第3話「円城寺 貴衣」ー1
「楊貴妃のお戯れ」のルールは至ってシンプル。
ジャンケンで負けた者がその日の主演女優で、ジャンケンに勝った2人が相手役の俳優を選ぶ。演目はいつも同じ。主演女優が相手役の男に偽りの愛の告白をして、男が落ちたところで終幕。
この茶番を観るために、昼休みの学校の屋上には、毎日、熱狂的な
「ジャンケンポー―ん!」
「グー」が1人に、「パー」が2人。この日の主演女優は貴衣に決まった。この日「グー」を出したことが、貴衣の人生を大きく変えることになるとは、本人は勿論のこと、楊華と妃美子も微塵も思っていなかった。
貴衣の相手役には、1年6組の
「今回のターゲット、ちょっとチョロ過ぎないかしら?」
貴衣が形の良い唇を尖らせながら言った。
「あー、でも、逆に難易度高いかもよ?」
「どういうこと?」
「本来ならさ、この手の陰キャのヤツらって、とっくに、消えてるはずなのよ」
楊華は『楊貴妃のお戯れ戦績表』をスマホ画面で確認しながら言った。戦績表には、数えきれないほどの男子生徒の顔写真と名前、クラス、簡単な情報が記載されており、チェック欄には赤いバツ印がついていて、殆どの
「それが、未だに残ってるってことは、それなりの理由があるってことなのよ。貴衣、黒崎 翼は、危険因子よ! あまり、舐めてかからない方がいいわ! ヤバいと思ったら、即、引いて!」
楊華の言葉を聞いた貴衣の心に真っ赤な炎がともった。
「面白いじゃない! 世の中に、私に夢中にならない男なんているはずないもの!」
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