第3話「円城寺 貴衣」ー3
泣きながら、1年3組の教室に戻って来た貴衣を見て、楊華と妃美子は、彼女に駆け寄った。
「どうした、貴衣? 黒崎に何か酷いことされた?」
楊華が貴衣の頭を撫でながら言った。
「ねえ、この勝負、やめにしない? きっと、黒崎ってヤツ、サイコパスかなんかなんだよ。ターゲット変えようよ、楊華」
おとなしそうに見えて気の強い貴衣が泣いている姿を、妃美子は未だかつて見たことがなかった。
「うん……ごめん……私、黒崎がそこまでヤバい奴だとは思ってなくて……この勝負はなかったことにしよう」
楊華が言った。
「……ない」
貴衣がしゃくりあげながら言った。
「えっ?」
楊華と妃美子の声がシンクロした。
「私、やめない。黒崎のこと諦めない……絶対に振り向かせてみせるっ!」
貴衣の言葉に、楊華と妃美子は驚きを隠すことはできなかった。そこまで、貴衣が黒崎に固執する理由がさっぱりわからなかったからだ。
翌日も翌々日も、貴衣は昼休みのチャイムとともに1年6組の教室へと足繁く通った。
「ねえ、楊華、いつも冷静な貴衣が、あんなに黒崎如きにムキになるなんて、おかしいよねえ? なんかあるのかなあ?」
妃美子は、タコさんウインナーを食べながら、楊華に言った。
「うーん……私にもわからんわあ。よっぽど、あの子のプライドが傷ついたんじゃない? それか、黒崎という得体の知れない男にビビッとくるものがあったのかもねえ」
楊華が言った。
「案外、この悪趣味なゲーム、最初に抜けるのは貴衣かもねえ……」
と、妃美子は呟いた。正直、貴衣のことが羨ましかったのだ。妃美子は、心の奥で、このゲームを終わらせてくれる王子様が現れることを無意識に願っていたのかもしれない。
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