第7話「罪と罰」ー1

 翌朝、いつも通り遅刻ギリギリで登校した妃美子は、下駄箱に入れられた10通程のラブレターを雑に取り出した。玄宗学園高校に入学した当初は、下駄箱に入り切らないラブレターが、まるで、長期間海外旅行で家を空けたために玄関ポストに入り切らずに斬新な生け花状態になってしまった一人暮らしの会社員のアパートのようになっていたのだが “楊貴妃のお戯れ” を始めてからというもの、ラブレターは激減した。それでも、妃美子のことを諦め切れずに毎日こうしてラブレター攻撃をしてくるメンタルが鋼の輩も存在する。


(いい加減、諦めたらいいのに……)


 妃美子は、自分の部屋の押入れいっぱいに放り込まれた未開封のラブレターの山を思い浮かべ憂鬱な気分になった。


 いつものように、手紙の差出人の名前をザッとチェックした。ほとんどが見飽きた名前だ。


 そして、最後の11通目の封筒を手に取った時に、妃美子は、その封筒が発している禍々しいオーラに当てられ思わず身慄いをした。その封筒には、どこにも差出人の名前は書かれておらず、その代わりに、赤字で、


――捨てちゃダメだよ! ちゃんと開けてね! 妃・美・子 ちゃん。


 と書かれていた。


 始業のチャイムが鳴り止むのとほぼ同時に席に着いた妃美子の顔からは血の気が引き青ざめていた。


「如月! 如月 妃美子!」


 出欠をとる、担任の美ヶ原うつくしがはら先生のイケボで、妃美子は我に返った。


「は……はい……」


「どうした? 如月? 体調悪いのか? 顔色悪いぞ」


「ご……ごめんなさい、先生……ちょっと朝から体調が優れなくて……ちょっと保健室に行ってもいいですか?」


「私、保健室まで付き添うよ! マジ、妃美子、顔色悪過ぎだし!」


 楊華の透き通った声が教室中に響き渡った。


「高宮、オマエじゃダメだ!」


 美ヶ原先生が、負けじとイケボで応戦してきた。


「えー? どうしてぇー?」


「オマエ、1限目の現国の小テストサボる気だろ?」


「そ……そんなこと……ない、し……」


 両親の仕事の関係で、海外での暮らしが長かった楊華は現国や古典の授業が苦手なのだ。


「円城寺! 付き添ってやれ!」


「はいっ!」


 学年トップクラスの成績を誇る貴衣は、先生からの信頼も厚いようだ。


「ありがとう!」


 喉もとまでせり上がってきた言葉を、妃美子は必死で呑み込み、


「大丈夫です! ひとりで行けます!」

 と言った。


 本当は、今回の件を楊華と貴衣に相談したかった。怖くて怖くて泣きそうだった。それでも、今回の件は、自分ひとりで解決しなければならないと思った。


(これは、私自身が蒔いた種。やっと “本当の恋” に出逢えた2人を巻き込むわけにはいかない!)

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