第4話「高宮 楊華」ー1
黒崎 翼と付き合うようになってから、貴衣は、以前にも増して綺麗になった。前よりもよく笑うようになったし、なんて言うか、愛されている女の余裕が感じられるようになった。
当然、「楊貴妃のお戯れ」なんて悪趣味のゲームに興じる必要がなくなった貴衣は、二度とゲームに参加することはなくなった。相思相愛の仲になったとはいえ、ターゲットに本気で惚れてしまったのだから、ゲームとしては “負け” だ。しかし、“お戯れ” の中で本気になれる男と出逢えたのだから、事実上は、貴衣の勝ち逃げということになる。
スマホで「楊貴妃のお戯れ戦績表」の管理をしている楊華は、貴衣の画面を開き、“黒崎 翼” のチェック欄に花マルスタンプを押しながら、
「妃美子、どうする? 私たちの無敗記録はまだ続いているけど、2人で続きやる?」
と尋ねてきたので、妃美子は、
「そうだねえ……どうせ暇だし、やろっかぁ」
と、覇気のない声で答えた。
「じゃんけんポーーーーん!」
楊華が「チョキ」を出して、私は「グー」を出した。この時深い意味もなく出した「チョキ」が、その後の楊華の人生を思い切り左右することになるとは、本人は勿論のこと、妃美子も、1ミクロンたりとも思っていなかった。
「ターゲットは誰にするー?」
楊華もまた、妃美子に負けず劣らず覇気のない声で訊いてきた。
「うーん……そーだねえ……」
妃美子は、スマホで、楊華と共有している「楊貴妃のお戯れ戦績表」の “ターゲットリスト” と書かれた画面を高速スクロールで送りながら、チェック欄がブランクになっている男子生徒を探した。すでに、8割方バツ印が点けられた中から適当なターゲットを探すのはそれなりに面倒な作業だった。
「あっ! 存在感薄過ぎて見落としてた! コイツにしよう!」
「誰?」
「
楊華は、首を傾げた。
「誰、それ? 何組の男?」
「うちのクラスだよ!」
「平野? そんなヤツ、うちのクラスにいたっけ?」
妃美子は、廊下側の一番後ろの席に座っているビン底メガネをかけた男を指差して、
「ほら、アイツだよ! なんか、いつも、休み時間にアニメだか何だかの本ばっかり読んでるオタクっぽいヤツ!」
「ふーん……まあ、誰でもいいけどね。私、負ける気しないし。今度は、少しは楽しませてくれる男だと退屈凌ぎになるんだけどね」
「さすが、楊華! 余裕だねっ!」
そう言うと、楊華は、スラッと伸びた長い脚を組み替えながら、ふふんっと鼻で笑った。
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