第11話「やっと会えたね」ー2

「そんなに、怖がらないでよー。ひみこちゃんが、ボクのことをちゃーんと愛してくれさえすれば、ボクは、ひみこちゃんを傷つけようなんて、これっぽっちも思っちゃいないんだよー。でもね、もしも、ひみこちゃんが、ボクのことを愛してくれなかったら……」


 着ぐるみの中から、嗤い声が聴こえてきた。


 ククッ……うふふふふ……ウフッ、アハっ、あはははははははははははははははは!!


「その時は……ボク、どうなっちゃうんだろう?」


 妃美子の瞳から涙が溢れてきた。


「やだなあ……泣かないでよー。アッ! でも、泣き顔もかーわいいねえ」


 そう言いながら、着ぐるみは、一歩一歩ゆっくりと妃美子に近付きながら望遠レンズ付きのカメラで妃美子の写真をカシャカシャと何枚も撮っている。


「これはレアなお宝写真だぞ。ボクの部屋のいちばん良く見える場所に飾ってあげるからねえ……」


 そうこうしているうちに、とうとう、妃美子の目の前に着ぐるみが到達した。


「あ……あなたは、誰なの? ……どうして、こんな酷いことをするの?」


 絞り出した声もまた、恐怖で震えていた。


「酷いこと?」


 着ぐるみの中から殺気が漏れ出していた。


「酷いことをしたのは、オマエの方じゃないかっ!」


 大声で叫びながら、男は着ぐるみを脱いだ。中から出てきたのは、玄宗学園高校の制服を着た気の弱そうな顔をしたヒョロヒョロと痩せ細ったメガネ男だった。


「反応が薄いなあ……やっぱり、ボクのことなんて憶えていないんだね。君にとって、ボクは“楊貴妃のお戯れ” ……オマエの暇潰しの玩具おもちゃなんだもんね……玩具の名前なんて、いちいち憶えてるわけないよねえ?」


「ご……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」


 妃美子は泣きながら何度も謝った。


「ボクのこと好きだって言ったくせに! 付き合ってくださいって言ったくせに! オマエは、マヌケにも、オマエの告白を信じて卒倒したボクを見て笑ったんだ! 大勢のギャラリーの前で恥をかかせて楽しんでいたんだ! ボクは、入学式の日から君のことを、ずっと、ずっと、ずっと、君のことだけを見てきたのにー! オマエは、ピュアなボクの心を弄んだんだ! 愛してたのに! 本気で愛してたのにーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

ゆるさ……ない……絶対に、ゆるさなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!」


 男は、制服のポケットからバタフライナイフを取り出し、足がすくんで動けない妃美子の頭上からナイフを振りかざした。


(父ぢゃん、母ぢゃん、兄ぢゃん……楊華、貴衣……ごめん。酷いごどするど、自分にがえってくるんだね……ありがとう、サヨナラ……)


 妃美子は、目を瞑った。


(ん? まだ、刺されてない?)


 そっと目を開けると、ナイフを振りかざした男の手首を、後ろからガッシリ掴む大男が妃美子の視界に入ってきた。


「ご……強羅ごうらげ?」

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