて土下座をした。


「いいよ……もう、顔を上げてよ! ボクも妃美子ちゃんに酷いことをしてごめんなさい! ボク、どうかしてたんだ! 好きな子をこんなに怖がらせるなんて……最低だ!」


 茂無も地面に顔を擦り付けて土下座をした。

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