第4話「高宮 楊華」ー3
昼休みの出来事は、あっという間にSNSで玄宗学園高校全域に広がり、放課後の屋上にはゴミのような人集りができていた。じりじりと灼けつくような陽の光が灰色のアスファルトの温度を上げ、足元に熱を帯びた淀んだ空気が纏わりついた。
約束の15時30分はとっくに過ぎていた。高飛車な高宮 楊華が、約束をすっぽかされるかもしれないという前代未聞の大スクープを心待ちにする報道関係者さながらの期待感と緊張感とで、ギャラリーのテンションが高まっていくのがひしひしと伝わってきた。
約束の時間を過ぎること、15分46秒。
「もうっ! 平野くん、遅―い! 来ないかと思って、楊華、泣きそうになっちゃったんだからぁ」
楊華は、美少女フィギュアのように整った切れ長の美しい瞳をウルウルさせながら言った。この勝負に賭ける、超絶美少女としての楊華の意地とプライドが伝わってきた。妃美子は、汚らしい野次を飛ばす愚民たちの間に挟まれながら、楊華が逆転勝利することを祈った。
「僕をこんなところに呼び出したのは、あなたの方でしょう? 僕だって、そうそう暇じゃないんですよ。あなたは、僕が約束の時間に遅れて来たことを快く思っていないようですが、あなたは、今までに、人との待ち合わせの時間に遅れたことは一度もないというのですか?」
今まで異性にちやほやされながら育ってきた楊華は、目の前の得体の知れない生き物の言動にたじろいでいるように見えた。
「うーん……ないことはないけどぉ……」
どこをどう見ても、楊華の劣勢だった。
「それで、大切な話というのは何ですか? 僕は、焦らされることが大嫌いなので、手短にわかりやすくお話していただけますか? 今日は『もふネコ戦士 エカチェリーナ』のテレビ放送があるので、早めに帰宅したいのです!」
平野の言葉を受けて、楊華の表情が険しくなった。
「平野くんは、“玄宗学園高校の楊貴妃“ と呼ばれている超絶美少女の私の大切な話より、そのわけのわかんないテレビアニメの方が大切だって言うの?」
「ふふっ。愚問ですね。『もふネコ戦士 エカチェリーナ』は僕のヒーリングであり、どんな宝石よりも大切な宝物です! “もふネコ” を愚弄したあなたは、私の中で万死に値する大罪を犯したも同然! 許すまじ!」
先ほどまで、大声で汚らしい野次を飛ばしていたギャラリーが一斉に口を噤み、瞬時に場内は静寂に包まれた。
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