第2話「楊貴妃のお戯れ」
楊華、貴衣、如美子は、モテることに慣れ過ぎて、退屈を通り越して苛立ちを感じていた。
毎朝、下駄箱にはラブレターがぎゅうぎゅう詰めに入っていたので、それらを取り出して靴を入れるスペースを確保することに無駄な労力を強いられたし、休み時間や昼休み、放課後には、教室の前に男子生徒がゴミのように群がっていたので、生徒たちや先生たちの通行の妨げになるとの苦情が殺到し、校長先生に呼び出され厳重注意を受けたこともあった。3人の存在を面白く思わない女子生徒から陰湿な嫌がらせを受けることも日常茶飯事になっていた。
「私たちは、見世物小屋の動物じゃねえんだよっ!」
最初にブチ切れたのは、楊華だった。
「確かに、今の状態が続いたら、素敵な王子様との出逢いを逃してしまいそうな気がするよね」
貴衣が言った。
「私、上履き盗まれるの、これで30回目なんだけど……」
あの頃の妃美子のお小遣いは、すべて上履き代で吹っ飛んでいた。
この会話に聞き耳を立てていたクラスの女たちは、「ザマアミロ!」とでも言いたそうな顔をして、口元に歪んだ笑みを浮かべていた。
「逆のことをしてみたら、面白そうじゃない?」
楊華が、嬉々とした様子で言った。
「逆のこと?」
「今、私たちは、見世物小屋の動物状態でしょ? 逆に、私たちが、見世物小屋を作ればいいのよ。見世物になる動物を選ぶ権限は私たちにあるってことよ。どう? 面白そうじゃない?」
貴衣と妃美子は、楊華の提案に大賛成した。今考えると、あの頃の3人の精神はかなり歪んでいたのかもしれない。兎にも角にも、後の玄宗学園高校に伝説として語り継がれることになる「楊貴妃のお戯れ」という悪趣味な娯楽は、こうして誕生したのだ。
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