第1話「妃美子の回想録」ー3
「あらら……逃げられちゃった」
楊華は、悪びれもなくそう呟くと、今度は、
「ねえねえ、円城寺と如月――! ちょっと話あるんだけど、今いいかなあ?」
と呼び掛けてきた。
(えっ? まさか、私も喧嘩売られるの? 勝てる気しないんだけど……)
貴衣も如美子と同じようなことを思ったのか、お人形さんのような色白な肌が若干青褪めているように見えた。
「こっち来て、来てー!」
楊華は、先ほど追い払ったモブ女3人組とモブ男が不在になったため空きができた席に私たちを手招きして呼び寄せた。こうなってしまっては、もはや、貴衣と妃美子に拒否権はなかった。
貴衣と妃美子が、先ほどまでモブ女たちが屯ろっていた机を挟んで合い向かいにちょこんと腰掛けると、モブ男の机から降りて来た楊華は、モブ男席の椅子を私たちの方に持って来て、
『
「ねえ、円城寺と如月は、“ピュアサラ” 読んでる?」
「もちろんっ!!」
先ほどまで楊華にしめられるんじゃないかとビクビクしていた妃美子の不安は、宇宙の彼方に吹っ飛んでいた。
「私も、神無月に頼んで、こっそり拝読しているわ」
貴衣が言った。
(“神無月” って誰?)
妃美子の心中を察したかのように、楊華が貴衣に尋ねた。
「円城寺、“神無月”ってだあれ?」
「私の執事よ」
(はっ? “執事”? 最近流行りの漫画かなんかの影響かな?)
「“執事”? まじウケる! 円城寺って、お嬢様なんだあ! あっ! でも、私にも一応護衛は付いてるよー。“
「えっ? “
「へえー、如月良く知ってるねー。そうだよー。“かなりん” は私の姉だよ!」
楊華は、“ピュアサラ” をペラペラと捲り、専属モデルの人気投票の結果のページを開いて机の上に置いた。“高宮 華奈” は2位だった。
「あららー、かなっち、サラちゃんに負けちゃったねーーーアイツ、人気投票負けるとギャンギャン泣くから面倒臭いんだよねー。今日は彼氏んち泊めてもらおうかなあ……ま、その話は置いておいて……本題なんだけど……」
楊華は、さらにページを捲り「ジャーン!」という効果音を奏でながら、机の上に雑誌を置いた。そのページには、
――『Pure Salad』創刊6周年記念! 特別企画!
仲良しJK3人組の可愛いフォトと動画を大募集!
人気投票でグランプリに輝いた3人組は、『Pure Salad』10月号で巻頭特集を組んじゃいます! ドシドシ応募してね☆――
と記載されていた。
「これ、この3人で応募してみない?」
楊華が言った。
妃美子は考えるまでもなく、二つ返事で受け入れた。貴衣は少し思案をしてから、
「写真や動画の撮影は放課後にやるの? 門限時間に間に合うように帰れば問題ないと思うわ。一応、神無月には相談してみるけど」
と言った。
「じゃあ! 決まりってことで!!」
こうして、3人は一緒に過ごす時間が多くなった。そして、見事、特別企画のグランプリに輝いた3人は、学内外を問わずちょっとした有名人となり、誰が呼び出したのかは知らないけれど、各々の名前 “
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