第6話「妃美子の秘密」

「おーーーい! 妃美子ひみごー!」


 正門を出て、最寄駅までの道をトボトボと歩いていると、妃美子の後方からよく聞き慣れた声が聴こえてきた。妃美子は、周りに玄宗学園高校の生徒がいないことを念入りに確認してから、“如月農園きさらぎのうえん” と車体に書かれた白の軽トラの方へと歩みを進めた。


 運転席の窓を開け、嬉しそうに手を振っている気の良さそうなオッさんに、妃美子は、


「お父さん、学校の近ぐでは話しかげねえでって言ったべ?」

 と言った。


「そーだごど言ったって、妃美子ひみごの帰りが遅いがら心配して迎えに来だんだよ。妃美子ひみごは可愛いがら、変な男にストーカーでもされでだらどうすっぺって心配でさー。まあ、とりあえず、乗れ!」


 妃美子は軽トラの助手席に乗り込み、玄宗学園高校周辺を走り抜けるまで、外から車の中が見えないように身を屈めた。そんな妃美子のことなど御構いなしという感じの父は、カーステレオのボリュームを上げ、


♪ 俺らこんな村いやだ〜 俺らこんな村いやだ〜

 東京へ〜出るだ〜 ♪


 と陽気に歌っている。


  “玄宗学園前駅“ 南口を通り抜け、10分ほど軽トラを走らせると、さすがに人影もまばらだった。車窓からちょこんと顔を覗かせ、再度周囲を確認した妃美子は、緊張感から解き放たれ、ほっと胸を撫で下ろした。


 その時、妃美子は、暗闇に紛れてカメラのシャッターを切る、パステルブルーのもふネコ戦士の着ぐるみに身を包んだ怪しげな者の存在に気付くことができなかった。


「みーちゃったー、みーちゃったー♪」


 もふネコ戦士の着ぐるみの中から漏れた声は、狂気に満ち溢れていた。

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